シルフィー・ヴォン・アルフォード
「お父様。あの、話があるんですけど。」
私はドアを軽くノックした後、ゆっくりとお父様の自室の扉を開けた。すると奥から何やら上機嫌なお父様が姿を見せ、私に軽く微笑んでくれた。
「珍しいなレーナ、自分から私の部屋に来るなんて。どうしたんだ?」
「実はその...学院の事で少しお話があるのですが..」
私はそのままお父様の部屋に入り、私とほぼ同じ高さの机を挟んで話を進めた。
「学院かぁ..レーナは帝都の学院に入れようと思ってたんだけどな。」
帝都の学院...それはフローリーさんが通ってると言うあの学院か。あそこだけは絶対に行かない!私はもう心に誓ったから!しかも町に堂々と邪竜を放つような人なら学院で何されるか分かったもんじゃない!それこそ現代日本では考えられないくらいヤバイ虐めにあうに決まってる。
「お父様は町の剣術学院に行ったと聞きました!私もお父様みたいに剣術学院に行きたいと思いまして!」
「まぁフレッチェリー家の事もあるし、確かに貴族学院に通うのは少し不安があるなぁ。」
お父様は少し難しい顔を見せながら髭に手をかけ、そう言った。
「まぁ町の学院に行くのも一つの手かもしれないな。」
よし!これで貴族学院に行くのはどうにかなりそうだな。まぁそれはいいんだけど、何でお父様はそもそも町の学院に行くのに何の抵抗もなかったんだろう?まぁいい事なんだけど、会った事ないけど、お爺様とかに反対されなかったのかな?そもそも『帝国貴族』の中で生まれてこんな人が育つのだろうか?
私はそんな疑問を胸に秘めながら少しだけお父様と雑談を楽しんだ後、部屋を後にした。
「ねぇレイシアさん。何でお父様は町の人達にも優しく接せられるの?こんな社会で生まれた子供なら他の人みたいに見下す様な性格になってもおかしくないと思うんだけど。」
自室に戻る途中、無駄に長い廊下を歩いていた私は疑問をレイシアさんにぶつける事にした。いつまでも疑問を抱えてるのも気持ち悪いし、直接お父様に聞くのも変だと思ったのでレイシアさんに聞くことにしたのだ。
「そう言えば話してませんでしたね、旦那様が剣聖と呼ばれるまでの話。」
「剣聖と呼ばれる前?」
そんな事初めて聞いた。そもそもお父様がどれだけ強いのとか詳しく分からないし...今度会った時にでも〖ステータス閲覧〗使ってみるか。
「旦那様は子供の頃、他の人に負けないくらい町の人達を見下す人だったんですよ。」
へっ?お父様も子供の頃はフローリーさんみたいな人だったって事!?嘘でしょ..信じられない。人の首はねたり..そう言う事してたってことでしょ!?
「でもそれ以上に剣が好きだったんですよ。それである日、かつて剣豪と呼ばれた平民の男性に弟子入りしたんです。レーナ様のお爺様にあたるお方には反対されたみたいですが、それを押し切って剣の練習に明け暮れたようですよ。」
成程、つまりは剣が好きでかつての剣豪が平民だったから平民にも敬意を払うようになったのか。
どちらにしても帝国貴族学院に入らなくていいのは良かった。ただ平民の学院に通うとなると色々な不安があるなぁ..
自分が貴族だって事を隠して行けたら何の問題もないと思うけど、一週間前の事件で顔バレしちゃってるし、無理だろうなぁ..結局私はどうあがいても『帝国貴族』と言う身分からは逃げられないと言うわけか。
そんな事を考えていると、後ろから早足のお父様がこちらに向かってくるのが見えた。
「レーナ!すまない。急に仕事が入ってな、今すぐ出なければならない。それに、あと一週間は帰ってこれなさそうだ。」
「そうですか、お気をつけて。」
一週間帰ってこれなさそうなんていつもの事だ。私が屋敷に帰ってからは初めてだが、以前からよくある事の一つだった。公爵としての仕事なんだか剣聖としての仕事なんだかは分からないが、一応は隣国と戦争中な訳で忙しいのは当たり前だ。
私はそんなお父様の背中をいつもの様に見送っていると、ある事に気づいた。
ステータス見るの忘れた。
――翌日
「レーナ様!!!」
朝一番に私の部屋に響いた声はレイシアさんの物だった。まだ起きたばかりで眠気と格闘していた私はゆっくりと起き上がり、慌てた様子のレイシアさんへと目を向けた。
「レイシアさん...どうしたの..?」
「シルフィー様が!!シルフィー様がお目覚めになりました!!」
シルフィー様って...私のお母様!?お目覚めになったって今まで昏睡状態にでもなってたの!?初耳なんですけど..!なんか大変な病気だって事は分かっていたけど..そう言う事だったのか。
「今お医者様がお見えになられて、面談が許されたそうです!」
「えっ?お母様に会えるって事?」
なにそれ!?なんか急に緊張してきたんだけど。自分のお母様に会うだけって言うのに何この汗!?
