洞窟のアンデット
『そうね...半分半分かしら...』
その声は再び私の頭の中で響く。
私はこの声が口にした言葉の意味について考えていると、洞窟の中から私と同じくらいの背丈の少女がゆっくりと歩いてきた。その少女は黒髪ショートで、前髪がぱっつんだった。着物のようなものを着ており、まるで日本人形のようだとでも言っておこうか。少女はその不気味な真っ黒の瞳を私に向け、不敵な笑みを浮かべていた。
『ここまでしたのです。逃がしませんよ...』
私とロスは横に並び、戦闘態勢に入った。私は直ぐに少女を睨み付け、〖ステータス閲覧〗を発動させた。
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種族:ククラ・ローメイジ
状態:通常
ランク:D-
LV:21/35
HP:54/54
MP:67/67
攻撃力:52
防御力:45
魔法力:62
速度:41
通常スキル:
〖ハイスピード:Lv4〗〖ファイアウォール:Lv4〗〖闇球:Lv5〗〖闇槍:Lv4〗〖ファイアボール:Lv3〗〖ポイゾンタッチ:Lv4〗〖グラビティ:Lv3〗
耐性スキル:
〖闇属性無効:Lv--〗【火属性耐性:Lv4〗〖物理耐性:Lv3〗〖呪い無効:Lv--〗
特性スキル:
〖アンデットフォグ:Lv4〗〖念話:Lv4〗
称号スキル:
〖デルラジア洞窟の魔物:Lv--〗〖デルラジアの覇王の配下:Lv--〗〖霧の支配者:Lv--〗
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Dランク下位のアンデッドか...
今までは偶に襲ってくるEランク前後のネルウルフ位としか戦ってきてないからなぁ、もうここは逃げるしかないか。
100%勝ち目が無いと言う訳ではないが、ここは逃げるが勝ちだ。私はすぐさまロスとアイコンタクトを取り、後方へと全速力で逃げ出した。
「逃がさないと言いましたよ...」
えっ?今しゃべった?
次の瞬間、辺りが濃い紫がかった霧に包まれた。もうどっちが前だか分からない、でたらめに走ってもアンデットと距離を詰める羽目になるかもしれない。私は急いで少女がいた方へと振り返り、状況を確認しようとしたが、なにも見えなかった。そもそもこっちが本当に少女がいた方なのかも分からない。
私は警戒心マックスで身構え、辺りを見回してると、左側からなんかの音が聞こえた。カン、カンと、その音は次第に大きくなっていった。
「先ずは小手調べです。」
私は急いで声がした方に目を向ける。そこには既に手のひらをこちらに向けた少女の姿があった。
「〖闇球〗。」
少女は笑みを浮かべ、落ち着いた声でそう唱えると手のひらから黒い何かを生み出し、それは徐々に大きくなっていった。。彼女の手のひらが見えなくなってきたころ、それは勢い良く私とロスに襲いかかってきた。
私とロスはとっさに避け、ギリギリでかわすことができた。しかし、少女はそんな私たちの隙を見逃さず、そのまま距離を詰めてきた。
「〖グラビティ〗...」
少女は飛び跳ね、十分な距離を詰めた所でそう唱えた。今度は手も何もかざしていなかった。ただその笑みを私に向け、じっと私を見つめていた。
次の瞬間、私とロスの周りの重力が途端に重くなり、私たちはうつ伏せになり、地面に体を強く打ち付けてしまった。動けないでいる私たちを見た少女は再びその不敵な笑みを浮かべ、こちらへと距離を詰めてきた。
「死になさい。〖闇槍〗」
彼女がそう叫ぶと、彼女の左手から真っ黒な槍のようなものが出てきた。彼女はそれを大きく振り上げ、私と十分な距離を詰めたところで、それを私の背に突き刺した。
