里を襲う邪竜
『よろしくお願いします』か。正直そんな事を言われても困る。連れのお父さん?が乗り気じゃないみたいだし、こちらとしても時間が惜しい。歓迎されないと分かっていてわざわざ彼らの住処まで足を運ぶ理由なんて何処にもない。
「ヒューリさんでしたよね。すみません..私、急いでますので。」
私は笑顔を向けてくれてた彼女に軽く断りを入れ、素早く背を向けた。彼女は名残惜しそうな顔を一瞬見せたが、私は何も見なかった事にした。この森で狩りを続けると、また何処かで会うかもしれない。もし獣人達が皆あのような態度をとるのであれば早目にここから遠ざかった方がいいかもしれない。
数時間後、朝日は既に沈み始め、モンスターの量もかなり増えてきた。あれからかなりの量のDランクからCランク下位のモンスターが姿を現し、ロスと二人で難無く経験値に変える事に成功していた。私のレベルも【53/55】まで上がり、ロスも進化まであと1レベルと言う所まで来ていた。
初日でここまで進化に近づけるとは予想以上だ。このまま今日進化してしまいたいが、焦りは禁物だろう。今日の寝床や食料もろくに確保出来てない状況でまだモンスター狩りを続けられる訳がない。
「邪竜だぁぁ!!」
「グラァァァァ!!!!」
寝床を探していると、大森林の大気を揺らすほどの咆哮が私の足を止めた。耳をすませば男の悲鳴や女子供の叫喚も聞こえてきた。
「ロス!状況の確認に行って貰ってもいい?私も後からついていく。」
「グルゥゥゥゥ!」
私は咆哮を聞いた瞬間、素早くロスに指示を出し、〖飛行〗を使って空から状況の確認をしてもらう事にした。私はその間に〖ライトニングスピード〗無しの全力疾走で咆哮のした方へと走っていった。
『前方に邪竜が一匹と、獣人がおよそ100人弱。』
ロスと〖念話〗を繋いでおくと、予想以上に的確な情報が届いてきた。
邪竜と言っても種類が多いのでどれ程凶悪な物なのかは分からないが、邪竜と聞いたらどうしても『あいつ』を思い出してしまう。
私は嫌な予感を感じ、〖ライトニングスピード〗を使い、恐らくは『獣人の里』と呼ばれる所に足を進めていった。
すると、木々の隙間から大空を舞う一匹の黒竜が目に入った。幸いその黒竜は『あいつ』みたいな双頭竜ではなかったが、『あいつ』に遅れを取らないくらいの大きな胴体と漆黒の鱗。体のサイズから考えて、Cランククラスである事は確定だろう。
そのドラゴンの下に広がる半壊した村が少し心配になったが、それは後だ。
私は直ぐにその邪竜へと意識を集中させ、〖ステータス閲覧〗を発動させた。
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種族:マルバジロ
状態:通常
ランク:C
LV:52/60
HP:312/316
MP:289/302
攻撃力:212
防御力:178
魔法力:199
速度:197
通常スキル:
〖オーラショック:Lv6〗〖かぎ爪:Lv6〗〖邪竜の咆哮:Lv6〗〖テレポート:Lv4〗〖邪眼:Lv5〗〖シャドウスピード:Lv6〗〖幻霧:Lv6〗〖毒霧:Lv6〗〖霧結界:Lv6〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖苦痛耐性:Lv7〗〖落下耐性:Lv5〗〖雷属性耐性:Lv5〗〖水属性耐性:Lv5〗〖毒耐性:Lv7〗〖闇属性耐性:Lv6〗〖火属性耐性:Lv6〗
特性スキル:
〖飛行:Lv7〗〖竜の鱗:Lv7〗〖霧視:Lv--〗
称号スキル:
〖デルラジア大森林の魔物:Lv--〗〖邪竜:Lv--〗〖最終進化:Lv--〗
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なるほど...普通に考えたらやめたほうがいいな。私もレベルが上がって魔法力が200超えたと言っても敵は〖飛行〗レベルが高いプラス不気味なスキルも多い。〖竜神〗があると言っても勝てる確証なんてないのだから普通ならここは退却だ。
でも状況が状況だ。目の前には半壊した村?と叫び荒れる獣人達。急がなくてはならないとは言え、この状況を見過ごせる程人間やめた記憶はない。
「ロス!後ろから援護お願い!!私は直接仕掛ける!!!」
私はすぐさまロスに指示をだし、翼を広げた。〖ライトニングスピード〗のまま〖飛行〗を使い、一気にマルバジロへと距離を詰めていっいた。今回はいつもの様に氷柱は追い越してこない。ロスはいつもの様に攻撃しているのだろうが、私はそのスピードを遥かに上回る〖ライトニングスピード〗を使っているのだ。ロスの攻撃スキルに追い越されてるようじゃ光の速さは語れない。
マルバジロが気づく前に〖気象制御〗の間合いに入る事に成功した私は、直ぐにスキルを発動させ、近くの木々が生い茂る所に叩き付けた。〖グラビティ〗のように真下に叩き付けた方がダメージは入ったと思うが、その場合数人の獣人の命と少なくない数の家が潰れる事になるのでやめておいた。
マルバジロがいた場所で滞空していると、ロスの氷柱攻撃が遅れて飛んでくるのが目に入った。急に指示を受けたロスの攻撃が現在のマルバジロの位置を捉えられるはずもなく、あらぬ方向へと飛んでいこうとしていた。私はロスのMPが無駄になるのを懸念し、〖気象制御〗の力でマルバジロが吹っ飛んだ場所へと軌道修正を行った。
〖ライトニングスピード〗のまま修正を行った為、いつもの数倍の威力に跳ね上がったそれは勢い良く倒れ込むマルバジロへと迫っていった。
しかし、流石はCランクモンスター、恐らくは〖シャドウスピード〗を使い、物凄い速さでそんな私とロスの連携攻撃をギリギリで避けた。
ふっふっふ...残念だったなマルバジロ。そんな事はお見通しだ。
次の瞬間、マルバジロとかなりの距離を詰めていたロスが口を大きく開け、大量の水をブレスのように吐き出した。これはロスの通常スキル〖流水砲〗だ。これ単体では大したダメージにはならない、それに加えてスピードも遅いので、攻撃が当たる見込みもない。でも...
