帝国貴族と冒険者
「立てるか?」
そう言いながらベインさんは私に手を伸ばしてくれた。私はそんなベインさんの好意に甘え、彼の手を握り、立つことにした。しかし、そんな状態で立ち上がったのにも関わらず、私はふらつき再び地面に膝をつけようとしてしまった。
「ちょっと大丈夫!?」
少し焦った様子で声をかけてくれたのはメイさんだった。メイさんは私に駆け寄り、支えてくれた。
さっきの戦闘でだいぶ体力を失った私は普通に立つのもままらない状態だった。もしメイさんが駆け寄ってくれてなかったら私は今頃地面に倒れていただろう。
「すみません...」
「取り敢えず場所を変えようか。君、立てるか?」
反射的に謝ってしまった私を見て、少し頭をかいたベインさんは私に近づきながらそう提案して来た。
私は無言で頷き、了承した。
多分ベインさん達も色々と聞きたいことがあるんだろう。私もあるし、別に変に何かを隠そうとも思わない。それにいつまでもこの場所にいるのも少し不気味だ、またスカル・リッチの様な化け物が出てくる可能性だってあるし、一刻も早くここから離れたい。
ただ私は歩くことは出来なかった。立ち上がると物凄い脱力感に襲われ、立ち眩みをしてしまう。
「乗れ!君も早くここを出たいだろう。」
そう言ってしゃがみ込み、背中を向けてくれたのはベインさんだった。私はそれに甘え、彼の首に腕を回した。
まぁこれは仕方ない、動けないでいるのだから。精神年齢20歳以上(多分)の私に取っておんぶしてもらうなんて黒歴史レベルにヤバイ事だけと..ベインさんの言う通りいつまでもここにいるのもちょっと嫌だし..
私がしっかりつかまったのを確認すると、ベインさんは私ごとその大きな体を持ち上げ、洞窟の出口へと進んでいった。
ベインさんも疲れてるだろうに...おとりになったり、ククラ系統のアンデッド数体を一気に相手にしたり、普通の人間であるベインさんは下手したら私より疲労感を味わってるのではないか?
そんな考えが私の頭をよぎったが、立つことも出来ない私に何ができるのかと思い、今回だけ甘える事にした。
しばらく沈黙が続き、洞窟の外が見えてきた。外に出るとベインさんは私を降ろし、直ぐに座り込んでしまった。
やっぱり相当体力を失っていたんだろう。
私は少し申し訳なさを感じながらベインさんの隣に座った。
「それで...君は一体何者なんだ...」
沈黙に包まれた空間を最初に破ったのは二刀流のアメルさんだった。ただ彼は不思議と怯えてはいなかった。ただ純粋に6歳の少女である私を心配しているような..そんな目をしていた。
私が帝国貴族の中で生きてきたせいか、どうやら人間の優しさというものを甘く見ていたようだ。さっきまで私はあのCランクモンスターであるスカル・リッチと戦っていたのだ。6歳の女の子である私が。
その姿を目の当たりにした彼が恐怖を感じないはずがない。ただそんな恐怖よりも少女を心配する心の方が優っていた...それだけなのかもしれない。
再び沈黙が走る..私は何を言えばいいのだ?Cランク下位の化け物で~すって正直に答えればいいのか?
私はゆっくりと立ち上がり、右手を胸元に添えた。
「私はレーナ・ヴォン・アルフォードと申します。この森で..少し迷っていたものです!」
私は彼らに全力の笑顔を向け、自分の名を名乗った。そして気づいた、自分の名前の中に貴族の証である『ヴォン』そして剣聖の娘である事を示す『アルフォード』があった事を。
恐らくは平民である彼らに堂々と自分が『帝国貴族』であると語ってしまったのだ。
「どっかで見たことあると思ったら...まさか...!」
私の自己紹介を耳にしたベインさんは蒼白な顔を見せ、言葉を詰まらせていた。
「申し訳ありません貴族様!今までのご無礼!お許しください!!」
そう口にしたのはすぐ近くで立っていたメイさんであった。メイさんはそう言うと直ぐに跪き、顔を下に向けた。それに続いてケーニングさんも無言のまま頭を下げる。
「おい!お前らどうしたんだよ!!こんな所に貴族様がいる訳ねぇだろ!!」
ただ一人突っ立っていたアメルさんは苦笑いしながら跪く仲間に視線を向け、疑問の声を上げた。
「バカ!ギルドの貼り紙見なかったの?行方不明者の貼り紙に剣聖様の一人娘、レーナ・ヴォン・アルフォード様が載っていたのよ!」
行方不明者の貼り紙?私ってそんなのに載ってたの?何ヶ月も行方不明になってて、しかも飛竜アスシリスに襲われたんだから死んだ物扱いになってると思ってたのに...多分お父様の仕業だろうなぁ。
そんなメイさんの声を聞いたアメルさんは一気に顔を青ざめ、まるで水泳選手の様な華麗なダイブを決め、土下座の耐性になった。
「いやぁ..あの、いいですよ。慣れてないですし、こういうの...」
私は少しぎこちない笑顔を見せながら土下座をやめさせようとした。これじゃぁいつまで経っても話が進まないし、私としても居心地が悪い。
「許してもらえるのですか!!!???」
そんな私の声を聞くとアメルさんは一気に顔を上げ、泣きそうになってた瞳をキラキラと輝かせながらこちらを向いてきた。
「バカ!!」
すると隣で跪いてたメイさんが拳を振り上げ、小さな声でそう言いながらアメルさんの頭をぶんなぐった。
「あの..頭を上げて貰ってもいいですか...私もこういうの慣れてなくて..それに話も進めたいですし...」
私はそんなメイさんとアメルさんのやり取りを見ながら苦笑いをし、頭を上げてもらう様に頼んだ。すると、アメルさんが再び頭を上げようとしたが、直ぐにメイさんに止められてしまった。
「え~と、自己紹介の時にも言いましたが、私実はこの森で迷ってて、数ヶ月間ここから出られないでいたんですよ。」
「それなら!私達が帝都までお送りしましょう!」
代表して口を開いたのはメイさんであった。よくよく考えてみたらほとんど私と会話をしていたのはメイさんであった。多分メイさんは前に貴族と接した経験があるんだろう。
それにしても帰れるだって!?この人今帝都に帰れるとかいってなかったか!!それってお父様や、レイシアさんや、屋敷の皆にまた会えるって事なのか!?
