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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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刹那を足掻く

 真白達と会うのは2年振りだ。

あの事件から一度も顔を合わせてなかった。

久遠と黒の御使いを追ってたのは事実だけど、それでも会おうと思えばいつでも会えたし、連絡だって取れた筈。

どこか無意識の内に避けてたんだと思う。

「あ、あたしまでお邪魔しちゃって良いの?」

「だからっておっさんとこに泊まるのはもっと嫌なんじゃないの?」

 負の2択だろう。

まあ、由佳をここに連れて来る時点でそうなるから、別に問題は無いけど。

健文の事件を暴いて、俺は一度折れかけた。

皆、あれからどうしてるんだろうか。

今更ながらに思ってしまう。

皆大学に進学して、都会に出てるんだろうか。

それともここに残ってるんだろうか。

「翔太?」

 振り返る。

割烹着姿。

スーパーの袋を下げてるのは、買い出し帰りだろうか。

いつもそうしてた。

だけど、雰囲気が全然違ってる。

「真白ちゃん! 久し振り。すっごい美人になったわねー」

 思わず抱きつく姉ちゃんに、照れながらも嬉しそうな表情の真白。

……本当に雰囲気が変わった。

「優子さんも、お久し振りです。 ……そちらの方は?」

 呆けた表情の由佳がピッと背筋を伸ばす。

……多分由佳も見とれてたんだろう。

「あ、あたしは鮎川由佳って言います!」

「翔太のこれ」

 小指を立てる姉ちゃんはおっさんみたいなリアクションを止めて欲しい。

「翔太の! 宜しくお願いします!」

「真白ちゃんと同い年よ」

「宜しくね。鮎川さん」

 笑顔で由佳に手を差し出す真白。

性格も何だか明るくなったように感じる。

……2年でも流れる時間はそこにある。

ぼんやりとそんな事を思う。

「皆今日帰って来るって言ってたから、皆で食べよ!」

 真白は他の皆と今も連絡を取り合ってる。

俺は薄情な奴なんだろうか。



 翔太君の頼みであれば断る理由は無かった。

どれだけの困難なミッションであっても。

命を救って貰っただけではなく、志を共にする、尊敬する人だから。

50年前の未解決事件の解決をどうやって解決できるのか想像もつかないけれど。

翔太君ならと、そう思うから。

どちらかと言えば、問題は私の方だ。

半世紀も前の秘密結社の情報がどこに残っているのだろう。

ましてや誰が所属していたかなんて、記録に残っている筈も無い。

実際にPCPが持っているデータベースにアクセスをしてみても明らかだ。

であれば、見方を変えて考える。

昔の秘密結社関係者がいそうで、尚且つ会える確率が高い場所を考える。

とするならば刑務所だろう。

或いは、服役し、刑期を終えた人物の情報を得る事が出来れば。

まだ見通しが立つと考える。

華音ちゃんに協力をして貰う事が望ましい。

彼女は交渉人としての道を決めたようだから、彼女の経験も積めてPCPとしてのメリットが強い。

試しに電話をかけてみる。

けれど、留守電に繋がってしまう。

一体どこで何をしているのか。

世話係(と言うのは語弊があるかもしれないけれど)の森田さんに聞いてみると、どこかへ出掛ける予定が入っているらしい。

久遠らが逮捕されてから、頻繁に顔を出さなくなった事と何か関係があるのだろうか。

……森田さんが詳細を知らない以上、華音ちゃんからの連絡を待つ以外に方法は無さそうだ。

頭を振り、他に手が無いか考える。

秘密結社が管理をしていそうな施設に乗り込む……事はあまりにもリスクが大き過ぎる。

優子は翔太君と由佳ちゃんと一緒に帰省中。

タイミングが悪いと思った所で仕方が無い。

出た結論は、連絡が来るまで、ここPCP拠点で情報収集をする事。

翔太君らとは違い、今後は運営を重点的に行って行く事になるだろう。

立ち位置上、私がそうなる事は仕方が無い。

けれど言い様の無い気分が無いと言われれば、否定する事が出来ないのも事実だった。

黒の御使いと久遠の事件が解決して良かったと思う一方、私自身のここでの役割が無くなって行ってしまう。

秘密結社に関する情報が何も得られない事からの焦りだろうか。

ここまで後ろ向きな思考になってしまうのは。

翔太君は決して歩みを止めなかった。

役割が無いのであれば、見つければ良い。

誰かが動けない時の代わり。

私がそれをすれば良いだけだ。

そう自身に言い聞かせる。

それに。

現実問題圧倒的な人財不足だ。

犯罪を防ぐのに現状たった4人。

優子と森田さんを含めれば6人だけれど。

それでも充分な人数と言うには程遠い。

だから有能な人物を探す。

当面はそうして動いていく。

1人現状で宛てはある。

大塚さん。

京都の事件の時にはオフ会を開くという形で協力して貰った。

彼女であれば私達とも面識があるし、打ってつけの人財だと言える。

後は……。

苦笑する。

やるべき事なんて幾らでもあるでは無いかと。



 案内された同じ部屋で、館華さんはヴァイオリンを弾いていた。

私は音を立てないように歩いて行き、向かい側に座る。

小さい頃、何度も見て何度も聞いた。

兄さんがそこにいる気がした。

ヴァイオリンの話もしてみたかった。

もう少し早く色んな事に気付けてれば。

兄さんが殺人者なんて噂が流れなければ。

気付けてさえいなかった。

無力なだけの私。

共通点を見せられる度、気持ちが強くなってしまう。

静かに演奏が終わる。

「有村さん」

 目をゆっくりと開く館華さん。

「私はもう、処刑される未来が決まっています。だからもう、過去の人なんですよ」

 ……。

それは違う。

以前も言われた。

以前に言ってくれた人は、私を前に進ませる為に言ったけど。

忘れなくても前には進める。

前に進みたいと願う事は出来た。


「死ぬって分かってる人に絶望したまま死なせたくないです」

「何故そこまで関わろうとするのですか?」


 これは。

私の単なる我儘。

館華さんの話も聞くし、館華さんには私の話も聞いて貰う。

過去の私もひっくるめて。

一言で言えばそう。

館華さんが処刑される未来はもう変えられない。

だけど、それとこれとは話は別。

私がそう思うだけ。

真っ直ぐに館華さんを、私は見た。

「有村さんのお話をどう受け取るかは、私次第なのは分かっていますか?」

 結果的に、こう言う人にロジックで勝てる訳も無いから、私が打てる最善だったのかもしれない。

私は黙って頷く。

「……では、私からで良いですか?」

 悪い言い方をすれば。

犯罪者からのバトンを受け継ぐようなもの。

私にしかそれは出来ないと思う。

罪を憎んで人憎まず。

一番適切かもしれない。

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