「〖水脈支配〗!!」
でも、〖水脈支配〗を使えばそんな攻撃は化ける。
恐らくは私の最大のチートスキルだろう。範囲の限界は知らないが、100メートル以上の視界に入る水なら操る事ができる。そのスピードも私が目視出来るレベルまで出す事ができ、例え敵がそんな攻撃を避けたとしてもミサイルのように追いかける事もできる。
大きく翼を広げ、私に迫ってこようとするマルバジロに高威力の水魔法と対して変わらないものをお見舞いし、スピードが落ちた所で水を大きな刃へと変形させ、それを勢い良くマルバジロの腹に突き刺した。鱗の隙間から血を流すマルバジロは空中で叫喚していたが、私の攻撃はこれでは終わらない。『レーナマジック』を駆使し、一気に唸るマルバジロへと距離を詰めていった。右手を前に出し、〖電熱〗の準備にかかる..が、マルバジロもここで終わる程やわじゃない。
次の瞬間、マルバジロの体は漆黒の光を放ち始め、私はつい両目を伏せてしまった。光が弱ったのを感じ、急いで伏せていた目で敵の位置を確認しようとしたが、敵はそこにいなかった。あそこまで存在感を放っていた巨体が一瞬にして姿を消したのだ。
その瞬間、私は後ろから嫌な邪気を感じ、後ろも振り返らずに『レーナマジック』でその場から離れた。一定の距離を取ってから振り返ってみると、そこには爪を立て、私がついさっきまでいた場所にその爪を振り下ろすマルバジロの姿があった。
もし私が未だにあの場所で呆けていたら一瞬でスライスされていただろう。
私は直ぐに態勢を整え、『レーナマジック』を使いマルバジロへと距離を詰めていく。すると、後ろにいるロスが再び〖水流砲〗を使うのを確認し、すぐさま〖水脈支配〗を行使した。
〖水脈支配〗で形を作ったのは数本の刃。少し前にマルバジロの腹を傷つけるのに使ったのと同じ形だ。これが一番効率よくできるし、攻撃力もそれなりにあるので〖水脈支配〗を使う時は大体この形にする。余り大き過ぎる物を作ってしまうと刃の質が落ちてしまうので中くらいの大きさのが一番いいのだ。
私はその刃を自身の前に並べ、万が一の時は盾にも変形出来る様にしといた。ただ水の盾というのがどれ程実用的なものかは知らないが、ないよりはましだろう。
私がかなり近づくと、マルバジロも〖シャドウスピード〗を使い、口を大きく開いた。これは〖邪竜の咆哮〗というやつだろうか。名前からじゃ威圧、もしくはブレス攻撃としか分からないな。
私は一応警戒し、少しだけ距離を取ることにした。
すると、マルバジロの口から黒い霧の様な物がゆっくりと姿を現した。その霧はマルバジロ自身を覆い始め、段々と濃くなっていった。
これは本当に〖邪竜の咆哮〗というスキルなのだろうか?敵のモーションから導き出される推測でしかなかったので、あの攻撃が〖邪竜の咆哮〗である確証など何処にもなかったのだが、少し様子がおかしい。もしあれが〖邪竜の咆哮〗でないとすると残る可能性は〖幻霧〗〖毒霧〗〖霧結界〗..
もし〖霧結界〗がお母様の使っていた〖闇結界〗と似たような物だとすると、この場面でマルバジロが使うメリットはないはずなので違う。あと〖毒霧〗だが、いくら何でも霧の広がるスピードが遅すぎる。これくらいなら普通に歩いたって追いつかれたりしないだろう。それにマルバジロ自身が霧の中に入った理由も分からない。残された可能性は〖幻霧〗だけど、幻の霧?幻を見せてくれる霧と言う事か?
よく分からないが、霧に触れなければいいだけの話だ。
そう高を括っていた私だが、そんな考えは甘いと直ぐに気づかされる。
霧が徐々に晴れ、目の前に現れたのは6体のマルバジロ。変わらぬ大きさに醜さと腹の傷。ただ同じものが6体私を睨み付けてきた。
私はその姿に一瞬ひるんでしまったが、私の推測が正しければこれは〖幻霧〗だ。つまり幻。どれが本物かさえ分かれば別に大したスキルでもない。
どれが本物か分かれば...




