Bランクモンスター
「ロス..?」
倒れ込むロス。赤く染まったカーペット。そんな現実が私に突き刺さってきたのは視界を取り戻して間もない時だった。
「悪いわねレーナ。〖竜神〗の力は私が可愛がってあげるから心配しないでいいのよ。」
何が言いたいのかイマイチ理解できないけど..お母様は私を攻撃して、私を守ろうとしたロスも攻撃した。つまりはお母様は...何なんだ?
只私に敵対心を抱いていると言う事は理解出来る。私のするべき事は説得か反撃か...
「お母様!これはどういう事ですか!?体調が悪いと聞いたのですが、こんな所で魔法スキルを使えば外にいるレイシアさん達だって!」
「安心してレーナ。〖闇結界〗は既に張ってあるから外に音が漏れる事はないわ。」
〖闇結界〗ってたしか..〖ステータス閲覧〗で確認できたスキルの一つだよね。名前からして防御系か戦闘環境変化系だとは予想してたけど、まさか何のモーションもエフェクトもないなんて..
「逃げ場はないって事..ですか...?」
もしそうなら直接的な攻撃ではないけど〖グラビティ〗並みに厄介なスキルかも。
「良く分かったわねぇ、よくできました。〖鑑定〗使ったのかな?」
そうか鑑定さんでスキルの詳細を調べても良かったのか。まぁそれはどっちでも良いだろう、重要なのはこのままじゃ逃げられないと言う事実。でもどうしろというのだ...部屋に変わった様子はない、日差しは差し込んでるし、気持ちよさそうな小鳥の鳴き声も聞こえてくる。
「何考えてるのか予想はつくけど...あなたはここで死ぬんだから気にしなくていいのよ。」
お母様から送られてくる視線は凍りつくように冷たく、私は身震いを起こしてしまった。
それが6年ぶりに再会した娘に贈る言葉!?普通の6歳児だったら泣いてるよこれ。
「きっ〖気象制御〗!!」
私は身の危険を感じ、咄嗟に〖気象制御〗を発動してしまった。風の力を借り、出来るだけお母様から距離を取る。しかし、それは負傷したロスと離れてしまうという結果になってしまった。
倒れ込むロスであったがまだ呼吸はありそうだ。ただ急いでどうにかしないと手遅れになりそうだ。
「それじゃぁねレーナ。〖爆炎球〗。」
お母様は手をかざす素振りも見せず、呆然とした姿勢のままそう唱え、彼女と対して変わらない大きさの炎の球体を生成させた。
私はそれをオンにしたままだった〖気象制御〗を行使し、下から天井へと風を吹かせ、攻撃の無効化に成功した。
「お母様...本当に..そう言うつもりなんですね...」
「当たり前じゃない!〖竜神〗の力が目の前にあるのに、奪わなくてどうするの!?あなたもそうなんでしょ..私の〖アスラ〗の力..欲しいんでしょ。〖爆炎槍〗...」
その瞬間、彼女の周りに炎が竜巻のごとく燃え上がり、彼女の右手に一つの槍として形を作った。
「何の事ですか..私はお母様の〖アスラ〗の力など欲していません!」
「もしかして何も知らないの..?半年も行方不明になってたって聞いてたから、てっきりカイリスに会いに行ったものだと思ってたけど...違うみたいね。」
カイリス?誰その人、聞いた事もないぞ。そもそも魔王スキルの事もそこまで知ってる訳でもないけど、私も〖アスラ〗の力を欲する理由があるって事?いや、どんな理由があっても親子で戦わなければならない理由なんてないはず。
「ごめんなさいねレーナ...〖ライトニングスピード〗..」
お母様がそう言った瞬間、彼女は炎の槍と共に姿をバッサリと消した。
「〖ライトニングスピード〗!!」
私は考えるよりも先に行動する事にした。本来ならそれは悪手だ、だが今回に限ってはそうでもないかもしれない。何故ならお母様の口からハッキリと聞こえたからだ。〖ライトニングスピード〗..と。
すると一瞬だけ私に一直線に向かってくる炎の塊を確認することができた。だがこの速さでは避けることは絶対に不可能だろう。ならばやる事は一つだけ...
