翔太と秀介
小学2年の時だったと思う。
放課後に何となく校舎を歩いて回ってた。
家に帰っても家事をさせられる事が嫌だったからだと思う。
由佳も家に来て色々してくれたけど、自分がやる事が兎に角嫌だった事を覚えてる。
小学校は旧校舎と新校舎に分かれてた。
旧校舎は高学年がいる所だったから避けた。
だから新校舎の4階。
誰かいないかって何となく思ったのか誰もいないと思ったのかは覚えてない。
けど、4階への階段を上がる時に、綺麗な音色が聞こえた。
その音に吸い込まれるようにして俺は音楽室のドアを開けた。
そこにいたのは、俺と同い年位の。
見た目は男か女か分からなかった。
どうでも良かったって言った方が良いかもしれない。
ヴァイオリンを弾く姿に余りにも衝撃を受けたから。
その時なりに気を遣って、音をたてないようにした覚えがある。
扉を開けた時点で音が鳴ってた筈だから、気付かれなかったかもしれないけど。
演奏は長く続いたけど、時間はあっという間に経った。
只管に聞いてた。
弾いてる最中に閉じてた目がようやく開かれ、その時初めて目が合った。
「……誰?」
そんな問いに俺は拍手で答えた。
「ずっと聞いてたの?」
何でそんなに弾けるの?
って聞いた気がする。
会話のドッヂボールだった。
「何でそんなに弾けるの?」
「君、誰?」
「凄かったよ!」
「うん。ありがと。けど、誰?」
「ショータ」
「ショータ君? 何年生なの?」
「しゅうすけ君って言うんだね」
「何で分かったの?」
「名札ついてるもん」
「ショータ君はつけて無いんだね。ダメだよつけなきゃ」
「忘れちゃったんだ」
「そっかー」
「3組なんだね。僕は1組」
「2年生なの?」
「うん。運動会の時に一緒になるよ」
「どうして?」
「だって1年生の時は1組と3組が紅組だったもん」
「……ショータ君って凄いね」
「しゅうすけ君の方が凄かったよ!」
「ありがとう」
「明日もここにいるの?」
「うん。発表会の練習しなくちゃ」
「じゃあ、また明日ね!」
こんな感じの会話だった……と思う。
流石に会話の詳細は覚えてないけど。
あの時の俺は秀介の演奏に只管魅了された。
それから、毎日のように音楽室に通うのが日課になった。
お陰で洗濯とかその他諸々を姉ちゃんに丸投げする事になったけど。
土日に遊ぼうと何度も誘ったけど、当時の秀介はヴァイオリニストとして相当注目されてたようで、日々練習に明け暮れてたようだ。
発表会が終わり、運動会で俺達は打ち解けた。
そっからは毎日バカをやって過ごした。
工事予定地に秘密基地を作ったり、学校の屋上に忍び込んだり。
その中で秀介は毎回ヴァイオリンを弾いてくれた。
ある日持たせて欲しいって言って、誤って落とした時は1週間口を聞いてくれなかった。
秀介は動物の飼育を良くやってて、学校の鶏に指を齧られてから動物が苦手になった。
それを良い事に秀介は被り物に目覚めた。
そんな日々に由佳も加わって。
本当に楽しい時はそこにあった。
思い返してみても。
俺の中の秀介に心の闇を見つける事が出来なかった。
秀介の中の心の闇が、明確な殺意として意思を持ったのが今から約3年から4年前。
秀介が家に来る事はあっても、俺が秀介の家に行った事は無かった。
それに、秀介の両親が亡くなったのは高校に入ってから。
高1で別のクラスだった俺が知れる事は無かった。
だからこそ、俺に言ってほしかった。
演奏会で忙しかった秀介と会う頻度も多くは無かったけど。
当時の俺が、ヴァイオリンの音から秀介の変化に気付けただろうか。
後悔しかない。
由佳が黙ってハンカチを俺に渡す。
……我ながら女々しい。
「そんな事無いよ」
由佳の言葉に姉ちゃんも頷く。
「あんたがそう言う経緯で今の活動をしてるんなら、有村君だって納得するでしょ」
そう、なんだろうか。
「多分、有村君も翔太の力に気付いたんじゃない?」
能力がある事が良い事じゃない。
無能は悪い事じゃない。
何もしないのがダメだった。
俺は見事に何も出来ず。
これからも多分後悔し続ける。
「そんな難しく考えても仕方ないわよ」
姉ちゃんは呆れたように俺に言う。
「結果あんたが願って行動して。多分大勢の人は救われてるんじゃない? 世間がどう思ってんのか知らないけどさ。凶悪犯罪を、あんた達が両方止めた」
……そうだ。
俺は2度と同じ事を繰り返したくないと願った。
これからも勿論続けてく。
それでいつか。
良かったと思える日が来るかは分からないけど。
『次はー風舟村ー風舟村ー』
皆がいるから。
全てを乗り越えて。
いつか。
それに過去の未解決事件。
これも解決できたなら。
全ては連鎖してる。
それに気付けて良かった。
だからこそ。
歩みを止めないで行ける。




