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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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それでも消えないものはあり……

 食卓を囲み、俺は今までの事をぽつぽつと話し始めた。

秀介が他殺に見せかけて自殺した事。

それがきっかけで犯罪を防ぎたいと願った事。

村で起きた事件で一度は心が折れそうになった事。

久遠と館華の事。

黒の御使いの事。

雷鳥館で死にかけた事。

PCPの事。

最近起きた2つの大事件に関わった事。

時間をかけてゆっくり。

真白達3人はそれを黙って聞いてた。

途中食事も挟みつつ。

簡単にだけど説明を終える。

「テレビで連日報道された、事件……」

「マジかよ……」

「PCP……」

 紅葉は途中で気分が悪くなったみたいで、姉ちゃんが運んでった。

テロにも似たあの光景をテレビで見たんだろう。

気分が悪くなってもおかしくないような状況だった。

「犯罪を防ぐなんて、可能なのか?」

 信久の言いたい事は分かる。

だけどやらない選択肢が、俺にはもう無い。

「……お前が健文とか俺達にまで会わなかった理由が何となく分かった……」

 健文の犯行も止めたかった。

だけど……。

由佳がそっと俺の手を握って来る。

こいつがいなかったら。

折れてもおかしくなかった。

そもそも最初の事件の時に折れてもおかしくなかったんだ。

「テレビの中だけとも思えないしな……」

「困ったら私達にいつでも言って。翔太」

 3人が頷いてくれた事が何よりも嬉しかった。



 弦さんからの連絡が無いって事は、まだ何も見つかって無いんだろう。

証拠でも探せれば良いんだろうけど、生憎そうなり得るものは捜査資料にも無かったから、楓と弦さんの返事を待つ以外に無い。

風呂も入り、信久と卓と昔話に花を咲かせ、このまま寝るのも勿体無いと思ったのは。

いても立ってもいられないからだろう。

「翔太」

 外に出ようと思った矢先に声をかけて来たのは真白だった。

「聞きたい事があるの」

 俺は首を傾げたけど、断る理由は無かった。


 村の夜は、街灯だけで暗い。

コンビニさえ無い。

だけど空を見上げれば、都会よりも星が見える。

どちらからとも無く立ち止まり、空を眺める。

「ニュースで見ただけだけど、死刑になるんだよね。さっきの人」

 久遠らの判決は覆りようが無い。

俺は返事をする。

「でも」

 いつの間にか真白は俺を見ていた。

「犯人って自殺しようとして無かった?」

 ……。

「自殺しようとしてる犯人を捕まえて、裁判にかけて死刑判決って……何か変……じゃない?」

 あの場では俺と久遠の細かい事は一切話してない。

それに久遠自身が死んだとしたら。

奴らの望む世界を肯定する事になる。

「まだ何か、隠してる?」

 隠し事をしてるって思われたくは無い。

自販機で飲み物を買い、真白に手渡す。

ベンチに座り、もう1度星空を見上げる。

長くなっても良いかと真白に言う。

「紅葉に言われた時、私は変わりたくないんだってハッキリ分かった」

 思い当たる言葉が無い訳でもない。

「私がお家になってあげるって言われた時、気付いた」

 深呼吸の音が聞こえたのは、聞こえない振りをしといた。

「だから翔太に……何とかしてなんて御願い……」

 花澄が殺されて一番苦しんだのは。

もしかしたら真白かもしれない。

自分で真相を知ろうともしたんだろう。

「PCPって多分、警察じゃない。それなら、犯人を捕まえるって判断したのは、警察以外の人達かもって」

じゃなかったら俺の話に違和感を持たない。

だけど、出来なかった。

それを変われないって表現したんだろうと。

2年経った今になってそう評価する事しか出来ない。

「ゴメン。翔太は変わってない。そう思ってた筈なのに……って」

 決して俺達を疑ってる訳じゃない。

そんな想いが刺さる。

どこから話すべきか……。

一言で言えば。

久遠が秀介に似てたから。

「聞かせて」

 俺も真白も、星を眺めながら。



 今までの事を館華さんに話す。

今まで起きた全てを簡潔に。

「……塞ぎ込んだのは、誰に怒りをぶつければ良いのか分からなかったからだと思います。そして……鮎川さん、ですか」

 由佳さんに何かあるんだろうか?

「いえ。不思議な方です。本当に。失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、彼女は特に力を持たない。それなのに、翔太さんは彼女に支えられている。そして、有村さんの心の支えにまでなってしまっています。本当に不思議な力」

 不思議じゃない。

由佳さんは。

想いの力だ。

「想いの力……」

 自分自身の想いをじゃない。

相手を想い、それを力にする凄さ。

由佳さんには、他の人には無い強さがある事を、私は良く知ってる。

「お話は分かりました。ですが、私と有村さんではやはり違いますよ」

 館華さんは困ったように笑顔を浮かべる。

「正義さんにお話を頂いた時点で、私自身が殺害される確信はありましたから」

 ……それでも、諦めなければ良かったと。

喉まで出かかった言葉を飲み込む。

その代わりって訳じゃないけど。

とても悲しい。

涙をぬぐっても。

こんなにも分かり合えない事が。

「私の為に涙を流す必要はありません」

 分かってても。

止められなかった。

ようやく落ち着いてから。

最後に一つだけ質問した。

目が見えるようになってから、一番最初に何を見たのか。

館華さんは目を閉じる。

「世界は美しいと。一目で分かる景色です」

 ……。

だけどそこに。

将来自分はいないのに。

それでも守りたいと思ったんだろうか。

自分が汚れる事を覚悟して。

死ぬ為に動くって。

「もうそろそろ、時間かも知れません」

 私は立ち上がる。

これ以上はもう、あまり意味が無いだろう。

お礼を言い、部屋を後にする。


 ありがとう。

有村さん。


 振り返らない事が。

館華さんへの礼儀なんだろう。

だけど立ち止まってしまう。

何か言える事は無いのか。

この状態で。

拳が自然と固くなる。

……。

深呼吸する。


 出来れば貴女を救いたかったです。

あの頃に戻って。

無理にでもついてって。

これからは。

貴女みたいな人を一人でも多く救います。


 返事は無かった。

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