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帰還

ギルドの外には白銀に輝く馬車が待っていた。その眩し過ぎる装飾からは金持ちの象徴である貴族の匂いしかしなかった。辺りを歩く住民の目が刺さり、私は急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてしまった。


「ねぇあれ貴族様じゃない?」

「なんでこんな所にいるの?」

「もしかしてギルドなんかやらかしちゃった?」


疑問の声が飛び交う中、私は只淡々と馬車へと足を運んだ。


「そう言えばギルマスどうしたんだ?もう帰って来てもいいと思うんだけどなぁ。」


アルスさんは両手を頭の後ろに回し、何気ない顔をしながらそう語った。


「そう言えば見てないわね...何かあった..とか?」


メイさんは目を伏せ、少し寂しそうな表情を浮かべながらギルド方面へと目を向けた。


そう言えばギルマスさんどうしたんだろう...もしお父様の言っていた通り、今回の犯人がフレッチェリー家だとしたら..少し心配かも...


考えてもしょうがない。その内帰ってくるだろう。そう思いながら私は馬車に乗り、お世話になったメイさん達に別れを告げながらヘップバーンの町を後にした。



――三日後


「レーナ!見えてきたぞ。帝都だ!」


弾んだようなお父様の声が聞こえてきた。お父様の視線の先に目を向けると、そこには変わろうとしない草原の先に聳え立つ大きな灰色の壁があった。


やっと帰ってきた...

私は心の中で叫び、喜びを嚙み締めながら目を輝かせていた。


「けっ剣聖様!!お疲れ様です!!」


帝都の正門を通ろうとした時、近くにいた兵士さんが近寄り、慌てた表情でそう言ってきた。


何故お父様を見ると皆『けっ剣聖様!!』というのだろうか..?普通に剣聖様だけでいいと思うのだけれど、決まっていつも『けっ』がつく。


物凄くくだらない事を考えながら正門をくぐると、帝都の町並みが見えてきた。

ヘップバーンへ行く時は外からカーテンが掛かっていたので見えなかったが、今回は何故か開いている。窓が閉まっているので町に漂っているであろう匂いは残念ながら感じられないが、その華やかさは十分感じ取る事ができる。

立ち並ぶ出店の様な物はヘップバーンの物とよく似ていたが、飾りつけやら扱ってる商品の品質やら量やらが目に見えて上だった。流石は帝都だ。そう感心した私であったが、ある一人の少女が路地裏でさまよっているのが見えた。長い水色の髪が印象的な少女であったが、彼女は見るからに貧乏であった。ボロボロの布切れといっていい程粗末なワンピースを身にまとい、美しいはずの水色の髪は何日も洗ってないかの様にぼさぼさであった。


そんな少女であったが、私は不思議と何処かであった様な気がした。帝国貴族と言う身分でありながら、しかも箱入りだった私はメイさん達以外の平民に会った事がない。あるとしたら家で働く使用人とか..そんな所かな..?

でも何でそんな人が町の路地裏なんかに...?


私が彼女の正体について考えていると、彼女が大柄な男に連れてかれるのが目に入った。その男はどう見ても彼女を普通に扱ってない。無理やり片手を掴み、引きずっていた。


「馬車を止めてください!!」


そんな彼女の姿を目の当たりにした私は居ても立っても居られず、お父様に断りもなく馬車を止めてしまった。


「どうしたんだレーナ。何処か具合でも悪いのか?」

「申し訳ありませんお父様、少し外に出ます。」


お父様は私を心配してくれたみたいだが、今はそんな事に答えてる時間すらない。一刻も早く彼女にたどり着かないと、彼女が何されるか分かったもんじゃない。


私は勢い良く馬車から飛び降り、辺りがざわつき始める。いつもなら顔を真っ赤にして下を見ながらゆっくりと歩くところだが、今は違う。私は直ぐに彼女を見かけた路地裏へと向かおうとしたが、邪魔が入った。


「おい貴族様がこんな所ほっつき歩いてるぞ!!」

「こいつを誘拐すれば大金が手に入る!!」


二人の細身の男性が短剣片手に私に迫って来たのだ。それに何やら物騒な事を言ってる。


「邪魔しないでください!〖気象制御〗!!」


私は力加減が簡単な〖気象制御〗を選び、彼らを〖グラビティ〗を使ったかのように地面に叩き付けた。私は直ぐさま騒然とする住民達をかいくぐり、路地裏へと向かったが、そこに少女はいなかった。


誰だったのかも分からない少女ではあったが、何故かほっておいてはいけないと感じた。私の中の何かが彼女を助ける様にと警告を鳴らした。

しかしそれは叶わなかった。大柄の男には逃げられ、少女の正体もつかめていない。


「レーナ!大丈夫か!!」

「あっ、お父様。」


私が振り返ると血相をかえたお父様が目に入った。それと同時に騒然としていた住民が一気に静まり返った姿も...


