イベント発生
MとSの分の料理を頼むために俺が列に並んでる間に、二人は赤い髪の女性と飯を食っていた。
「これは私の奢りだ」
そういって料理をくれたらしい。何そのイベント!?
ファンタジーだ。それ、物凄くファンタジーだ!
見たところ女性はイベントのNPCじゃないけど、そういうなりきりなのだろうか?
まぁいいや、仕切り直してもう一度メシだ。
「よぉ! アンタらはどこから来たんだ!?」
ファンタジーだ。これも物凄くファンタジーだ。
すげぇな、飲食してるだけでまたもやイベントが発生したよ。
話しかけてきたのはレザーアーマーを身に着けた男性。「駆け出し冒険者」というのがしっくりくる見た目をしている。
やばい。想定していなかっただけに「あぁ、俺たちはその」なんてどもってしまい返事が出来ない。
「俺たちは東の方から来た」
Sのナイスな返しに助けられた。
「東か、奇遇だな! 俺たちも東から来たんだ。ここで何をしているんだ?」
「クエストを受けようにも腹が減ってはなんとやらだ。まずはメシだろう?」
よし。俺もノッテきたぞ。
「おぉそうか! ここはどんな料理が出るんだ?」
「ドワーフ料理って奴さ。どんな味かは食ってからのお楽しみだ」
「それは楽しみだな! ところで……」
「外してくれよぉ! 誰かこれを外してくれよぉ!!!!」
また新しいイベントが発生したし。
両腕と足に枷を付けられた人が叫びながら近づいて来た。
「なぁ、アンタお願いだ。これを外してくれよぉ!」
「おいアンタ! どうしたんだそれは!?」
「闇商人の護衛依頼を受けたんだが、道中で盗賊の襲撃を受けて捕まり身売りされそうになったんだ。命からがら逃げだしたもののこれが外れねぇんだ。だから外してくれよぉ! お願いだから誰かこれをどうにかしてくれよぉ! 無理なら、もう俺のような罪人なんか首をはねてくれよぉ!」
その設定、面白すぎやしませんか?
周りの人達が彼の枷を外すためにアレコレしてるのを見るだけでも楽しいわ。
左手の『やっとこ』が物凄く大きいガンマンのような出で立ちの男性や獣人の女性。ドワーフにエルフと多種多様な種族に見た目もバラバラで異世界感が出ている。
これは色んな異世界が繋がった食堂にも見えなくはない。
「すみません。写真撮らせていただいても宜しいでしょうか?」
感心しながら眺めていたらカメラを構えた女性が近づいて来た。
「あっ、はい。どうぞ」
「小説見ました。凄く面白かったです」
「ふひっ、読んでいただいてありがとうございます」
これら全てがライファン開始して1時間以内の出来事であった。
なるほどね。こうやって各自自分の設定を作って交流していけば良いのか。
すごいだろ? これ全部参加者がその場のアドリブでやってるだけなんだぜ?
「そうそう、俺はこういうものだ。ヨロシクな」
最初に話しかけてくれた人がギルドカードをくれた。名前は『ウィン・ナーゲット』か。
ギルドカードは自分の写真だから正直作るかどうか悩んで、装備が間に合わなかったので作らずじまいだったけど、こうしてみると欲しくなるな。話すきっかけにもなるし。
「それじゃあ俺たちはクエストに行ってくる。またな!」
食事をとった後はどうするか悩んでいた所だったので、彼らのおかげで自分達も少し吹っ切れる事が出来た。多分彼らが話しかけてくれなければ俺たちは飯を食いながら周りをボケっと見渡すだけで時間が過ぎていただろう。
正直、かなり助かった。
「メシ終わったら、俺たちもクエストに行くか」
「おう」
飯を終えた俺たちはギルドの受付に向かって駆けだした。