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里の長

相手は6体のCランクモンスター。こっちは小型ドラゴン一匹と小娘一匹。傍から見ればCランクモンスターの方が圧倒的有利に見えるだろう。でもそれは違う。6体の内5体は幻でしかないのだから。


「ロス!お願い!!」


私がそう叫ぶとロスは口を大きく開け、〖水流砲〗を放ってくれた。私はすぐさま〖水脈支配〗を行使し、前方に並べて置いた水の刃も含め、ロスの出してくれた水全てを薄く張った。それを勢い良く前方の6体のマルバジロへと叩き付けようとしたが、6体のマルバジロは左右に散り、簡単に避けてしまった。しかし、〖水脈支配〗の戦いはこれからだ。水の刃に形を変えた水達は、左右に散ったマルバジロの後ろにピタリとついていく。


「ロス!もう一発!!」


そう叫ぶと、ロスは再び〖水流砲〗を放ち、私はそれを〖水脈支配〗でコントロールした。挟み撃ち作戦だ。多くの水を操るとなると、一つ一つの刃の精度がかなり低くなってしまう。つまり攻撃には適してないというわけだ。本体には大したダメージを与える事は出来ないだろうが、幻でしかないマルバジロには十分な打撃だろう。


私は一気にマルバジロ達全員を追い込み、遂に一体のマルバジロを挟み撃ちにする事に成功した。そのマルバジロの背に水の刃が触れると、その巨体が噓のようにパッと水蒸気と化していった。これが幻の正体なのだろう。


私は直ぐに残りのマルバジロの殲滅にかかり、結構あっさり終わってしまった。残るは一体のマルバジロ、本体だ。このマルバジロには既に刃攻撃を仕掛けてあるので、こいつも幻だったと言う事は無い。


私は『レーナマジック』を駆使し、一気にマルバジロへと距離を詰めていった。マルバジロもそんな私を見て行動を起こそうとするが、〖シャドウスピード〗を使わなかった。MPも空になっていないのに〖シャドウスピード〗を使わない理由なんて一つしかない。ただ単にマルバジロは焦りだしているのだ。


「〖電熱〗10連発!!!」


そんな隙を見せたマルバジロの腹に触れた私は、愛用スキルの〖電熱〗10連発をお見舞いしてやった。表情は見えないが、こぼれ落ちる鱗や血肉からマルバジロの苦しみが容易に想像できる。


【経験値143を獲得ましました。】

【スキル〖竜神:Lv1〗により、更に経験値143を獲得ました。】


【レベルが最大値に達しました。これ以上経験値を獲得することはできません。】

【進化の条件が揃いました。】


力なくしたマルバジロはゆっくりと地上に落ちていった。木々の中へとその巨体をぶつけ、ただの肉の塊へと化していった。


すると私は、近くにあった半壊した村の事が気になり、地上に降りることにした。気付くと辺りがオレンジ色に変わっており、緊張がほぐれた私のお腹も少し寂しくなってしまった。


地に足を付けた私の目に留まったのは、数多くの獣人達だった。驚きの表情を浮かべるものや、困惑の表情を浮かべるものをいる。だが誰一人として私に話しかけようとはしてこない。やはり人間を嫌悪する理由でもあるのだろうか。


「あなたは!!あの時の人間さん!!」


そんな沈黙を破ったのは一人の少女だった。白狼族の獣人、ヒューリと名乗っていたその少女は今朝と変わらない表情で私を歓迎してくれた。

他人の目を気にもせず向けられた笑顔はとても美しい物だった。私はそんな彼女につられ、同じ様に笑顔をこぼしてしまった。


「ヒューリ!お前ってやつは!!!」


聞き覚えのある男の声が人混みの中から聞こえてきた。そこに目を向けてみると、ご立腹の様子の『父上』とやらが早歩きでこちらに近づいてきた。


「待たれよ。」


その直後、乾いた老人の声が村全体を包み込んだ。父上さんはその足を止め、声のした方へと振り向いた。

父上さんはその場から数歩下がり、跪いた。よく周りを見てみると、ヒューリを含めた他の獣人達も同じ様な事をしている。


一人、たたずんでいたのは乾いた老人の声の持ち主、ヒューリと対して変わらない身長を持った白髪の老人。私から目を離さず、ゆっくりと近づいてきた。


「貴様は、あの男の仲間か!?」


老人から発せられた言葉はとても震えていた。

あの男、というのは人間の事なのだろうか?私の推測では大昔に人間に何かされたから人間を嫌っているのだと思っていたが、もしかしたら今でも何かされているのかもしれない。


「あの男とは、誰です..?」


私は恐る恐る老人に言葉を送った。もし今でも人間から被害を受けているのなら嫌悪されても仕方ないかもしれない。ただ出来れば私は彼らと友好関係を築きたい。


「貴様のその翼...人間ではないな、なら何の種族だ。見たことも聞いた事もないぞ、そんな種族。」


老人の言葉を聞いて私は気づいた。背中から生やしていた翼のことを...私は人間として...ではなく、モンスターとして見られていたのだ。歴史が生んだ嫌悪の瞳ではなく、化け物を見る恐怖の瞳で私は見つめられていたのだ。


