焔漿龍の行方
雷を纏った台風が洞窟内の壁を崩す。ギシリと、次々と壁にひびが入り、悪寒を感じさせる破壊音が洞窟内を支配する。しかし、そんな物よりもっと恐ろしい物が洞窟内に存在した。それは一人の少女。破壊の根源とも言える少女は笑みをこぼし、笑い声を漏らしていた。
「レーナさん...?」
弱弱しい獣人の少女の声が届く。悪魔のような少女はその声に一瞬固まったが、崩れる洞窟と共に物凄い崩落音が轟き、少女と獣人の少女の間に大きな岩石が落下してしまった。
「ふぅぅ...馴染みのあるドラゴノイドだと言っても、ガキの身体じゃこんなもんか...」
その声を最後に、少女はその場で倒れ込んでしまった。辺りに落下する岩石を気にも留めず、大きく両手を広げ横たわるその姿は儚く、幻想的であった。
「レーナさん!しっかりしてください!!レーナさん!!」
「グルルゥゥゥァァァァ!!」
妙に心を落ち着かせる二人の声が届く。二人は焦っている。そんな事は聞いてれば分かる。でも、そんな声でも、私の心は落ち着いた。
月曜日の憂鬱感に似た何かを感じながらも、私はゆっくりと瞳そのを開けた。
「レーナさん!!」
「グルルルルァァァァァァ!!!」
瞳に涙を垂らした少女と、両目を湿らせた竜。登り切った日がそんな光景を強く主張させ、私は戸惑いの色を隠せないでいた。
「ヒューリさん?ロス?」
未だに状況の整理がつかない私の口から発せられた言葉は当惑としていた。
「レーナさん!良かった!!岩に埋もれてて、もう助からないかもしれないと!」
ヒューリは泣き叫び、それに続いてロスも鳴き声を上げる。
私は何が起こったのか掴めないまま、徐に起き上がり、彼女を両腕で包み込んでやった。私は、彼女やロスに心配かけてしまった事を深く反省し、その理由について考え始めた。
私の中にある一番新しい記憶は焔漿龍と戦っていた時だ。〖断罪之光〗で大打撃を与えられる事を知って...それから、急に体が熱くなって...思い出せない。
あれからどうなったのか、全く思い出せない。辺りを見渡せば瓦礫の山、ヒューリの発言から考えるに、私はこの瓦礫に埋もれていた事が予想できる。
どうやって私が瓦礫に埋もれて生き残れたのかは考えないとして、あれからどうやってこの状況に陥ったのかを考察しよう。
先ず考えられるのは、デルラジア山、焔漿龍の祠の崩落。もしあの焔漿龍が馬鹿みたいに暴れまわったのだとしたら、山崩壊なんて全然あり得る。
もしくは転移されたか。あの男は妙なスキルをいくつも持っていた。その中に対象を転移させるスキルがあってもおかしくない。
ここで気になってくるのが敵の生死。後者の場合なら確実に生きてる事になるが、前者なら死亡している可能性が高い。経験値取得通知はまだ聞いてないけど、半日くらい気絶してた訳だし、聞きのがした可能性は十分にある。
そう考えた私は自分に意識を集中させ、〖ステータス閲覧〗を発動させた。
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名前:『レーナ・ヴォン・アルフォード』
種族:ドラゴノイド
状態:通常
年齢:6
ランク:B
LV:37/90
HP:235/354
MP:468/504
攻撃力:407
防御力:215
魔法力:469
速度:378
装備:〖アルフォード家のワンピース:価値C-〗
魔王スキル:
〖竜神:Lv1〗
通常スキル:
〖カタルシス語:Lv5〗〖宝岩樹:Lv3〗〖氷結界:Lv3〗〖流氷塊:Lv3〗〖鋼鉄塊:Lv3〗〖死滅霧:Lv3〗〖治癒光:Lv3〗〖常世闇:Lv3〗〖獄炎柱:Lv3〗〖火炎牢獄:Lv3〗〖轟風砲:Lv3〗〖濁流線:Lv3〗〖奔流:Lv3〗〖マナスラッシュ:Lv5〗
耐性スキル:
〖衰弱耐性:Lv2〗〖貴族耐性:Lv1〗〖水属性耐性:Lv7〗〖恐怖耐性:Lv6〗〖物理耐性:Lv7〗〖苦痛耐性:Lv7〗〖落下耐性:Lv6〗〖火属性耐性:Lv7〗〖雷属性耐性:Lv7〗〖風属性耐性:Lv7〗〖闇属性耐性:Lv7〗
特性スキル:
