怪文章
拓さんはまだ本庁に戻って無いらしく、代理の警官に資料室に案内される。
警官はほとんど出払ってた。
こんな施設を黒の御使いが襲撃したなんて、本当に夢のように思う。
警視庁は修理後初めて来るけど、あの光景は身の毛も弥立つような光景だった。
部屋に案内され、1つのファイルを渡される。
問題なのは平石の交友関係。
普段どう言う行動を取り、誰と関わりを持ってたのか。
現在で言うフリーターだったらしく、仕事を転々としてたらしい。
どちらかと言えば社交的ではあったけど、少々裏も絡むような人物との交流もあったようだ。
裏に絡む人物が誰かは分かっていないのか、具体的な名前は記載されてなかった。
そんな中、1人の名前に目が行く。
三条葵。
平石の通っていたらしい店の店員だったみたいだけど、行方が分からなくなってる。
それに、裏も絡んでる人物との交流。
……いよいよ立てた仮説に信憑性が出て来たと思われる女性の失踪。
裏も絡んだ誰かが平石に殺人教唆をし、途中で平石を殺害した可能性が出て来る。
これらの仮説を詰めるには、三条葵の行方だろう。
拓さんが帰って来るまでここで待っても良いけど、PCPの犯罪データベースに載ってれば事件の詳細を詳しく知れるかもしれない。
多分別の事件として捜査が行われてる筈。
他に何か無いか。
資料に目を通すにも、情報は無さそうだ。
後は推測するしかない。
他に何か無いか。
両小指を絡め、手を口元に当てて考える。
……双鏡塔に人が住んでた形跡があった事。
けど、官野の日記から推測するに、建てられたのは今から多分10年前位だろう。
この事件とは直接的な関係は無さそうに一見思えるけど。
……。
埒が明かない。
PCPに戻るしか無さそうだ。
俺は警官の人に許可を貰いファイルをカバンに入れ、PCPに向かう。
その間にも考える。
双鏡塔の住人は事件に直接関係無いって考えるのが妥当。
だけど、関係無いとして偶然あの塔の秘密に気付き、隠れ住むなんて事は考えられない。
だから何かしらの関係があるって考えた方が考えやすい。
だとしたら。
誰が住んでたと仮定すれば一番しっくり来るのか。
官野が日記に書いてなかっただけで、官野が匿った人物とも取れる。
それに、官野には匿う理由らしきものが思い浮かぶ。
無実の罪で長い間隔離された人生を送った官野なら。
同じような人物を見かけて匿う事は理由として妥当だからだ。
だけど、それなら事件に直接関係は無いし、第一その間の生活をどうしてたのかが分からなくなる。
だから党の秘密を知ってて、尚且つ動ける人物が匿ったと考えた方が良い。
だけど、今の所それに当て嵌まる人物が思い浮かばない。
つまり、まだ情報が足りないって事だろう。
気になるのは平石が裏も絡むような人物と知り合いだったって事。
この人物が利用した可能性は考えられないだろうか。
……頭を振る。
知る機会が無いじゃないか。
多分、当時で官野の建造物の秘密を知ってた人物は皇桜花以外にいない……。
立ち止まる。
待て。
もう1人いた筈だ。
官野帝の日記にも書いてあった筈。
武道を教えた人物。
そいつなら建物の秘密を知り得たんじゃないだろうか。
それに、建物は何も官野が1人で建てた訳じゃないだろう。
建築に関わった人物だっていた筈。
後者は記録が残って無いし、多分秘密裏に建てられたものだから例え目星をつけて問い詰めても自白しないだろう。
けど前者はどうか。
多分単数。
何人もの人間に関わらせたりはしないだろう。
官野は皇桜花に心の闇を託したんだから。
人との関りにおいてそれが薄れるのは極力避ける。
皇桜花に武道を教えた人物。
仮にまだ生きてるのなら。
何か詳しい話でも聞ければ良い。
或いはその本人が住んでたか。