私は未だに解除していなかった〖気象制御〗の風で薄い壁を作り、もし誰かが通ろうとするものなら細切れになるであろう仕掛けを施した。
「へぇーやるじゃない。流石は私を目覚めさせた事だけはあるみたいね。」
お母様を目覚めさせた?そんな事をした覚えはないけど...そもそも会ったのも今日が初めてだし、起こしようがない。
「何の..事ですか..?」
「レーナならもう察してると思ってたんだけど...違ったみたいね。」
そんな変な期待を持たれても困る。それより今はどうやってロスを連れて逃げるかだ。ハッキリ言ってステータスが圧倒的過ぎる、アンタナにも押し負けてた私がステータス400台の化け物に勝てるとは思えない。只まぁロスの事はどうにかなるだろう。一刻を争う事態だって事は分かるが、直ぐに『わが身に戻れ』をすればいい。問題なのは闇結界が発動していて多分だけど外に出られない事だろう。それに、普通にドアを開ければレイシアさん達にも被害が及ぶ。ならここから出る方法は窓からだけだ。〖飛行〗のスキルもある程度は発動できるはずだし、高い所から飛び降りるのには何の問題もないだろう。
「ごめんなさいねお母様..さっきから失望させちゃって。」
私は距離を取り、体勢を整えたお母様を見て少し不安に思い、会話をしながら少し時間稼ぎを始めた。〖闇結界〗の事は当たり前だが何も知らない。もしかしたら時間制限があるのかもしれない。そんな望みにかけてみたのだ。
「私は長い間眠っていたのよ...だからあなたにも手を出せなかった。でもね、一週間くらい前だったかしら、強い魔王の力に目覚めさせられたのよ...」
一週間前というと丁度私が帰ってからだ。でもそれだとなんで一週間全く行動を起こさなかったのかが分からない...いや、お母様はもしかして待っていたのか..?お父様の留守を..剣聖であるお父様を警戒していたとすれば...私..いや私達にも勝機はあるかもしれない。
「私も色々とやる事があるのよ、あなたの力を手に入れた後はここを出なければならないから。」
お父様が帰ってくるまで後一週間...お母様が目覚めた事を把握していればもっと早く帰って来れると思うけど...それには余り期待できない。
どちらにしたって今の私には関係がない。1週間も数時間もBランクモンスター相手に持ちこたえられる時間ではないのだから。
「それじゃあねレーナ。〖熱光線〗..」
お母様はゆっくり手のひらを私に向け、無表情のまま私に別れを告げた。
私は直ぐに翼を広げ、〖ライトニングスピード〗、〖気象制御〗と〖飛行〗を駆使して全力でその攻撃を避けた。どんな攻撃だかは見てる暇がなかったが、攻撃名からして食らってはいけないものなのは火を見るよりも明らかだ。
すると、一瞬で私の体は熱気に覆われてしまい私は死を覚悟したが、少し勘違いしていたみたいだ。これは攻撃から発せられた熱気だけだ。つまりは私は攻撃を避ける事には成功したみたいだが、喜んではいられない..こんな攻撃食らったら死ぬだけでは済まないだろう。多分私の血肉の最後までが焼き尽くされて何も残らない。
するとその瞬間、ガラスの様な物がパリンと割れる様な音が大気を揺らした。私は部屋中に轟く騒音で意識を失いそうになってしまったが戦闘中だ、そう言う訳には行かない。
私はすぐさま何が起こったのかを確認するべく辺りを見回してみたが、何も変わった様子はない。すると横から舌打ちをするお母様が目に入った。
まさか...これは〖闇結界〗が崩れた音?〖熱光線〗のあまりの威力に自分の結界を崩壊させるとか間抜けすぎでしょ。いや違うか、お母様は〖熱光線〗の影響で〖闇結界〗が崩れることなんて把握していたはずだ。ただ想定外だったのが私が避けた事だろう。恐らく〖ライトニングスピード〗で突進してきた時みたいに〖気象制御〗で防ぐとでも思ったんだろう。
「ロス!帰って来て!!」
逃げられるかもしれないと考えた私はロスに声をかけ、自分の中に隠れろと命じた。するとロスは体全体から輝きを放ち、小さな球体になってから私の中へと消えていった。
「逃がさないわよ!!〖狐火〗!!」
お母様は左右に日本昔話に出てくる魂の様な物を二つ生成させ、私に勢い良く放った。しかし、その攻撃は〖ライトニングスピード〗を使った〖爆炎槍〗攻撃や、〖熱光線〗より遥かに遅かった。
私は〖ライトニングスピード〗のままだったせいか、かなり余裕をもって避ける事ができた。〖ライトニングスピード〗を使ってなくても避ける事もできただろうが。
直ぐに体勢を整えた私は今出せる全力、つまり〖ライトニングスピード〗、〖気象制御〗と〖飛行〗を駆使した最大スピードで窓へと突っ込んでいった。
【特性スキル〖飛行:Lv2〗が〖飛行:Lv3〗にレベルアップしました。】
パリンとガラスが割れる音と共に、ガラスの破片が飛び散り、私は振り向かず只々全力で屋敷から距離を取った。
お母様が追ってくる様子はない...それは単純に私のように飛行能力がないからかと考えたが、飛行能力がなくとも振り返らず只真っ直ぐ飛んでいた私に追撃を食らわせるくらい容易かったはずだ。でも、しなかった...
考えられる可能性として、周りに見られたくなかったから...とか?
お母様は『色々とやる事がある』と言っていた。もしそれが〖剣聖の姫〗と言う身分でしか出来ない事だとしたら人前で堂々と私を殺める事は出来ない。〖闇結界〗が崩壊した後に高威力の攻撃を仕掛けなかった理由にも納得が行く。
でも逆に言えば用事が終わったら身分なんて必要ないと言う事だ。つまりお母様の言っていたやる事はお父様が帰ってくるまでの一週間以内に終わる可能性が高く、その用事が終わったらレイシアさんを始めとした屋敷の人達がどうなるか分からないと言う事だ。つまり人質を取られたと言う事だな。
お母様が追って来なかった理由は『一週間以内に帰って来なければ屋敷の人を皆殺しにする』と言う事だろう。お母様は何故6歳児である私にこんな小難しいメッセージを送ったのかは置いといて、ただ普通に帰ったらレイシアさん達を危険にさらして私も結局死亡、という形で終わってしまう。そうならない為にも私がこの一週間何をするべきか決まっている。
「進化しかない...」
勿論私だけではなく、治療を済ませたらロスにも進化してもらう。一週間でどれだけ行けるか分からないが、やれるだけの事はやって見せる。幸いレベル上げに最適な場所は把握してる。デルラジア大森林の周りの大地...以前メイさんから聞いて気になって本で調べてみた場所。『獣人の里』だ。そこには私と同じCランク下位や上位の化け物までいるそうだし、経験値には困らないだろう。
私は帝都から離れた事を確認すると、〖ライトニングスピード〗と〖気象制御〗を解除し、少し翼を休ませる事にした。




