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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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新たな組織の種

 紅葉、卓、信久も雰囲気が落ち着いて、まるで別人だった。

卓は美大へ進み、信久は情報系の大学へ進んだようだ。

真白は店を手伝う事を決め、ここに残ってる。

紅葉に一番驚いたのが、スポーツ栄養学の専攻って事だ。

「将来有望な奴と付き合ってんだよ。紅葉」

「えへへー……恥ずかしいよ」

「紅葉ちゃんが……色々分かんないもんね」

 はにかみながらも笑顔の紅葉は喋り方こそ変わって無いけど、思い切った選択をしたものだ。

「皆さー進路を決めちゃって、置いてけぼりになりたくなかったんだー」

「置いてけぼりにはならないと思うけどな」

「俺はまあ……絵を描く位しか無かったし」

 日が暮れる前に、あの場所へ向かう事にした。

花澄のお参りを。

その途中、その場所を見る。

2人組が経営してたあの場所を。

真白のおじさんが買い取った美術館。

変わらずそこにあった。

「小学生以下の子供の絵が飾ってあるんだぜ。あそこ」

「遠くから人が来る事もたまにあるよね」

 そっか……。

何となく嬉しかった。

元は犯罪者が建てた麻薬密輸の為の施設だけど。

こうして人の為の施設になってる事が。

俺がやった事も無駄じゃないような気がする。

「行こうぜ」

 信久の声に、移動を再開する。

歩いて行く間にも、空を舞うものが小さく見える。

世界中の欠片が集まる場所。

魂が流れ着く場所に見立て、その場所は流魂と名付けられた。

様々な人の想いがある。

俺は思った。

真実を暴いた刑事は、どんな思いで当時の結論を出したのか。

三条葵はどうなったのか。

真実を暴いたって事は、官野帝を助けるつもりだったのは間違い無いだろう。

じゃなかったら真実が暴かれる事はなかった筈。

だとすれば。

途中でその信念を変えざるを得ない事情が出て来た。

その為のカギになる人物が、もしかしたら三条葵なんじゃないだろうか。

……ダメだ。

ここから先の仮説が思い浮かばない。

「どうしたの翔太? 難しい顔してるけど」

 真白が俺の顔を覗き込んで来る。

「そういや、翔太は今何してんだよ」

「俺達の事は話したんだから、お前も話せよ」

 会う機会が無かっただけだけど、言っても信じて貰えるかどうかは疑問だ。

墓参りが終わったら話そう。

……健文はどうしてるだろうか。

「手紙でやり取りしてるよ」

 そっか。

真白達との繋がりがあって良かった。

健文は仲間を守る為に犯罪に手を染めてしまった。

出来る事なら止めたかった。

だけどそれ以上犯行を重ねさせないように。

そう願ったからこそだったけど。

何とも思わない訳が無かったから。

皆にそれが分かって貰えたのかもしれない。

「翔太に会いたがってたぜ」

 ……近い内に会いに行こう。

一面はちっとも変わらない、割れた風船の山。

空から少しずつだけど、今も欠片が落ちて来る。

紅葉が持ってた花束を添え、全員で手を合わせ、目を閉じる。

この事件だって、過去の憎悪が原因で、殺人にまで発展してしまった。

黒の御使いの発端が50年前に遡る事だって、知った事が遅過ぎた。

知らなさ過ぎた。

皆も何らかの形でそう思ったのかもしれない。

だから変わる必要があるって。

目を開ける。

夕日は眩し過ぎた。



「正義さんが行っていた事は、今の貴女方が行っている事と基本的には変わりません。犯罪者としての視点か、止める視点かの違いで大きく変わります。例えば不可解な未解決事件があった場合。最悪のケースを想定する。その状況を考えた場合、何が真実足りうるのかを想定し、理論の実証を行う。その的中率が異常な程に高いのが正義さんです」

 ……直感なのか?

殺人教唆を支えていたのが。

館華さんは首を横に振る。

「あまりの速度にそう見えてしまうだけ。恐らくですが、頭の中で全てのケースをシミュレートしているのでしょう。そこから最適解を一瞬にして導く。そして行動を行う。或いは1つの仮説を立て、他の準備を行いながら他のケースを考えているのかも知れませんが、私にも分からない事が多いです」

 全ての状況を考えてるんだとしたら。

不可解な事件の洗い出しをし、それに当てはまる人物を日本に住む人物の中からピックアップ。

推測のケースに見合う人物の最適化を行い、犯人を特定する……?

近未来のハイテクコンピューターみたいな事を、たった一人でやってたって事?

「ただ、既に手遅れなケースなだけです。それは間違いありません。迷っている人物に殺人教唆をしても、本人が拒否をするリスクがあります。そうなればその人物を殺害せざるを得なくなる。そうなれば私達はただの殺人者になってしまう」

 PCPのやり方に似てる。

ただ、地理的な情報もこっちは入手できる分強いけど、久遠が一人でそれをやってた事が有利に働いたんだろう。

単純に翔太さんと久遠の1対1じゃなく、PCPとして動いた事が逆にデメリットになった。

だから最初は後手を踏み、期間が長くなるにつれて追いつくって言う。

久遠が望んだシナリオ通りに。

今の館華さんの話は、PCPに持ち帰った方が良いかもしれない。

桜庭さんがどう考えてるかは知らないけど、人数はもっといた方が良いって思うから。

それに今後犯罪を防ぐ上で、必要な事が私なりに分かった気がする。

まずは手順を知る事だった。

手順を知らないで闇雲にやっても仕方が無かったと悔やむ。

後悔ばっかりが増えてく。

だけど、今後に繋がる事が増えた。

ただ一つだけ気になる。

「何でしょう?」

 館華さんは。

久遠に殺人教唆をされた時点で。

もう手遅れだったのか。

館華さんは目を閉じ、何も答えなかった。

ただそれがとても悲しかった。

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