飛竜アンタナ
「レーナ様。どうぞお入りください。」
フローリーは曇りのない笑顔を真っ直ぐ私に見せながらそう呟いた。
私は頭を下げたまま馬車を降りたギルマスとベインさんの先陣を切り、フローリーさんの後をついて行った。
すると、私の屋敷よりも一回り小さい様な建物が目に入った。一回り小さいと言ってもヘップバーンの町で見かけた建物とは比べ物にならない位大きく、庭には銅像やら盆栽みたいな大きな木々なども立ち並んでいた。
屋敷の正面玄関に近づくと、驚く事に玄関が自動的に開けられ、私達はスムーズに屋敷内に入る事ができた。しかし、中に入るとドアを再び閉めようとする使用人達のお姿が見え、自動ドアのからくりが使用人だと言う事実に少しガッカリしてしまった。
「それで、レーナ様はどの学園に入学するか決めましたの?」
私がフローリーさんの後を追いながら、辺りをキョロキョロと見回してると、彼女が私に問いかけてきた。
「学園?ですか?」
学園なんてお父様からも聞いたことがない話だ。貴族の学園は歴史や文学を学ぶ所だって事は分かってるけど、そんなに気に留めてもない事だった。
「まぁ半年も行方不明になっていたので仕方ないと思いますが、レーナ様も来年入学するんですから早目に決めた方がいいですよ。」
半年...私半年も行方不明になってたのか...それに来年入学って義務教育ってことか?もしかして帝国貴族の学園!?冗談じゃない!そんな所絶対行きたくない!お父様に頼んだら外国の学園とかに通わしてくれるかなぁ...他の国の貴族はまだましらしいし...でもダメだろうなぁ..何てったって戦争中だし、戦争中に一人娘を隣国に預けるなんてしないだろうしね。
「あの、フローリーさんはどの学園に?」
「私は帝都のアーデルジア帝国学院ですわよ、今は休暇中でこちらのお屋敷に戻ってるんですの。」
なるほど、帝都かぁ...もし私がどうしてもここの貴族学校に通わなければならなかった時、フローリーさんの通ってる所以外を選択できる様に聞いてみたけど...帝都の、しかも帝国の名前まで付いた学院となると、剣聖の娘である私もそこに通わされる可能性が高いなぁ..
「お嬢様!大変です!!至急旦那様のお部屋まで...」
「発言の許可を出した覚えないんだけど...」
私が絶望のため息を漏らしていると、後ろからメイドさんが大声を上げながら駆け寄ってくるのが見えた。すると、フローリーさんはそんな彼女の慌てた様子など気にせず目を細め、彼女を睨み付けた。
「申し訳ありません!どんな処罰も受ける覚悟はできおります!それより、飛竜が!大型の飛竜が町に飛来しました!!!」
しかし、メイドさんはそんなフローリーさんの言葉に同様する素振りは見せず、淡々と事態の報告をした。
「な!?まだ早いですわよ....レーナ様!お父様に報告を終えたら一緒に避難しますわよ!」
フローリーさんは真顔で最初に何かを呟きながら、私に手を差し伸べてくれた。
「レーナ様。発言の許可を頂いても..?」
「え?はい!」
突然ベインさんが私に話かけて来たので情けない声を上げてしまったが、私は直ぐに姿勢を正し、答えた。
「申し訳ありませんが、私はここで失礼させていただきます。大型の飛竜なら、冒険者の手も必要だと思うので...」
大型の飛竜って..まさかアスシリスじゃないよね...もしその飛竜がアスシリスなら..目的はもしかして私!?子供だけじゃなくて仲間までやられたからやり返しに来たの?でも今までそんなアクション起こしてなかったし...
「私も行きます!!」
考えるだけじゃ何も分からない。それに私のせいで町がめちゃくちゃになってるかもしれないのに一人だけ逃げるなんて..私には出来ない。
「レーナ様!?なにを言ってらっしゃるの!?」
フローリーさんから疑問の声が上がる。まぁそれが当たり前の反応だろう、6歳の女の子が戦場に出ようとしているのだ、しかも帝国貴族の。
「飛竜は森から来た私が目的かもしれません!それなのに市民の皆さんを残して私だけ逃げるなんて出来ません!!」
「まぁいいでしょう...行ってらっしゃい、レーナ様。」
私が精一杯フローリーさんに抗議しようとすると、彼女は以外にもあっさりと了承してくれた。私はそんな彼女の答えに不安を覚えたが、好都合だ。
「レーナ様。正気ですか?」
目を見開いて私を凝視しながらそう言ってくれたのはギルマスだった。ベインさんは横で目線を下げたまま黙っていた。
スカル・リッチ戦で見せた私の戦闘能力を認めてくれているのだろうか?
