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立花麗奈

さぁどうするか。〖ライトニングスピード〗〖気象制御〗と〖飛行〗の3コンボ、略して『レーナマジック』のおかげでだいぶ獣人の里に近づけたけど、このまま徒歩で行くとなると1週間以上かかる。ヘップバーンの町を経由してデルラジア大森林内から行くのも考えたけど。絶対事情を聞かれるし、お母様に情報が漏れた事がばれたら何されるか分からない。

『レーナマジック』を使ったら1時間も掛からずに到着する事はできそうだけど、燃費が悪すぎる。あのまま 使っていれば5分も経たないうちにMPが空になって墜落していただろうな。


「グルゥゥゥゥ!!」


耳元でロスの鳴き声が響き渡る。これは感覚が〖念話〗と似ているが違う。間違いない、私の中から聞こえてくるロスの声だ。


私は自分の中にいる一匹の魂に意識を集中させ、ロスを出そうした。すると自分の胸元が輝きだし、その光は一つの球体へと変化した。光は徐々に私から離れて行き、次第に大きくなっていった。するといつの間にか光は一匹のドラゴンの面影を持ち始め、ロスの姿へと戻っていったが、少しだけ違和感があった。ロスの姿にはなれたのだが、少し完璧すぎる。と言うのも、お母様から受けていたはずの傷が綺麗サッパリ無くなっているのだ。


「グルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」


何も問題ない...か。〖念話〗を使わなくても感じられるロスの言葉はとても明るい物だった。私はそれに少し違和感を覚え、〖ステータス閲覧〗を使い、状態を確認する事にした。


--------------------------------------

 名前:『ロス』

 種族:ベビー・カルレイク

 状態:通常

ランク:D

  LV:31/38


  HP:98/98

  MP:84/84

攻撃力:99

防御力:91

魔法力:78

 速度:84


通常スキル:

〖かぎ爪:Lv5〗〖突撃:Lv4〗〖ベビーブレス:Lv4〗〖ハイヒール:Lv4〗〖スラッシュ:Lv5〗〖リジェネレーション:Lv3〗〖氷弾:Lv2〗〖氷針:Lv2〗〖降雪:Lv1〗〖流水砲:Lv1〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv4〗〖火属性耐性:Lv4〗〖氷属性耐性:Lv1〗〖水属性耐性:Lv1〗


特性スキル:

〖飛行:Lv4〗〖竜の鱗:Lv2〗


称号スキル:

〖竜神の配下:Lv--〗〖竜神の右腕:Lv--〗

--------------------------------------



見事なまでに回復しているな...

もしかして『わが身に戻れ』的なやつって自動回復機能でもあるのかな?今度実験してみる事にしよう。

それはいいとして、ロスのステータス見てて思った事があるんだけど...


「ロスさぁ、獣人の里まで送ってくれない?」


ロスは体格で言ったら私の2倍以上あるし、重さもそれなりにあるだろう。だったら私を乗せても問題ないのではないか?〖飛行〗のレベルならロスの方が上だし、疲れたら交代して行けば結構早く着くんじゃない?


「グルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


問題なさそうだね。そうと決まれば時間ないんだし、さっさと飛んじゃいますよ!獣人の里へ!!


そう決意した私は素早くロスの背中へと飛び乗り、勢い良くロスと共に大空へと羽ばたいた。




――数時間後


辺りはオレンジ色に染まっていた。あれから30分おきにロスと私は交互に〖飛行〗を使い、MPの減少を抑えていたが、流石にそろそろ限界だ。MP的にはあと2ラウンドくらいやる余裕はあるが、何もない大地を数時間も飛び続けるというのは流石に苦痛だ。特に精神的に...

只それもそろそろ終わりそうだ。何故なら見えてきたからだ、永遠と広がり続ける大森林。自分が如何に小さな存在かを知らしめる邪悪なオーラを放ち続けてる火山。多分ここがメイさんの言っていたデルラジア大森林周辺と言う所なのだろう。と言うかここが本来のデルラジア大森林なのだろう。前いた所はEやDランクモンスターくらいしかいない数少ない大森林の安全地帯だったのだろう。

しかしここは違う、本で読んだ事がある。アーデルジア帝国第三危険地帯最南端のデルラジア大火山がある大地。ここに獣人の里があるのかは分からないが、目的はそこではないので問題ない。目的は経験値、それだけだ。


今日のところはMPを使い過ぎたし、何より精神的に疲れすぎたので休む事にしよう。


「ロス!ここら辺で降りて!!」


「グルゥゥゥゥ!」


私は順番が回っていたロスへと声をかけ、大森林に入る前のちょっとした木々が立ち並ぶ場所へ降りるよう言った。


木々があった方が目立たないし、色々と都合が良い。モンスターに見つかる確率も下がるし、人間からも見つかる確率は低くなる。

私はそう決めると、朝から何も食べてない事に気づいた。よくよく考えて見ると、これからどう食料を調達していけばいいのかも分からない。以前は偶々水場が近くにあったから何とかなったが、今回もそうとは限らないし、そもそもこんな危険地帯にまともな木の実があるのかも怪しい。


私は少し不安を抱きながら大地に降り立つと、目の前に以前見たことがあるような赤い実が視界に入ってきた。これは前迷っていた時に好んでかじっていた実だ。

私はすぐさまその実を手にとり、鑑定さんで毒がない事を確認してからかぶりついた。

何というか懐かしいな...あれから1週間しか経っていないのに何故こんなにも懐かしく感じるのだろうか。ほのかな甘みが口の中全体に広がる。それに加えて果汁も少しだが喉を潤してくれる。これで水の問題は解決はしてないが、当分はどうにかなりそうだろう。

