炊き出しの里
「本当に...それだけでいいのか...?」
老人の驚愕の声が漏れる。
本当にそれだけでいいのか?とは..私に何を要求されると思っていたのだろうか?気になって仕方がない。
「何を求められると?」
私は思い切って聞いてみることにした。少しだけ顔をゆがめながら出た私の声は震えていた。それは何故か?もしかしたら恐怖していたのかもしれない。圧倒的なまでの物理的な力を誇る私が、獣人達から送られるかもしれない拒絶の声に。
「てっきり数人の女を連れていかれるものかと...」
何言ってんだ..この爺さん...
私のどの部分をみて女を欲していると思ったのだろうか...私の純粋無垢な瞳を見て、何故女を欲していると思ったのだろうか。
どちらにせよ6歳の少女に話すようなことではない。
「ナンノコトデスカ?とにかく私は今夜泊まる所がないので!置いておいて欲しいのです!!」
少しカタコトになってしまったが仕方ない。言いたいことは言えたし、この雰囲気だと泊めてもらえそうだ。
「それならワシの家の一室を貸してやろう。邪竜の被害が大き過ぎるのでな、客を招く為の家が用意出来ない。」
「別に室内じゃなくても安心して眠れる所なら問題ないです!!」
正直言ってこの老人の家で寝るのは絶対に嫌だ。外と変わらぬ汚さに加えて部屋中に広がる生ゴミの匂い。これだったら外で葉っぱでも敷いて寝た方が100倍ましだ。
私がそう言うと、老人は申し訳なさそうな顔を見せ、「本当にいいのか?」と言ってきたが、私は食料と寝床だけでいいと断りを入れ、ペコリと頭を下げた後、家を後にした。
家の外は天国のようだった。目に毒なあふれんばかりのゴミに嗅覚を麻痺させる程の悪臭が一切ない。虚しさを感じる半壊した里は目に入るが、豊かな緑は見ていて飽きるものではない。
そして私は一つ、大事な事に気付いた。それは進化である。予定では明日適当なモンスターでも狩って進化!するつもりだったのだが、マルバジロの一件で最大レベルまで達した私は今にでも進化する事ができる。
「人間さ~ん!!」
聞こえてくるは少女の声。ヒューリと名乗ったその少女は片手を大きく上げ、手を振りながら走ってきた。
「族長さんに...なんか言われちゃった...?」
しかめっ面でも見せてしまったのだろうか?ヒューリは少し心配そうな顔を見せ、私に訪ねてきた。
あの人、族長さんって言うんだ。まぁ結構偉そうにしてたし、偉い人なんだろうとは思ってたけど...なんであんなに家が汚かったんだろう...
「色々あって、少しの間ここで住まわせてもらう事なりました!」
「えっ本当!私、一度でいいから人間の方とお話したいと思っていたの!!」
「そう言えば自己紹介していませんでしたね。」
彼女と会話を進めていると、私はある事に気が付いた。彼女は未だに私の事を人間としか呼んでいないのである。その理由は私が自己紹介をしていなかったからだ。こんな事になるなら彼女がしてきた時にでも返しておくんだった。
「私はレーナと言います!遠い人間の国から来ました。」
今回は『南!』ではなく、『遠い国』と表現する事にした。私も故意に自分の故郷を『南』と現したかった訳ではない。老人...もとい族長さんとの会話の時は、咄嗟の質問だったので考える時間がなかった。でも今回は違う...じっくり考えた結果、私は『遠い国』という言葉に辿り着く事が出来たのだ。
「遠い国...とは?」
この子...痛い所つくな...
族長さんはなんか察してくれたみたいだけど、この子は容赦なく質問に質問を重ねてくる。私は彼女のそんな言葉に内心、パニック状態に陥ってしまい、咄嗟にでた言葉が...