「レーナ!ケガは!?大丈夫なのか!?」

「大丈夫ですよお父様。それより彼らは一体なんなのですか?」


近寄ってきたお父様が泣きそうな顔で私の身体のペタペタと触ってきたので、少し距離を置いてから私を襲ってきた細身の男性二人へと目を向けた。すると完全に気を失って地面に倒れてる二人の姿が目に入った。


「多分レーナが馬車から降りるのを見て誘拐しようとしたんだろう。騎士団から追われる事になるが、うまくいけば一生楽して暮らせるだけの金は手に入れられるだろうしな。」


お父様は横たわってる彼らに嫌悪の視線を送りながら淡々と語ってくれた。

誘拐..って...『帝国貴族』にそんな事するなんて命知らずもいたもんだ。もしこれが私じゃなくてフローリーさんだったらその場で首が飛んでたよ...


「近くにいた騎士には伝えてあるし、じきに連行されるだろう。未遂とは言え貴族に手を出そうとしたんだ。ただでは済まないだろうな。」


お父様の言葉を聞いた私は馬車に戻ろうとしたが、ある事に気づいてしまった。周りからの目線だ...

お父様が来てからひそひそと話す人はいなくなったが、それでも視線が痛い。私は顔を真っ赤にし、そのまま顔を伏せたまま馬車へ早歩きで向かった。


馬車に戻った私は数分間、カーテンを閉めたままお父様が乗るのを只々まった。お父様は少しの間状況の整理を行う為にこの場の指揮を取っているみたいで、中々帰って来なかった。外の様子でも見てれば退屈はしなかったかもしれないが、私にその気はなかった。理由は..まぁあれだ...視線...


「すまないなレーナ。予想以上に手間取ってしまって。」


お父様がにこやかな表情で馬車に乗ってきたのは事件からおよそ10分後の事だった。ただ私にとっては1時間位に感じた。

私はそんなお父様にただ笑顔を送り、馬車が再び動き出した。




「着いたみたいだぞレーナ。」


お父様のそんな言葉が発せられたのは事件から1時間が経った時だった。


私がゆっくりと馬車の扉を開けると、目の前にメイド姿の一人の女性が立っていた。金色の長い髪を揺らし、美しい水色の瞳を輝かせてるその姿...私の幼少期を彩ってくれている人物だった。


「レーナ様!!」


馬車を降りようとしていた私を両手で抱え、その瞳から薄っすらと流れる涙は美しい...というより幻想的だった。


「レイシアさん!!」


彼女の腕に包まれ、長らく感じられなかった温もりを嚙み締めながら、私はゆっくりと頬を濡らした。





――1週間後


私とレイシアさんの感動的な再開から早1週間。私は自室でレイシアさんと二人で読書を楽しんでいた。別に失った時間を取り戻すため一緒にいるとか..そう言う理由ではないのだが、ただ彼女がいてくれると落ち着くし、まだ読めない文字だってある。いちいち辞書で調べるのも面倒だし、色々と彼女がいた方がいい事があるのだ。


「レーナ様。そう言えば町で広まってる噂、知ってます?」

「噂?」


当然だが私はそんな事聞いた事がない。町にはあれから行ってないし、そもそもそんな話しをしてくれる友達がいない...

でもどうしたんだろう急に。こんな噂話なんていつもはしないのに、なんかとんでもない事でも起こってるのかな?


「はい!剣聖様の娘さんが物凄い魔術師だとか!」

「えっ?」


満面の笑みでそう言い切るレイシアさんは瞳をキラキラと輝かせ、何かを期待しているような様子だった。


ないそれ...もしかして1週間前のあの事件の事が広まってるとか!?それしか考えられないよねぇ...


「なに私?いや..その...あれだよ!森の中で暇だったから修行したの!!」


私はそう答えた瞬間...気づいてしまった。『ただの噂だよ』って答えた方が良かった...と。


「やっぱり噂は本当だったんですね!!」


頬に手を添え、夢見る少女の様な小躍りをする彼女はとても可愛らしかったが、今の私の目には煽ってる様にしか見えなかった。


「それじゃぁレーナ様も!お父様の様に剣術・魔術学院に?」

「剣術・魔術学院?」


何だその学院は?名前からして剣術や魔術を習う所だって事は予想つくけど、貴族学院はみな歴史や文学を学ぶ所だ。貴族が戦場に行くことなんてほぼないし、習う必要がそもそもないからと言うのが理由らしい。


「違うんですか?旦那様は町の剣術学院に入ってたんですよ。」

「町って...もしかして貴族学院に行かなくていいの!?」


レイシアさんの言葉を聞いた瞬間、私は飛び跳ね、手に持っていた本を放り投げてしまった。ただそれも仕方ないかもしれない、何故ならこの1週間の悩みの種は来年に控えた入学。貴族学院への入学だったからである。知り合いが一人もいないと言うのも一つの理由だが、『帝国貴族』とできるだけ行動したくないと言うのが最大の理由である。


「まぁ剣聖様は平民が通う剣術学院に行ってたと聞きましたが。」


「なるほど!私も剣術学院に入りたい!!!」


「それなら旦那様におっしゃた方がよろしいですよ。私も付いて行きますので、一緒に行きましょう。」


私の純粋無垢な瞳を見たレイシアさんはガッツポーズを決め、私の手を引きながらお父様の部屋へと連れていってくれた。

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