デルラジアの祠
「あれ?迅雷虎は?」
後方で戦闘態勢をとっていたヒューリから吃驚の声が上がる。振り向いてみると、継続的に身震いを起こしていた彼女の姿があった。
そんな私の視線に気付いたヒューリは、徐に私の足元へと目を向けた。そして彼女は言う。
「レーナさん?」
そんな彼女の問いに、どう答えればいのか分からないでいた私は黙り込んでしまった。真っ暗になった大森林の中、二人の少女を硬直させる沈黙が走る。
その理由は自分でも分かっている。私は一瞬であのCランクモンスター、黒迅雷虎を倒したのだ。その事実も私の足元にちゃんと残っている。
「グルるぁぁぁあ!?」
そんな森閑とした空間を破ったのはロスの情けない鳴き声だった。硬直していた二人の少女は、そんな鳴き声の根源へと視線を移す。
そこには苦しそうに暴れ回るロスの姿があった。意味もなく地面を転がり、大樹に体をぶつけ、空気を殴りつける。
「ロス!?どうしたの!!?」
私はそんなロスの姿を見て居ても立っても居られなくなり、『わが身に帰れ』的なやつを行使しようとしたが、その前にロスは体から強い光を放ち、私の視界を奪っていった。
しかし、そんな時間も一瞬で終わり、光が弱まったのを感じた私は、ゆっくりと目を開けた。そこにいたのは私の知るロスではなく、私の体より何倍も大きい、アスシリスと同じ様な風格を持った白竜だった。
「レーナさん!これは!?」
「ロスですよ、進化したんです。」
「なるほど!」
以外にもあっさりとした彼女の答えに驚愕しながらも、私は直ぐにロスのステータス確認を行う事にした。
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名前:『ロス』
種族:カルレイク
状態:通常
ランク:C
LV:1/60
HP:116/116
MP:132/132
攻撃力:146
防御力:156
魔法力:164
速度:147
通常スキル:
〖かぎ爪:Lv6〗〖突撃:Lv6〗〖氷竜の咆哮:Lv6〗〖ハイヒール:Lv6〗〖トリプルスラッシュ:Lv5〗〖リジェネレーション:Lv5〗〖氷結:Lv4〗〖降雪:Lv4〗〖流水砲:Lv5〗〖雪氷癒:Lv4〗
耐性スキル:
〖水属性耐性:Lv5〗〖氷属性耐性:Lv5〗〖恐怖耐性:Lv4〗〖物理耐性:Lv5〗〖落下耐性:Lv4〗〖火属性耐性:Lv5〗〖雷属性耐性:Lv5〗〖風属性耐性:Lv5〗
特性スキル:
〖飛行:Lv4〗〖竜の鱗:Lv2〗
称号スキル:
〖竜神の配下:Lv--〗〖竜神の右腕:Lv--〗
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予想はしていたけど、やっぱり『ベビーカルレイク』から『カルレイク』になったか。ただ、ステータスが予想よりかなり高い。レベルを上げればお母様戦で一躍買ってくれる程強くなるかもしれない。
「レーナさん。」
ロスに視線を向け、色々と考え事をしていると、ヒューリの私を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ると険しい表情を見せたヒューリの姿があった。私はそんな彼女に無言のまま視線を送り、ゆっくりと口を開いた。
「ヒューリさん...今は...」
「私!...実はレーナさんのお役に立てるんじゃないか...って...思ってました...」
私の言葉を遮り、ヒューリさんの口からでた言葉には少し寂し気なため息も混ざっていた。そんな彼女の表情を見た私の顔は自然と緩み、数秒前に凶悪なCランクモンスターを倒した化け物とはかけ離れた物となっていた。
戦闘態勢を解除...つまり、〖竜人化〗と〖稲光〗を解除した事もあって、私の表情はより人間的な物になっているのだろう。彼女の私を見る目を少し変化していたようにも見えた。
「でも...やっぱり..私..足手まといみたいですね...」
彼女は続けた。その切ない表情のまま、私に許しを請うように...
そんな彼女を見た私は...内心かなり焦っていた...
小説などで似たようなシーンを見たことがあるが、こんな時主人公は相手に『そんな事ない!』『凄い役に立ってる!』『君は僕のそばにいてくれてるだけでいい!!』等をほざいていたが、彼女が口にしているのは悲しいが全部事実だ。私も元々は彼女をここまで連れてくるつもりはなかったし、戦闘になれば足手まといになるかもしれないと危惧しているぐらいだ。でも...