この数ヶ月間の地獄の様な生活からやっと解放されるのか!?
すると私はある事に気づいた。ロスの姿が見当たらないのだ、ベインさん達に会ってロスへの注意が薄れていたのかもしれない。
「ロス...?」
「グルゥゥゥゥ」
私は慌ててロスを呼ぶと、聞きなれた低い鳴き声が耳元で囁かれた様な気がした。声の聞こえた方へと目を向けると、そこには誰もいなかった。
「グルゥゥゥゥ!!」
いや、違う。これは〖念話〗だ。正確には〖念話〗に近い何かだ、何故なら〖念話〗ならハッキリとロスの意識が伝わってくるはずだからだ。
「グルゥゥゥゥゥゥ!!!!」
するときちんとしたロスの鳴き声と共に、ロスが目の前に姿を現した。バッサリと、何もない所から姿を現したのだ。
もしかしてなんかのスキル?いや、でもロスはそんなスキル持ってないし、あるとしたら〖竜神〗の機能かな。配下になったロスを透明にさせる能力?
私がそんな事を考えていると、ロスはあの竜王さんみたいに一気に姿を消した。すると先程の様に耳元で鳴き声がきこえてくる。これってもしかして『わが身に帰れ』ってやつじゃない?つまり肉体を私の中に隠して、必要な時に呼び出す事がでるって事?だとするとこれも〖竜神〗の能力かぁ。
「そう言えば俺達の自己紹介もまだだったですね。」
慣れてなさそうな敬語を不器用に使いながら話したのはベインさんであった。そう言えば正式に彼らの口から名前を聞いてなかった。
メイさんが不安そうな顔をしてベインさんの方をチラリと眺めていたが、ベインさんはそんな事に気付くそぶりもなく、私にその瞳を向け話してくれた。
「俺はベイン・レーガンです。金剛等級冒険者で、このパーティーのリーダーやってるです。」
「俺はアメル・ゲルマ..!」
ベインさんが簡単な自己紹介をしてくれた後にアメルさんも彼に続こうと自己紹介をしようとしたが、メイさんに頭をぶん殴ぐられてしまった。
「申し訳ありません貴族様...私はメイ・クロールといいます。金等級冒険者です。そして彼はアメル・ゲルマン、同じく金等級冒険者です...」
「俺はケーニング・クロールといいます。同じく金等級冒険者です。」
金等級とか金剛等級って冒険者のランクとかなのかな?それにメイさんとケーニングさんの苗字が同じだったけど、兄妹?いや、違うだろうなぁ兄にわざわざ『さん』をつけるとは思わないし、つまり夫婦という訳かぁ。
「それで、何処かに馬車か何かを止めているのですか?この広大な森に徒歩できたという訳ではありませんよね?」
私は一人、メイさんとケーニングさんの関係に納得しながら、彼らに馬車のありかを訪ねてみた。
「いや、その..ここへは転移できましたが...」
少しだけ顔を上げながらメイさんがそう返してくれた。
「転移?」
転移ってなんだ?そんな魔法が存在したのか?まさか..あの変な遺跡にあった魔法陣とかじゃないでしょうねぇ...
「はい...この場所はデルラジア大森林という場所で、この辺りを囲む様にしてCランク上位のモンスターや上位の獣人が生息する危険地帯があるんですよ。」
えっ?ここってそんな危ない場所だったの?Cランク上位ってなに?そんなのそもそも存在したの?それに上位の獣人って...
多分、野生の獣人の事なんだろうなぁ。町に住む獣人もいるけど、その人達は亜人と呼ばれてほとんどが奴隷にされてるんだよねぇ。
「それじゃぁ私がここから出るには、その転移...しかなかったって事ですか..?」
「そう、ですね...」
つまり私が何しようと無駄だったって事!?どうあがいてもCランク上位の化け物なんて勝てるわけがないし、そんな化け物どもに囲まれてる場所でよく生きてたよ..私...