「あ゛ぁああぁ゛ぁあぁ!!!」
私は激痛にたえられず大声を上げてしまった。ロスは重力のせいでなにもできず、そのまま地面に這いつくばっていた。
「続けて、〖ポイゾンタッチ〗。」
少女はそう口にし、開いていた右手で私の横っ腹に触れた。
「〖風操作〗!!!」
私は最終手段その1を早速使ってしまった。まぁ仕方ない。今のは確実に死ぬところだった。私の周りに強烈な風が引き荒れ、さすがの少女もこれは想定していなかったらしく、あっけなく吹き飛んでいった。
私は〖グラビティ〗が解けたことを確認し、激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がった。立ち上がった私を見たロスは直ぐに駆け寄ってきてくれて、口から何やら優しい光が出て来て私の負傷した背中を包んだ。
何回も見てきたロスのスキル、〖ヒール〗だ。その光が消えると私は身体の奥底から力が湧き出てくるのを感じた。完全に痛みがなくなってるわけではないが、出血も収まってるようであった。
私は意識を戦闘に戻すと、霧が若干濃くなっているのが分かった。この霧は間違いなく特性スキルの〖アンデッドフォグ〗だ。こういうタイプのスキルは持続的にMPを消費するはず。それに濃くなってきたってことは、敵が焦ってる証拠。こんなに濃い霧を長時間発動できないはず。
私はそう思い、辺りを見渡してると、後ろから燃えるような音が聞こえてきた。振り返って見るとそこには火の玉が三つ仲良く並んで私に迫って来ていた。この程度の攻撃なら簡単に避けられる。しかし、それだけならダメだ、彼女は私が簡単に避けられる事も把握してるはずだ。なら追撃が必ずあるはず。それを食らわない為にも...
「〖ライトニングスピード〗!!!」
私の足から蒼い雷撃が走り、目にもとまらぬ速さで火の玉の方へと走り出した。私はその火の玉をギリギリで避け、そのまま少女がいるであろう場所へと距離を詰めていく。すると見えてきた、顔を真っ青にしてこちらを凝視してる彼女の姿が。彼女はピクリとも動かずじっと私を見つめていた。いや、違う。実際は避けようとしていたのかもしれない。ただ、私の目にはそうは映らなかったのだ。
「〖電熱〗!!!」
私は彼女の腹に触れ、〖電熱〗を発動させた。彼女の肉体が削れていくのが感触で分かる。これは大きなダメージになったに違いない。彼女は〖ヒール〗らしきスキルも持ち合わせていなかったし、そもそも〖ヒール〗はアンデッドにとって毒なのかもしれない。
彼女はそのまま吹き飛んで行き、霧の中へと消えていった。少しすると何かにぶつかるような音が奥から聞こえてきた。木にでもぶつかったのかもしれない。
私は直ぐにライトニングスピードを解除し、彼女に追撃を食らわせてやろうと、右手の人差し指を音がした方へと構えた。すると後ろからロスが駆け寄ってくるのが見えた。
「〖雷撃〗!!!」
指の先から電撃が走り、音のした方へと迫っていく。すると横でロスが何やら両腕を大きく振り上げてるのが見えた。このモーションは〖スラッシュ〗であろう。ロスはそのまま上げた腕を勢い良く降り下げ、爪先から三つずつ、風の刃が生成された。風の刃は私の雷撃頼みに少女がいるであろう場所へと迫り、霧の奥へと消えていった。
少しすると、霧が少し晴れてくるのが分かった。次第に視界が良くなり、段々と少女の姿が目に入った。彼女はもうフラフラで、立ち上がるのがやっとの状態であった。
私としてはすぐにでも逃げて欲しいんだけど、自爆とかされたら困るし。別にこっちの目的は経験値稼ぎとかそういうんじゃないし、肉には困ってないから...そもそもアンデッド肉食べる気ないし...
