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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪1 輓近の魔術師
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閃光

 そこは古い教会のような所だった。

十字架には焦げ跡。

黒焦げになったそれを見て、鑑識に全てを任せ、翔太君達が向かった場所へ向かう。

やはり既に殺人が行われていた。

考えてみれば明らかだった。

犯人からしてみれば、本当に実行すべきは殺人。

被害者をスタンガンで気絶させただけで放っておく訳が無い。

街中で起こった火の魔術のように、確実な殺害方法を選択する筈。

……今は目の前の事実をと頭を振り、改めて現場を見る。

十字架の近くには、トランク程の大きさの装置らしきもの。

電気を使った魔術は見ただけで方法は分かる。

恐らく以前に呪恨館で使われた雷の発生装置を使ったのだろう。

ここで私は確信する。

黒の御使いが裏で関わっている。

ここからそう遠くは無い。

間に合ってくれと願う一方で、森で行われてしまった惨劇を考える。

全てを飲み込んだ炎をどうやって作り出したか。

一目見て残った証拠が無かったのは、全てが燃えてしまったから。

燃え残った物証が僅かにある中でそれが起こったのは。

可燃性物質の中でも性質の高いものが使われたのだろう。

現場にはガソリンやアルコール類の匂いが残っていない。

だが、事件が起こった当日ではない為使われた可能性はある。

しかし映像ではかなりの燃え方。

地面だけではなく、空中にまで炎が広がっていた。

それら2つの事実が相反する。

と言う事は、第1の事件で使用された可燃性液体ともう一つの何かを使い、あの映像を可能にする方法。

燃えカスから残っていたのは被害者の所持品、そして雑草から出た灰のみ。

これだけの情報から、結論を導く事が出来るのか。

……いいや。

こんな考え方をしていて、結論は絶対出ない。

事実を可能にする方法。

輓近の魔術師と言えど、何の準備も無しにいきなりあの状況にする事は不可能。

炎が上がる前の映像から、何かが仕掛けられた形跡は無い。

恐らくは夜の間に仕掛けたんだろう。

だが、細い糸や紙の燃えカスも見つからなかった。

だとすれば何だ?

事故を起こさぬよう、しかし迅速に車を走らせ考える。

だが、答えが出ない。

そうこうしてる内に何れ翔太君達が向かった場所についてしまう。

時間よ止まれと願っても、止まるのは車だけだった。

藁にも縋る思いで朋歌さんに連絡をする。

『もしもし? 拓也さん?』

 私は未だに朋歌さんに迷惑をかけていた。

たまにこうして行き詰った時には電話をしてしまう。

捜査状況さえも。

『証拠が何も無い、それでも空中で巨大な火の玉が上がる方法……』

 流石にこんな事を頼んでも分かる訳が無い。

『プリザーブド処理……』

 え?

はやる気持ちを朋歌さんに隠してもバレバレだ。

『お店のインテリアに飾っているのよ。コストが掛かるから、私が一から勉強して行ったの』

 ……と言う事は。

1つの方法が思いつく。

厳密にはプリザーブド処理をする必要は無いかもしれない。

後で実験をしてみる価値はありそうだ。

朋歌さんにお礼を言うのを忘れず、アクセルをフルに踏んだ。



 少女は爆散した建物に見入っていた。

あの状況から生き残る事は万が一にも無い。

第一生死に興味が無かった。

止めていた車に急ぐ。

スーツを着用したのは、人ごみに紛れても気付かれないようにする為。

そうして全てが終わる筈だった。

正面にいたのは老人だった。

吉野翔太達の他にも人がいたのかと愉悦する。

忠告は正しかったが、それが嬉しかった。

「魔術の行く末を見なくても宜しいのですか?」

 言いながら構える老人は、どう見ても武道を嗜んでいる。

更に車が到着し、もう1人男性がやって来る。

「警視庁の倉田だ。輓近の魔術師だな?」

 慎重に、そして確実に少女に迫って来る。

ステッキを2人に向け、唱える。

現代に蘇る、魔術を。


 ライト。


 ステッキから放出された光が。

2人から視力を奪うだけ。



『翔太君!? 物凄い音が聞こえたけれど、大丈夫!?』

 ……。

楓の心からの声に目を開け、大丈夫だと告げる。

『良かったわ……』

 楓に謝罪をし、目に入った崩れた建物。

跡形も無く消し飛び、床から小さな炎が上がってるだけだった。

耳鳴りが酷いけど、それ以外に目立った怪我は無いみたいだ。

隣で寝てる由佳と被害者も無事のようだ。

由佳を起こしてゆっくりと起き上がる。

気絶してる場合じゃない。

女を追いかける。

まだ目を覚まさない被害者を由佳と運び、拓さんと森田さんが目を抑えて蹲ってる様子が目に入る。

「翔太君か? ……すまない。逃げられた」

 俺の呼びかけに拓さんの悔しそうな声。

「目をやられた……。 だがすぐに回復する。気にせずに魔術師を追ってくれ!」

「私の事もお気になさらず。吉野様」

 被害者を拓さん達に任せ、由佳と車に乗り込む。

運転席には由佳。

『車はこっちで捕捉してます。ここで捕まえないとどうなるか分かりません!』

『輓近の魔術師が久遠か皇の教唆によって実行しているのだとしたら、恐らく何れ魔術師を消す可能性があるわ』

 どう言う事かと考える前に楓の声。

なるほど。

可能性は高い。

由佳がアクセルを強く踏む。

俺の目的は被害者を助ける事だけじゃない。

犯罪者が別の犯罪者に殺害されるのだって。

立派な犯罪だ。


 犯罪を0にする。


 まごう事無き確かな願い。

『大体1㎞先を走ってます!』



余程の事が無い限り、翔太に運転はさせない。

翔太が動ける状況を常に作れるかどうかが全てになると思うから。

この道の1㎞先を女の車が走行してる。

倉田さんが今動けない以上、刑事を動かす事はあたし達には出来ない。

だから追う。

確かな思いがあるから。

あたし個人は。

罪を償えば犯罪者を許して良いって思ってる。

確かな動機がそこにある。

理解したい気持ちがあるから。

けど、追いかけてく中で漠然としたものがあった。

犯罪を犯した動機に気持ちが見えない。

久遠と黒の御使いみたいな漠然とした機械的な動きを感じる。

そうなった女を知りたい気持ちが強かった。

女の車はまだ見えない。

焦るなと思った時に、助手席に座ってる翔太が肩に手を置いてくれる。

もし女の車を見つけられなかったら?

そんな挫けそうな気持ちが翔太に満たされてく。

思いが溢れ、出そうになる涙を堪える。

『由佳さん、スピード上げれますか?』

 ノーとは言わない。

事故を起こさないような運転技術はこの一瞬で考えれば良い。

今の目的は犯人の女の車に追いつく事。

絶対に!

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