「み...南の国です!!」
南の国というと、帝都とは大部違う国が連想されるが、あながち間違ってはいない。これ以上質問を重ねられてしまうと、もう私にはきれるカードはない。
「へぇー。南の国かぁ..」
恐らくは帝都とは全く違う国をイメージしているだろうが、私は訂正せず、彼女がそれで納得してくれた事に安堵の息を漏らした。
「それじゃ私...戦闘で疲れちゃったし、今夜寝るところの確保も済ませないといけないから、そろそろ行きますね。」
私は逃げるようにして彼女から距離を取り、ぎこちない笑顔を見せながらその場から去った。
私が寝る前にする事、それは決まっている。一つ目は適当な寝床を探すこと、水と食料を分けてもらう事、そして進化の確認。
もし大きく姿形が変わってしまうような進化体しかなかった場合、明日、里を離れた時直ぐに進化出来るよう、最低限の確認だけ済ませる必要がある。今日進化してしまうと、族長さんや獣人達を混乱させる事になるし、最悪の場合また『あの男』の仲間だろうと疑われて追い出されてしまう。なので今回はどんな進化先があるのかだけ確認だ。
色々と考えた私は、里の端の方へと向かい、私の半分くらいの大きさの葉を2枚程手に取り、里の中央へと戻っていった。
里の中央にいくと、獣人達が私と同じ様な葉を地面に敷いてる姿がいくつもの目の入った。災害で家を失った獣人達はここで一夜を過ごすのだろう。私も彼らを真似て、地面に拾ってきた葉を敷く事にした。
そんな私の寝床となる場所の少し離れた所には、なにかを配ってる獣人達がいた。そこには行列があり、立ち並ぶ獣人達は茶碗の様な物を手にしていた。
あれは炊き出しというやつだろうか?私は少し疑問に思いながら少しずつ近づいていくと、ほのかないい匂いが私の嗅覚を刺激した。
「娘!食事を欲していたな。」
私がそんなご飯の香りに魅了されていると、炊き出しをしていた所から一人の男性の声が轟いてきた。声のした方へと目を向けると、そこには父上さんがこちらを向き、手を振っているのが見えた。
すると、私のお腹の虫が突然鳴き始め、周囲の視線を一気に集めた。
「はい...」
私は顔を真っ赤にし、今すぐ逃げ出したい気分だったが、せっかく父上さんから友好的に話しかけてきてくれたんだ。私がそれを無視する訳にはいかないと思い、子猫の様な小さな声でそう、答えてしまった。
「なら並べ、今炊き出ししてんだ。」
やはりこれは炊き出しだったのか。そう思いながら私はお腹の一件の恥ずかしさを忘れられず、下を向きながら行列へと向かった。
行列に並び、お腹の虫の事も徐々に記憶から消えていき、自分の後ろにも並んでいる獣人達がいる事に気付いた。そして行列に並んでる獣人達全員からの視線も...
せっかく上がった顔を再び下げ、顔を真っ赤にした私は只々自分の番が来るのを待った。
「お前は結構いける口なのか?」
順番が来た私に声をかけてきてくれたのは父上さん。いける口...というのは結構食べるのか?という意味なのだろうか?もし父上さんが私を見た目通り6歳の少女として認識しているのなら、いける口と返しても問題ないだろう。ただ父上さんの以前の態度からして、私を見た目以上の何かだと思っている可能性が高い...
「余り...いけない口です...」
災害のあった直後なのに食べ物を残してしまうのは不謹慎だし、だからと言って少なすぎるもの困る。そこで私は今までの父上さんの言動を思い出し、彼のいける口といけない口を全力で分析した。その結果、私はいけない口と答えるのが得策だと結論付けた。
「ほれ。」
私なりに色々考えて出した答えのつもりであったが、父上さんが用意してくれた茶碗の中に入っていたのは、予想をはるかに上回るスープの量だった。スープだけなら喉も乾いているので問題なかっただろが、スープと言うより、『ジャガイモ』と言う料理に見えるくらいのジャガイモの数や大きさには悪意さえ感じた。
「ありがとう」と、最低限の礼儀を済ませた私は、自分の敷いた葉の方へ向かった。
数分後、私の目の前に置かれた茶碗は空になっていた。あのおぞましい量のジャガイモに耐えられた自身の胃袋に若干引きながらも感謝し、私は借りていた茶碗を父上さんに返しにいった。
「おぉ、娘!早かったな。悪いがおかわりはもうないぞ。」
父上さんは本当に私をなんだと思っているんだ。もしかして獣人達の胃袋は人間の想像を遥かに超える物なのか?
私はそんなくだらない考察を立てながら茶碗を返しに来ただけだと伝え、お礼の言葉を残した。
寝る前にやるべき事の二つはコンプリートした。あとは進化先の確認だけだ!
自分の持ち場。つまり巨大葉っぱの上に座り込んだ私は、『進化』と言う言葉に少し高揚感を覚えながらも、不安な気持ちを抱き、一人、深呼吸をしていた。
そこで私はある事に気付いた。進化先の確認だけだと言っても、独り言を言ってしまったり、体内に隠しているロスに相談したりするかもしれない。そんな事を里の中央でしたら完全に頭の可笑しい子だと思われてしまうだろう。
私はさり気なくその場から立ち上がり、葉っぱを拾った里の端へと足を運んだ。
さぁて、進化タイムと行きましょうか。
再び大きく深呼吸した私は、適当な葉っぱに座り込み、『進化先の確認』の準備にかかった。
【進化先を表示しますか?】
「はい!」
【称号スキル〖竜王の加護:Lv--〗の効果により、究極進化体〖ドラゴノイド〗への進化が可能になりました。】
ん?
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【現状】
〖ドラゴニア:C-〗
【進化】
〖ドラゴノイド:B〗
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これは嬉しい。何が嬉しいかって、お母様と同じBランクモンスターへの進化がとても嬉しいです。ただ選択肢がこれしかないと言うのは問題でしかない。もし〖ドラゴノイド〗という種族が醜い化け物の姿をしていたら完全に詰んでいる。それに進化先表示の前に出てきたあの通知も少し気になる。竜王さんと会った時に貰った〖竜王の加護:Lv--〗の事について言ってた気がするけど、正直内容が全く頭に入って来なかった。
私は不安を抱きながらも、鑑定さんを使い、〖ドラゴノイド〗の詳細を調べてみる事にした。