どちらにしても、もし飛竜がCランク以上だったらベインさん達だけじゃ太刀打ち出来ないだろう。
「私は本気ですよ、マスターさん。」
それだけを言い残して私はベインさんと共に、屋敷の玄関へと走り出した。
「レーナ様!一旦ギルドに戻ってもいいですか。武器とかはそこにおいて来てるので。」
「分かりました。では私は先に飛竜の位置と規模の確認をしてきます。」
私はベインさんに目を向け、確認し合ってから正面玄関から庭へと飛び出した。
「グルゥゥゥゥァァァァ!!!」
庭に出て一番最初に私の目に止まったのは大きく翼を広げた双頭竜だった。まだ距離があるので大きさはわかりずらいが、真っ黒な鱗に身を包み、地竜と言ってもいいような大きな4本の足をはやしていた。
町中にブレス攻撃を放ち、その姿を見た私は居ても立っても居られなくなってしまった。
「申し訳ありませんベインさん。私..先に行ってきます!〖ライトニングスピード〗!!」
そう叫んだ私は光の速さと同等のスピードで屋敷や貴族街と町を分ける壁を飛び越え、一直線に飛竜へと走っていった。
一瞬でヘップバーンの町へと戻った私は直ぐに意識を飛竜へと集中させ、〖ステータス閲覧〗を発動させた。
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種族:アンタナ
状態:怒(超)
ランク:C
LV:60/60(MAX)
HP:302/314
MP:294/326
攻撃力:204(+20%)
防御力:189(-10%)
魔法力:232
速度:203(+20%)
通常スキル:
〖オーラショック:Lv7〗〖かぎ爪:Lv6〗〖邪竜の咆哮:Lv7〗〖テレポート:Lv5〗〖邪眼:Lv6〗〖シャドウスピード:Lv6〗〖火盾:Lv6〗〖闇霧:Lv6〗〖幻炎:Lv6〗〖炎熱波:Lv6〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖苦痛耐性:Lv7〗〖落下耐性:Lv5〗〖雷属性耐性:Lv5〗〖水属性耐性:Lv5〗〖毒耐性:Lv6〗〖闇属性無効:Lv--〗〖火属性無効:Lv--〗
特性スキル:
〖飛行:Lv7〗〖竜の鱗:Lv7〗
称号スキル:
〖邪竜:Lv--〗〖人を食らうもの:Lv7〗〖最終進化:Lv--〗
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予想以上に強いな...でも竜なら私の最大のチートスキル〖竜神〗が発動するはず。ロスの助けを借りようか?いや、このステータスだと〖竜神〗を持ってないロスは多分足手まといにしかならない。ロスには悪いけどじっとしておいてもらおう。
「〖気象制御〗!!」
私は自分の下に物凄い風を生成し、アンタナがいる方へと飛んだ。半径10メートル以内に到達した私はすぐさま右手をアンタナの方へとかざし、今の私にできる最大出力の風を生成させた。
その風をもろに受けたアンタナはその巨体を勢い良く外壁にぶつけ、少しの間戸惑った様子で動かなくなってしまった。
私はその隙を見逃さず〖ライトニングスピード〗のままアンタナへと距離を詰め、右手を前にだし、腹部に触れた。
「〖電熱〗十連発!!!」
これはスカル・リッチ戦で使った〖電熱〗の連続攻撃である。いくらランクやレベルが上のドラゴンでも、この攻撃を受ければただでは済まないだろう。
しかし、〖電熱〗十連発を終えてその腹部に目を向けてみると、傷一つない状態だった。再びステータスを確認して残りのHPを確認しようとしたが、HPは2しか減ってなかった。
もしかして〖電熱〗って火属性スキルに入るのか?いや、たしか雷属性スキルだったはず..それならなんで私の攻撃は効かなかったんだ...
「レーナ様!援護に...」
「グルゥゥァァァァ!!!」
後ろからメイさんの声が聞こえてきた。ただそれと同時に怒りに満ちたアンタナの咆哮も...
ダメだ、メイさん達じゃ太刀打ち出来ない。スカル・リッチの時は私が速度で優ってたから良かったけど、今回は違う。絶望的なまでのステータス差と〖竜神〗を持ち合わせていないメイさん達は足手まといにしかならない。
「メイさん戻って!この飛竜は...!」
私がメイさん達の方へと振り向き、アンタナから意識を放した瞬間、私の背中に何か大きなものがのしかかる感覚に襲われ、そのまま近くの建物まで吹き飛ばされてしまった。
建物の壁が大きくへこみ、私はその中に埋もれていた。
大丈夫...余り痛くはなかった。でも今ので精神的にかなりやられたかも..体もさっきより動きにくくなってるし...
私は直ぐに態勢を立て直し、アンタナに攻撃を仕掛けようと構えていると、アンタナは目にも止まらぬ速さで私に近づきながら前足を振り上げ、一瞬で振り下ろした。振り下ろされた前足の五つの爪先から幻想的な虹色のスラッシュの様な物が放たれ、私はそれを見ても全く動けないでいた。
「〖マナブレイド〗!!!」
男らしい、聞き覚えのある声と共にアンタナのスラッシュの様な物は消滅し、アンタナ自体も動かなくなってしまった。すると次の瞬間、アンタナの胴体は綺麗に真っ二つに分かれた。
「けっ!!剣聖様!!」
メイさんの驚きの声が上がる。彼女の視線は真っ二つになったアンタナの後ろにあり、何か信じられない物でも見たかのような表情を浮かべていた。
「え...?お父様..?」
私は少しふらつきながらメイさんの視線の先へと目を向けると、お父様が剣を握りしめながら私を凝視する姿が目に入った。
「本当に...生きてたんだな..レーナ!!」
私の視線に気づいたお父様は手に持っていた剣を地面に落とし、私に駆け寄ってきた。私はそんなお父様の姿を見て段々と涙が溢れてきた。アンタナの恐怖の解放も一つの理由だろうが、最大の理由は半年間も別れていたお父様との再会だろう。
私はふらつきながらもお父様に駆け寄っていき、抱きしめあった。頭部に冷たい何かがたれるのを感じる。お父様の涙だろうか...ただそんな事はどうでもいい、私はお父様の温もりを感じながら子供の様な泣き声を上げ、彼に思いっ切り甘えてしまった。