〖鑑定:Lv7〗〖念話:Lv7〗〖飛行:Lv6〗〖土兵創生:Lv2〗〖氷刃乱舞:Lv2〗〖断罪之光:Lv2〗〖竜人化:Lv2〗〖湧水源:Lv6〗〖炎熱空間:Lv6〗〖天候支配:Lv6〗
称号スキル:
〖神の卵:Lv--〗〖剣聖の娘:Lv--〗〖吞気なお嬢様:Lv2〗〖竜王の加護:Lv--〗〖稲光:Lv6〗
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以前確認した時から全く変わっていない。相手はBランク超上位モンスターだ、倒して1レベルも上がらない経験値量しか取得出来ないなんて事はないだろう。つまり生きている。あの魔王候補とか言ってた男は分からないが、少なくとも焔漿龍は生きている。
となると転移説が高くなって来たな、焔漿龍が生きてるならこんな無防備な私をみすみす見逃すような事はしないだろうし。
「レーナさん?どうしたんですか?」
気づくと少し落ち着き、両目を拭いていたヒューリが少し心配そうな顔で、私を見つめているのが目に入った。
「ヒューリさん、ここどこだか知ってる?」
「何処って...龍神様の祠ですけど...」
「へ?」
どうやら私は的外れな考察をしてしまっていたようだ。ここはデルラジア山、転移させられた訳ではない。しかし、それだと大きな疑問が残る。焔漿龍の居場所だ。全く経験値が入って来ていないという事は焔漿龍は確実に生きている。いや、確実に、という訳ではない、ただ可能性はかなり高い。数値にすると、99%くらい。残りの1%は、第三者の手によって殺られた可能性。
私の攻撃を受けて状態が大出血になったし、そこら辺の魔物にはあの防御力を破る事は出来ないだろうけど、お母様レベルの人が近くにいたとしたら...
「ヒューリさん、あの男と焔漿龍は...」
私は恐る恐る重くなった口をゆっくりと開き、ヒューリに確認の言葉を送った。
「え?倒したんじゃないんですか?龍神様ごと...?」
私は自分の考察力の無さをやっと自覚し、普通に彼女に事の顛末を聞くことにした。
彼女曰く、焔漿龍の祠をぶっこわしたのは私らしい。彼女はなんとかロスに連れてかれて崩壊に呑まれずに済んだらしいけど、焔漿龍とグレゴリーがどうなったかの確認は出来なかったみたいだ。少なくとも彼女達が使った出入口からは出てこなかったらしいけど、彼女の知る限りでは他に出入口など存在しない為、やっつけたのではないかと考えたみたいだ。
まぁ普通に考えたら、彼らは死んでいると言う結論に至るだろうな、彼女のように。でも彼らは生きている。〖ステータス閲覧〗で確認できた私の経験値量がそれを語っている。それだけではない。決定的な物ではないが、さっきから悪寒を感じるのだ。
「ヒューリさん、一旦里に帰りましょう。いつまでもここに至ってしょうがないですし、少し嫌な予感がします。」
「嫌な...予感ですか...?」
彼女は不思議な顔を見せてきたが、私は無言のまま真剣な眼差しで彼女を見つめ返した。
「ロス、飛べる?」
「グルルァァァァ!!」
ロスはまだまだ元気らしい。私とヒューリは直ぐにロスに飛び乗り、獣人の里方面へ飛んでいった。
お母様の一件から二日。移動時間を考えたら後三日で森を後にした方がいいだろう。それまでにもっと経験値と、焔漿龍との決着をつけておきたい。
「え?」
私が深く考え事をしていると、冷たく震えていたヒューリの声が耳に入った。そんな彼女の声に違和感を覚えた私は、直ぐに彼女の方に目を向けた。そこには顔を蒼白とさせた彼女の姿があった。
彼女の視線の先には獣人の里...そして焔漿龍。具体的には塵と化した里と伝説の龍。
「キサマ、ケス...」
焔漿龍の声が直接届く。私はそんな声を聞いても別に恐怖を覚えたり、怒りを覚えたりはしなかった。私の感情は無だった。何を考える訳でもなく、只々壊滅した里を眺めていた。
「お前まだ生きてたのか!今度は殺す!!龍神様には十分すぎる生贄を捧げたんだ!僕の力も加えれば!お前なんかザコ同然だ!!!」
里に近づくに連れて、一人の男の姿が確認できた。それは里の皆が『あの男』と呼んでいた人物。