「ヒューリさん。ヒューリさんはお友達を救出する為に来たのでしょう。」
そう、彼女は別にあの男とか、野良のモンスターと戦う為に来た訳ではない。彼女の友人がいるというので、助ける為に彼女の力がいるから連れてきたのだ。
そんな私の言葉を聞いたヒューリは目線を地面に向け、少し黙り込んだ後、「はい...」と、小さく答えた。
「それじゃぁ行きますよ。」
ロスとヒューリに声をかけると、ロスは翼をばたつかせ、ヒューリはコクリと頷きながら、デルラジア山の方へと目を向けた。
森の中をただ真っ直ぐ走った私達は、ある場所に辿り着いた。デルラジア山...もとい、デルラジアの祠と思われる場所の入り口。それはただの洞窟の入り口にしか見えなかったが、それは見た目だけだ。中から漂う熱気がこの祠のおぞましさを物語っている。
「今更だけど、本当にここにお友達がいるの?」
「えぇ、恐らくは...」
洞窟内から漏れ出る熱気は普通ではない。その証拠に洞窟の入り口付近の木々には葉が一枚もない。
私はそんな不気味な木々に囲まれながら、ヒューリへと視線を送った。これから中に入るの合図だ。この熱気の中、人間種であるヒューリが耐えられるのかと心配になったが、ヒューリの迷いのない眼差しが私の考えを一瞬で吹き飛ばした。
私とヒューリが恐る恐る中に足を踏み入れる中、ロスは余裕の表情でスタスタと中に入っていった。私も案外平気なのではないかと考え、ロスに続くようにして足を進めたが、予想以上の熱気に足元を奪われ、尻餅をついてしまった。
ロスは恐らく〖竜の鱗〗に守られているのだろう。私も〖竜人化〗すれば大丈夫なのではないかと考えたが、あのスキルは持続的にMPを消費する。これからとんでもない奴と戦う事になるかもしれないのに、無駄なMPを消費してられない。
「グルるぁぁぁあ!!」
恐らくは龍の物と思われる咆哮が辺りに轟く。ヒューリはその咆哮を聞き、少し身震いを起こしていたが、私の険しいままの表情を見たのか彼女も真剣な眼差しを見せ、洞窟の奥へと突き進んでいった。
洞窟の奥地、そこには少し開いた空間があった。ここはスカル・リッチのいた空間と少し似ているが、規模が違う。
「コタエヨ...ソナタはニンゲンか?」
脳内に直接言葉が届くこの感覚。間違いない、〖念話〗だ。
私は後方にいるヒューリと、構わずステステ前へ行くロスに目線を送り、待機するようにと、目力で何とか伝えようとした。長い付き合いのロスはその暗号を何とか読み取ったみたいだが、ヒューリは少し混乱していた。しかし、私が立ち止まったのを見て、彼女も動こうとしていないので問題ないだろう。
「半々ですかね...?」
疑問形になってしまったが、そこは問題ないだろう。ここは相手の問いに素直に答えるのが最善だろう。もしこの声の主が『龍』だった場合、変に刺激しない方が絶対にいい。別に龍神様と戦いに来た訳ではないのだ、怒りを買った『あの男』を懲らしめて、めでたしめでたしが一番良い。
「キサマ、フザケテイルノカ?」
念話から伝わる龍神様の憤怒の念...どうやら私はお怒りを買ってしまったようだ。
「ロス!ヒューリさん!ここからは熱気我慢して走りますよ!」
私は後方にいたヒューリに目を向けながら、熱気我慢というかなり鬼畜な事を口にしてしまったと自覚しながらも、静かに「頑張れ」を、送った。
それからは只無心で走った。ただそれだけだ。物凄い熱気を感じながらも、私は己を忘れるまで走り続けた。一瞬ヒューリの事が気になったりもしたが、他人の事を心配している余裕などない事にすぐ気づかされる。
「ぐるぅぅぅう!!」
そんな私を止めてくれたのは、ロスの更に低くなったうめき声だった。私は自分が目も閉じていた事に気付き、数秒前の自分をひっぱたきたくなった。
「レーナさん...もう、南の国ですか...?」
少し枯れているようにも感じたヒューリの声が熱気を揺らす。私はそんなヒューリの声を聞いて少し心配になったが、振り返ると元気そうなヒューリがいたので、私は安堵の息をついた。
「キサマはニンゲンか...ナゼワレのネツにタエラレル...」
今回は念話ではない。直接、声が聞こえる。老人の声だ。でも族長さんの様な老人の声とは少し違う。枯れ果てた大樹の中の溢れる蜜の様な...まぁ、そんな感じの声だ。
私はすぐさま戦闘態勢に入り、声の根源へと目を向ける。そこには『龍』がいた。蛇のような長い胴体を持ち、猛炎を纏った朱餡の鱗を持ち合わせた『龍』が。