ヘップバーンの町で見かけなかったから一生食べる事はないと思っていたのだが..本当に人生なにがあるか分からないな。


そんな事を考えながら、私は明日に備えて早目に寝ることにした。本来なら辺りのモンスターの有無を確認しに回った方がいいのだろうが、空から見た感じ何の問題もなさそうだったし、大丈夫だろう。

私はロスを外に出したまま茂みに横になり、一気に疲れが出たのか一瞬で眠りについてしまった。



―――――――――――――――――――――――


「立花先輩!その...今日飲みに行かないっすか?」


ガランとしたオフィスの中でくたびれていた私に声を掛けてきたのは、同じプロジェクトで私が面倒を見てやってる後輩の前原翔まえばらしょうくん。翔くんはかなり出来る後輩で、こうして今も私と残業している訳だが、何故か二人きりの残業になると仕事のスピードが落ちる。残業で疲れているのからと言う理由もあるだろうが、彼のペースダウンはそんな物を超越していた。


「今日の分は終わったの?まぁ私も疲れたし、終わったなら少し付き合ってもいいよ。」


「勿論終わってますとも!なんなら先輩の仕事も手伝う勢いです!」


「あぁ、私も終わったからもう大丈夫よ。」


やけにテンションが高い翔くんは私が『付き合う』と言うと何故かガッツポーズし、満面の笑みで私の仕事を手伝う事まで志願した。

ただ私もかわいい後輩にそんな事をさせる程の鬼畜ではない。少しだけ残っていた仕事があったが、これは明日終わらせれば良いだろう。

私はそう思い、バックアップを取ってから直ぐにパソコンの電源を落とした。




「先輩!!あんまりだと思いません!?」


目を真っ赤にした翔くんは周りにいる客の事も考えず、居酒屋の空気を揺らした。


「翔くん!声大きい!追い出されちゃうよ!」


私は店から追い出される事もそうだが、何度も通ってる居酒屋での彼の印象が悪化するのを懸念し、囁きながらも割と大きめの声で彼に注意した。


時刻は12時を過ぎている。こんな時間にやっている居酒屋なんてそう見つかるものではない。私は店主に誠意を見せるつもりで言ったのだが...


「ねぇちゃん!固いこと言ってやるなよ!!後輩くん泣いてんじゃねーか!!」


当の店主はこの通りである。高笑いしながら翔くんの背中をバチバチと叩いている。泣かせているのは店主さんなんじゃないんですか?と突っ込みたくなるほどの力で叩かれていた背中は、これからの仕事に支障が出ないかと心配になってしまう程無抵抗で無気力だった。


「だって先輩...」


瞳からポロポロと流れる水滴は彼の弱さを象徴し、男と言うものを見せてくれていた彼の姿は儚げな小動物へと変化していた。


「あれ?麗奈じゃん!こんな所で何してんの?」


重い居酒屋のドアが開かれる音と共に幼げな女性の声が聞こえてきた。


「あれ美咲?美咲こそなんでこんな所に?」


姿を現した女性の名は九重美咲ここのえみさき、小中高と青春を共にした私の親友だ。社会人になった今でも偶に二人でつるんだりしている。


「あれ?麗奈髪切った?」


てくてくと近づいてきた彼女はカウンターで座っていた私の隣の席に腰掛け、そう質問してきた。

確かに髪は切った。だがそれは前髪を少し自分でってだけだ。黒髪をセミロングまで伸ばした私の髪はフワッとした印象を持たせる為に頻繫に美容室に通ってはいるが、どうしても前髪は自分で整えたくなってしまう。それが今朝だった訳だ。


「切ったけど...よく分かったね...」


「えっ!?先輩髪切ったんすか!?」


私達の会話を横で聞いていた翔くんは私の答えを聞くと同時に顔の色を変え、頭を抱えてしまった。それに加えて流れてくる涙の量も増えている気がしたが、気のせいだろう...


「そうそう美咲!ここで大泣きしてるのは会社の後輩の翔くんね。」


私は彼らが初対面である事を思い出すと、先ずは翔くんの紹介から始めることにした。


「ちょっ..先輩!」


「そしてこっちが友人の美咲!」


翔くんから抗議の声が聞こえてきたような気がしたが、私は気にせず話を進める事にした。


「そして俺がこの店の店主だ!よろしく!!」


おもてなしのおの字もないようなその大声は深夜テンションの恐ろしさを物語っていた。ただ根はいい人なのだろう。ここまで客に交友的になる店主なんてそういない。私は店主に愛想笑いを送りながら心の中をポジティブ思考に変えようと全力で努力した。


―――――――――――――――――――――――



「うぅぅ...眩しい。」


木々の隙間から私を刺激する光はとても温かい物だったが、同時に少し不快な物でもあった。


「グルゥゥゥゥ...」


ロスの鳴き声が横から聞こえてくる。これは私を心配してのものだろうか?良く分からないが早目に起き上がった方がいいのは変わらないだろう。


私はゆっくりと茂みから起き上がり、軽くストレッチを済ませた。するとちょっとした違和感に気づいた。

偶発的に発生した物理的な変化は感じないが...何か無くなってるような感じはした。強いて言うなら記憶だろうか。頭の中からすっぽりと何かが抜けたような気がしたのだ。それが何なのかは分からないが、今すべき事は変わらない。


私は目を細め、それをロスへと向けた。やる事は変わらない。私は覚悟を決め赤い実を手にとり、デルラジア大森林方面へと走り出した。

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