「これは!その...私はヒュームです!!」


私は直ぐに翼をしまい、ヒューム..つまり人間であると訴えたが、そんな事が通るわけもなく、老人に更に怪しまれてしまった。


「あの男も漆黒の翼をは生やしていた。貴様もあの男の仲間ではないのか!!」


「さっきから言ってる..あの男って誰ですか?」


勿論、私は『あの男』など知らない。そもそもこの森にロスと二人で来てまだ1日も経っていないのだ。会話が成立する人と会ったのもヒューリと父上さんが始めてだったし、それ以降はモンスター狩りしかしていない。


「あの男とは..無関係なのか...?」


老人から漏れた言葉は結構あっさりしていた。正直私は疑われて追い出されるだけかと思っていた。事実、父上さんならそうしていただろう。しかし、どうやらこの老人は話が通じるタイプのようだ。


「グルゥゥゥゥ!!」


「なんだ!そのドラゴンは!!」


老人との話を進めていると、空中で待機していたはずのロスがゆっくりとこちらに近づいてくるのが見てた。すると、その鳴き声を聞いた獣人達は身震いを起こし、老人は目を見開き大声を上げた。


「ロス!少し休んでて。」


私はそう言うと、『わが身に戻れ』的なやつでロスを私の中に戻した。その一部始終を見ていた老人は言葉を失い、後ずさりをしてしまった。


「まぁ良いだろう..貴女があの男の仲間ではない保証はないが、一応は里を救ってくれたものだ。ついてこい、詳しい話はそこでしよう。」


そう言うと老人は私に背を向け、スタスタと村の奥..もとい、里の奥へと歩いて行った。私はそんな老人に従う事にし、彼についていった。


もしかしたら友好関係を築けるかもしれない。もしかしたらご飯を分けてくれるかもしれない。そんな事を考えていると、私は急に空腹感に襲われてしまった。跪く獣人達の間を通り、老人の方へと足を進めようとしていると、突然ぐぅぅぅと、ロスの呻き声よりも低い、みっともない音がお腹から漏れてしまった。


私は事実を誤魔化すように早歩きを始め、周りをチラッと確認したが、そんな事で誤魔化せてるはずもなく、獣人達からの視線がグサグサと刺さった。


顔を真っ赤にしながら老人の後をついていくと、立派な一軒家にたどり着いた。帝都にあるような2階や3階建てのものではないが、1階建てにしてはかなり豪華な木造の家だった。


「わしの家じゃ。中に入れ。」


私は只々黙って老人の言う事を聞き、家の中へと入っていった。

正面玄関を通ると、私は絶句した。部屋が汚かったからだ。それも物凄く。床は外と対して変わらないくらい汚れており、物で溢れている、と言うわけではなかったが、とにかく散らかっていた。


「座れ。」


どこに座れというのだ...一応リビングみたいな所に椅子はあるみたいだが、床と変わらない程に汚れている。


「いや...私はここで結構ですので。」


私は軽く断りを入れる事にした。変に嫌がっても悪いし、だからといって座るのも絶対に嫌だ。

そんな私の思考を一ミリも理解していなそうな老人は「仕方ないのぉ」と言いながら、お尻汚れるの確定椅子に腰かけた。


「それじゃぁ先ずは...貴女はどこから来た、何者だ?」


いきなり本題に入ってきた老人に少しビビりながらも、私は軽く自己紹介を済ませる事にした。


「私はその...レーナと言います!南から来ました!!」


自己紹介と言っても、帝国貴族である事がばれるフルネームや、住所などは死んでも言えない。なので私は最低限の本当のことを口にした。別に噓をついても良かったのだが、私は嘘が大の苦手なのだ。こんな場でボロを出してしまったら大変な事になる。それならボロを出さない様にすればいい!すなわちボロが無ければいいのだ。


「そうか...み..南から来たのか...」


老人は困惑の表情を浮かべながら震えた声でそう口にした。自分で答えておいてなんだが、私はてっきり問い詰められると思っていた。『南から来た!』なんて答えは馬鹿にされてるのではないかと思うぐらい馬鹿げた物なのだから。

ただ老人は問い詰めず、怒りもしなかった。それは私の力を見て恐怖を覚えたからか、目の前の幼女には難し過ぎる問いだと思ったからか...


「あの...ちょっといいですか..?」


突然口を開いた私に少し戸惑った様子の老人であったが、直ぐに鋭い目を私に向け、「どうぞ...」と言ってくれた。


「私は空が飛べます!!」


よく考えずに発言してしまった私は、意味の分からない事をこの大切な場で言ってしまった事に気付くのに数秒かかった。部屋に嫌な沈黙が走り、私はやってしまった事に気付く。


「いや、その...それで!里が邪竜のせいで大変な事になったじゃないですか!」


再び喋り出した私を見た老人は少し安心した表情を見せ、うんうんと頷いてくれた。


「そこで私もこの里の復興を手伝おうと思うんですよ!!」


それを口にすると、老人は『何が欲しいのだ』と言わんばかりの顔をこちらに向け、睨み付けてきた。


「その代わりと言ったら何なんですけど...水と食料を分けてくれないかなぁ...なんて..」


この機会を逃せば恐らく今日は大変な所で寝る羽目になる。それは汚い所で、という意味ではなく、モンスターが溢れる森の中、という意味だ。それに食事だって今日は抜きになってしまうだろうし、今後のレベリングにも支障が出る可能性もある。

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