この辺りはまだ考える余地があるけど、ある程度条件は絞れた。
カードキーを差し、校舎に入る。
由佳と楓が別の視点で50年前の事件捜査をしてくれてる。
鍵を開けて扉を開け、真っ先に飛び込んで来るのは8台分の大モニター。
それに最初は2台だったPCが4台に増えてるデスク。
以前、ここは何度か犯罪者に襲われた為、施錠を忘れないようにしてる。
中には由佳だけだった。
多分楓は経営側の仕事をしてるんだろう。
「さっきまでいたわよ。だけど用があるからって出かけちゃった」
仲が良いのか悪いのか、PCPの女子らは本当に良く分からない関係だ。
だけど目的と想いが一致してるから組織は出来る。
そう思うようにしてる。
仲が良いから組織が出来るとも限らないし、仲良くするだけで終わりなんて意味が無い。
PCモニターには、文字が並んで消えるを繰り返してた。
何をしてるか一見すると分からないけど、画面右下に名前が書かれてる。
50年前の被害者の名前だとすると、被害者の名前を使って何か意味がある文章が出るかどうかの解析をPCでやってるって所か。
プリンタに次々と印刷されてく文字列。
紙が何枚あるか、現状何センチかはあるだろうレベルにしか分からない。
「終わったら解析。精度は一応70%にしてるから、中々骨が折れると思う」
毎回のようにこんな膨大な情報を解析してくれる由佳には感謝。
……もしかして。
昨日カフェで怒ってたのってあれか。
由佳の肩に手を置き。
一言昨日はごめんと謝る。
すかさずティッシュを出し、由佳の鼻血を拭う。
リアクション鼻血の割合多過ぎて困る。
とりあえず、データの解析を優先した方が良いだろう。
予測通りの結果になる可能性は限りなく低い。
だけどやらないで後悔する事が最悪だろう。
紙に目を通していく。
文章になってるはなってるけど、中々これだと思うような文章が無い。
見てるだけなのも時間の無駄な気がするから、考えられるが他に無いか思考を巡らせる。
官野帝が皇桜花に出会った時。
多分70歳位離れてたんだろう。
関係で言えば親子と言うより祖父と孫の関係だろう。
……ふと、俺のお爺ちゃんお婆ちゃんは誰なんだろうと思う。
俺が生まれた時には既に亡くなってたのは聞いてる。
そんなに年が離れた人物の心の闇を全て託されてしまった皇桜花は。
本人を殺害したいと願ったのはいつだったんだろうか。
最初から殺害するつもりなら、官野が死ぬ前に殺害すれば良かったんじゃないだろうか。
時系列に矛盾を感じる。
考えられる可能性としては。
途中から皇桜花自身が分からなくなったんじゃないだろうか。
死人の事をとやかく言うもんじゃないけど。
だけど今の事件は50年前の事件。
どうしても考えが既に死んだ人間に対して向いてしまう。
真相を聞いておけば良かったと。
もう出来もしない事まで考えてしまう。
果たして真実に辿り着けるんだろうか。
……ダメだ。
思考が弱気だ。
過去の事を考えてるせいかもしれない。
何も出来なかった俺をどうしても思い出してしまう。
だけど。
それに立ち向かうなら今しか無いのかもしれない。
思考を止める。
今は目の前の事に集中するよう、自分に言い聞かせる。
関係性のある文章が出て来るなら。
殺害した人物への恨みでは無く。
殺害した人物に何らかの意味がある。
そう理論を展開できる。
暫く紙との睨めっこは続き、日が暮ようと橙色に染まる。
そんな時。
気になる文章を見つける。
あおいけひたときはかけれた
こみはひやした
思考が止まる。
ただ気になるなんてレベルの文章じゃない。
唯一確認出来た名前。
三条葵。
その名前としか思えない文章がここに結果として出てる。
この時点で確定と見て良い。
三条葵が連続殺人に何らかの形で関わってる。
つまり。
複数の事件が絡んでる事件だって事は。