「ふっっふっふっふっ..」
少女は下を向き、何やら少し笑っていた。かなり不気味である。もしかしたら本当に自爆してくるかもしれないと警戒していると、彼女はとっさにこちらを睨み付けた。私は軽く恐怖を覚え、十分とっていた距離を更にとることにした。。
「〖グラビティ〗!!!」
彼女がそう叫ぶと、私がさっきまでいた場所にいるロスが突然地面に体を叩き付け、這いつくばるのが見えた。〖グラビティ〗、恐ろしい攻撃だ、その最大の恐怖は間合いがわからない所にある。〖グラビティ〗単体では大したダメージにはならないが動きを止められるのは十分な脅威だ。それにモーションもないし、攻撃も見えないとなるとほぼ無敵である。
「〖ハイスピード〗!!〖闇槍〗!!」
彼女は私が〖グラビティ〗の間合いから外れたのを見ると、悔しそうな顔をし、ロスを無視して私に突っ込んできた。今までとは違う異常な速さで。
「〖ライトニングスピード〗!!!」
私は覚悟を決め、ここで決着を付けることに決めた。これを避ければ彼女のMPが切れて簡単に勝てるかもしれない。彼女も大怪我を負ってるし、ここを避ければいつか大きな隙を見せるかもしれない。そんな甘い考えが頭をよぎったが、ここは戦場、そんな微かな可能性なんかにはかけない。チャンスがあるなら自分の力で敵をねじ伏せる。
一瞬で彼女とのかなり遠く思えた距離は縮まった。私は覚悟を決め、もう一つの最終手段を再び使う事を決意した、しかし、彼女は何故か笑っていた。
「〖風操作〗!!!」
「〖グラビティ〗!!!」
私が〖風操作〗を発動させると同時に彼女は〖グラビティ〗を行使した。反時計回りに吹き荒れる風もまだ彼女には届かない。しかし彼女の〖グラビティ〗は簡単に私の〖ライトニングスピード〗の速度を落とし、私を地面へと叩き付けようとし来る。
私は賭けに負けたのか?〖グラビティ〗は見た感じ持続的にMPを消費するタイプだ。そんなに乱用できるようなものではない。まさかこのタイミングで使って来るなんて...いや、逆か、このタイミング以外なかった。
私は地に落ちようとしている右腕を持ち上げ、手のひらを彼女へと向けた。
「〖風切〗..!」
私の手のひらから小さな風の刃が生成され、彼女へと襲いかかっていく。しかし彼女は〖ハイスピード〗のまま軽々とその攻撃を避けた。でもそれでいい、私はその一瞬が欲しかったのだ。私は地に叩き付けられる寸前の身体を〖ライトニングスピード〗を使って無理矢理起こし、足を地面につけた。私はバランスを取り、〖風操作〗を使い地面から強烈な風を引き起こした。私は〖グラビティ〗の重力に逆らい、勢い良く少女へと迫っていく。さすがの彼女もこれは想定外だったみたいで、一瞬迷いを見せていた。しかし直ぐに立て直し、私にその〖闇槍〗を突き刺してきた。
肩に直撃した。血が吹き荒れ、激痛が走る。私はそんな痛みを必死にこらえ、彼女の方へと突き進む。
「もう、いい加減しつこいんです!〖ポイゾンタッチ〗!」
彼女は開いていた手を利用して私の肩に触れた。私は必死の思いで彼女の負傷した腹に触れようとするが、ギリギリ届かない。私はもうダメだ...そう考えたとき、〖グラビティ〗の発動圏内で動けないはずのロスが、高く飛び跳ね、彼女の後ろに回り込んでいた。ロスはその大口を開け私の肩に触れる彼女の腕に嚙みついた。
「ぐっっぅ..!」
彼女はその攻撃を受け、私の肩から手を離した。私はその隙を見逃さす、彼女の負傷した腹へと手で触れた。
「〖電熱〗!!!」
彼女の元々の傷口が大きくなり衣服が燃え上がった。彼女はそのまま地面に身体を叩き付け、次第に動かなくなった。
【経験値14を獲得ましました。】
【スキル〖竜神:Lv1〗により、更に経験値14を獲得ました。】
【レベルが最大値に達しました。これ以上経験値を獲得することはできません。】
【進化の条件が揃いました。】
私の頭の中にその情報だけが流れ、少し安心した。今回の戦い、どれだけ死を覚悟しただろうか、もう覚えていない。私は洞窟から少し離れ、そこで少し休むことにした。