「とびっきりのドレスを用意するので!待っててください!!」
「ちょっと待ってレイシアさん!ドレスはちょっと落ち着いたのにして欲しい..」
満面の笑みで部屋を出ていこうとするレイシアさんを全力で引き留めた私は軽く彼女にお願いをした。
理由はレイシアさんが張り切った時に出てくるドレスは豪華過ぎてなんか眩しいからだ。スカートの部分が無駄に膨らんでおり、所々に輝きを放つ何かが埋め込まれてて病み上がりの女性に見せびらかす物ではない。
いつものレイシアさんなら直ぐにその事に気付くはずだが、今回は正気を失っていたみたいだ。
少し引きつった顔をしていた私を見て察したのか、レイシアさんは申し訳なさそうな顔を見せながら「はい..」とだけ答え、部屋を出ていった。
数分後、レイシアさんが持ってきたのは落ち着きのあるワンピースドレスだった。レースやフリルがふんだんに使われており、真っ白で目がチカチカしたが、それはしょうがないとしよう。
着替え終わった私は直ぐにレイシアさんに連れて行かれ、ある一室のドアの前に立っていた。
「もうお医者様は帰っておりますので、中にはシルフィー様しかおりません。私もここで待っておりますのでレーナ様はお一人で楽しんできてください。」
お母様に会うのに楽しんで来て下さいって...なんだかアトラクションにでも乗るノリだけど、大丈夫だよね...
自分で何の心配をしているのかも分からなかったが、私はゴクリと唾を飲んだ後、レイシアさんを残して目の前のドアを叩いた。
「どうぞ...」
ドアの奥から声が聞こえてくる。か弱そうな..女性の声だ。
私はその声に直ぐに反応し、ドアをゆっくりと開け、緊張のあまり伏せてしまった顔を無理やり上げながらドアを閉めた。
「いらっしゃいレーナ。」
そこにはベッドに横たわる一人の女性の姿があった。私に似た白銀の髪色をしており、フワッとした印象を持たせる髪質をしていた。そして瞳は水色に輝き、とても儚げだった。
私を見たその女性..つまりはお母様はベッドから身を起こし、立ち上がろうとした。
「お母様!無理はしないでください!」
そんな心配をした私であったが、お母様は割とあっさりと立ち上がってしまった。
本当にお母様って何の病気なんだろう?そう言えばステータスの状態のところになんか出てないかな。一応調べてみよう。
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名前:『シルフィー・ヴォン・アルフォード』
種族:イブリース
状態:通常
年齢:25
ランク:B
LV:64/90
HP:467/467
MP:423/423
攻撃力:417
防御力:342(+10)
魔法力:383
速度:411
装備:〖アルフォード家のワンピース:価値C-〗
魔王スキル:
〖アスラ:Lv1〗
通常スキル:
〖カタルシス語:Lv7〗〖爆炎球:Lv7〗〖焔矢:Lv7〗〖ライトニングスピード:Lv7〗〖炎流群:Lv7〗〖熱光線:Lv7〗〖炎刀:Lv7〗〖爆炎槍:Lv6〗〖狐火:Lv6〗〖火鎧:Lv6〗〖闇結界:Lv6〗〖瞬暗:Lv6〗〖闇衛星:Lv6〗
耐性スキル:
〖衰弱耐性:Lv7〗〖水属性耐性:Lv6〗〖恐怖耐性:Lv7〗〖物理耐性:Lv7〗〖苦痛耐性:Lv7〗〗〖雷属性耐性:Lv6〗〖風属性耐性:Lv6〗〖火属性無効:Lv--〗〖闇属性無効:Lv--〗
特性スキル:
〖炎熱知覚:Lv6〗〖炎之豪腕:Lv7〗〖鑑定:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv7〗〖念話:Lv6〗
称号スキル:
〖神の卵:Lv--〗〖剣聖の姫:Lv--〗
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は?
「その表情は使ったみたいね...〖ステータス閲覧〗...」
お母様は呆然とした私の表情を見て不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「お母様?」
ステータスがまじもんの化け物なのは置いといて...お母様も、魔王スキルの持ち主だったって事?
じゃぁお母様も日本から来た人だったりする?
「やっと..これで〖竜神〗の力が手に入れられる!!」
お母様はそう言うと大きく両手を上げ、血走った不気味な瞳で私を睨んできた。
待って、状況が理解できない。〖竜神〗の力を手に入れられるって何の事?それにお母様どうしちゃったの?サイコみたいな表情になってるけど...
「〖瞬暗〗!」
次の瞬間、視界が真っ暗になり、何も見えなくなってしまった。ただ分かるのは感覚と音だけ。
「ごめんねレーナ...生まれて直ぐに殺してあげた方が苦しまずに行けたのに...あなたが〖恐怖耐性〗なんてつけるのが悪いのよ...」
声が聞こえる。お母様の声だ。私の耳元で囁かれたかの様な声は暗闇の中で響き、頭の中を真っ白にした。
「ロス!出て来て!!」
「グルゥゥゥゥ!!!」
どうする事も出来なかった私は特に考えもせず、ロスを出すことにした。冷静に考えてみれば屋敷の中にドラゴンを放ったのだ、これはかなりの問題行為である。ただそれもこの状況下では仕方ない。って言うかこれしか方法がなかった。
視覚は5感の中で一番多くの情報を与えてくれる物だろう。特に戦闘においては。それを失った私は何もする事ができない。
それから徐々に視界を取り戻していった私はゆっくりと意識を目の前の状況に向けようとしていると、そこには腹から血を噴出したロスの姿があった。




