それでも消えないものはあり……
食卓を囲み、俺は今までの事をぽつぽつと話し始めた。
秀介が他殺に見せかけて自殺した事。
それがきっかけで犯罪を防ぎたいと願った事。
村で起きた事件で一度は心が折れそうになった事。
久遠と館華の事。
黒の御使いの事。
雷鳥館で死にかけた事。
PCPの事。
最近起きた2つの大事件に関わった事。
時間をかけてゆっくり。
真白達3人はそれを黙って聞いてた。
途中食事も挟みつつ。
簡単にだけど説明を終える。
「テレビで連日報道された、事件……」
「マジかよ……」
「PCP……」
紅葉は途中で気分が悪くなったみたいで、姉ちゃんが運んでった。
テロにも似たあの光景をテレビで見たんだろう。
気分が悪くなってもおかしくないような状況だった。
「犯罪を防ぐなんて、可能なのか?」
信久の言いたい事は分かる。
だけどやらない選択肢が、俺にはもう無い。
「……お前が健文とか俺達にまで会わなかった理由が何となく分かった……」
健文の犯行も止めたかった。
だけど……。
由佳がそっと俺の手を握って来る。
こいつがいなかったら。
折れてもおかしくなかった。
そもそも最初の事件の時に折れてもおかしくなかったんだ。
「テレビの中だけとも思えないしな……」
「困ったら私達にいつでも言って。翔太」
3人が頷いてくれた事が何よりも嬉しかった。
弦さんからの連絡が無いって事は、まだ何も見つかって無いんだろう。
証拠でも探せれば良いんだろうけど、生憎そうなり得るものは捜査資料にも無かったから、楓と弦さんの返事を待つ以外に無い。
風呂も入り、信久と卓と昔話に花を咲かせ、このまま寝るのも勿体無いと思ったのは。
いても立ってもいられないからだろう。
「翔太」
外に出ようと思った矢先に声をかけて来たのは真白だった。
「聞きたい事があるの」
俺は首を傾げたけど、断る理由は無かった。
村の夜は、街灯だけで暗い。
コンビニさえ無い。
だけど空を見上げれば、都会よりも星が見える。
どちらからとも無く立ち止まり、空を眺める。
「ニュースで見ただけだけど、死刑になるんだよね。さっきの人」
久遠らの判決は覆りようが無い。
俺は返事をする。
「でも」
いつの間にか真白は俺を見ていた。
「犯人って自殺しようとして無かった?」
……。
「自殺しようとしてる犯人を捕まえて、裁判にかけて死刑判決って……何か変……じゃない?」
あの場では俺と久遠の細かい事は一切話してない。
それに久遠自身が死んだとしたら。
奴らの望む世界を肯定する事になる。
「まだ何か、隠してる?」
隠し事をしてるって思われたくは無い。
自販機で飲み物を買い、真白に手渡す。
ベンチに座り、もう1度星空を見上げる。
長くなっても良いかと真白に言う。
「紅葉に言われた時、私は変わりたくないんだってハッキリ分かった」
思い当たる言葉が無い訳でもない。
「私がお家になってあげるって言われた時、気付いた」
深呼吸の音が聞こえたのは、聞こえない振りをしといた。
「だから翔太に……何とかしてなんて御願い……」
花澄が殺されて一番苦しんだのは。
もしかしたら真白かもしれない。
自分で真相を知ろうともしたんだろう。
「PCPって多分、警察じゃない。それなら、犯人を捕まえるって判断したのは、警察以外の人達かもって」
じゃなかったら俺の話に違和感を持たない。
だけど、出来なかった。
それを変われないって表現したんだろうと。
2年経った今になってそう評価する事しか出来ない。
「ゴメン。翔太は変わってない。そう思ってた筈なのに……って」
決して俺達を疑ってる訳じゃない。
そんな想いが刺さる。
どこから話すべきか……。
一言で言えば。
久遠が秀介に似てたから。
「聞かせて」
俺も真白も、星を眺めながら。
今までの事を館華さんに話す。
今まで起きた全てを簡潔に。
「……塞ぎ込んだのは、誰に怒りをぶつければ良いのか分からなかったからだと思います。そして……鮎川さん、ですか」
由佳さんに何かあるんだろうか?
「いえ。不思議な方です。本当に。失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、彼女は特に力を持たない。それなのに、翔太さんは彼女に支えられている。そして、有村さんの心の支えにまでなってしまっています。本当に不思議な力」
不思議じゃない。
由佳さんは。
想いの力だ。
「想いの力……」
自分自身の想いをじゃない。
相手を想い、それを力にする凄さ。
由佳さんには、他の人には無い強さがある事を、私は良く知ってる。
「お話は分かりました。ですが、私と有村さんではやはり違いますよ」
館華さんは困ったように笑顔を浮かべる。
「正義さんにお話を頂いた時点で、私自身が殺害される確信はありましたから」
……それでも、諦めなければ良かったと。
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
その代わりって訳じゃないけど。
とても悲しい。
涙をぬぐっても。
こんなにも分かり合えない事が。
「私の為に涙を流す必要はありません」
分かってても。
止められなかった。
ようやく落ち着いてから。
最後に一つだけ質問した。
目が見えるようになってから、一番最初に何を見たのか。
館華さんは目を閉じる。
「世界は美しいと。一目で分かる景色です」
……。
だけどそこに。
将来自分はいないのに。
それでも守りたいと思ったんだろうか。
自分が汚れる事を覚悟して。
死ぬ為に動くって。
「もうそろそろ、時間かも知れません」
私は立ち上がる。
これ以上はもう、あまり意味が無いだろう。
お礼を言い、部屋を後にする。
ありがとう。
有村さん。
振り返らない事が。
館華さんへの礼儀なんだろう。
だけど立ち止まってしまう。
何か言える事は無いのか。
この状態で。
拳が自然と固くなる。
……。
深呼吸する。
出来れば貴女を救いたかったです。
あの頃に戻って。
無理にでもついてって。
これからは。
貴女みたいな人を一人でも多く救います。
返事は無かった。




