善を想い逝く願い
ヴァイオリンの音色はどこまでも奇麗だった。
それなのに、どこか違和感を感じるのは何でだろう。
館華さんはそれに気付いてるのか気付いて無いのかは分からない。
ただ、何て言うか。
只管に寂しい音だった。
弾き終えた館華さんは。ゆっくりと目を開く。
拍手はしなかった。
多分求めて無いって思ったから。
「いかがでしたか?」
とても寂しい音だった。
私は素直な感想を言う。
「流石に誤魔化せないですね」
私が意識不明だった時に弾いてた兄さんのヴァイオリンも。
こんな音色だったんだろうか。
ただただ優しく包み込むような音しか聞いてなかった私は。
兄さんが本当はどんな人間だったかを知らなかった。
「世界の憎しみを見て下さい」
世界の憎しみ?
訳が分からない。
「どう言う事ですか?」
「人を見れば憎しみは目視出来ます。この世には情報が溢れている時代です」
「……SNSって事ですか?」
「犯罪を犯した人物が、そのようなものを利用すると思いますか?」
「……見えない情報を、貴女達はどうやって入手できたのですか」
「PCPでも行っているのではないですか? 或いは翔太さんらが殺人事件を解決した時のように。視点を変えるだけです」
話が飲み込めないのは、私の理解の範疇を超えてるからかもしれない。
それでも翔太さんが事件を解決するのと同じ方法で視点を変えるだけなんて。
私達が犯罪者な訳が無い。
「事件が起こってから、その発端を調べる。私達は常日頃から発端を調べる。ただそれだけの違いです。未解決事件の関係者を洗い出し、推測して真実を導き出す」
……。
だったらどうして殺人教唆なんてしたの?
そんな事をして、憎しみの種をまた蒔いて。
意味が無いじゃないか。
「被害者の殺意が、完全に意思を持ってしまったからです。そうなってしまってはどうする事も出来ません。全て、終わらせるしか無かった」
そんな理屈は認めない。
ただ逃げただけ。
……やっと気付いた。
私達と館華さん達の決定的な違い。
犯罪を0にするんじゃない。
憎しみを0にする事を目的にしてたんだって。
私達とは違う。
「同じ事ですよ」
違う。
感情から逃げる事が犯罪0には繋がらない。
向き合わないとダメなんだって。
私は気付かされた。
「でしたら」
館華さんが私を見る目つきが変わる。
剥き出しの敵意が私に向けられる。
「家族に殺害されそうになった私はどうすれば良かったのですか。向き合う事も叶わず、お父様に気に入られただけの理由で家族に2度消されかけた私は、一体どうすれば良かったのですか!?」
……。
何が正解だったかなんて。
今更の結果論に過ぎないかもしれない。
それでも。
翔太さんが殺人を止める為に館華さんの所に訪れた。
その想いを利用した。
それは事実。
あの時翔太さんの手を取ってれば良かった。
それに、罪自体に情状酌量の部分があったかもしれない。
殺害されそうになってたのは事実だから。
だから……。
今まで何が起こったのか。
それを私が知ってる範囲で話したい。
このまま館華さんが死刑になるのは。
法律的にも社会的にも私には止められない。
だけど。
やっぱり館華さん自身が世界を憎んだまま死んでほしくない。
『そろそろ時間だ』
倉田さんが入って来る。
私は来た時と同じくアイマスクをさせられ、立ち上がる。
私は館華さんに。
また来ますとだけ告げた。




