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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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すれ違い

 アイマスクの視界は、当然ながら真っ暗だ。

兄さんが殺人者だって事を知って。

そこから塞ぎ込んでた時の私に戻ったみたいに思えた。

あの時の事があるから、私は歩き出せたと思う。

だけど、今に感謝をしても良いんだろうか。

そんな気になってしまう。

感謝するって事は。

忘れるって事に思えてならなかったから。

「すまないな。急に呼び出したりして」

 倉田さんから電話を貰い、今私は車の中だ。

連れて行きたい場所があるらしく、私は訳が分からない状況。

「これから行く場所は、ごく一部の人間しか知らない場所だ。すまないが辛抱してくれ」

 そんな場所に私が必要なんだろうか。

だけどもし必要なんだとしたら。

1つだけ心当たりがある。

車が止まり、手を引かれて案内される。

そこから数10分程行った所でアイマスクを外される。

真っ白な通路。

映画でしか見た事が無いような場所。

だけどそれで直ぐにここがどこか分かる。

間違い無く刑務所。

それもただの犯罪者を収容するような場所じゃない。

促されるまま、真っ直ぐに歩いて行く。

扉は、私が目の前に立ち止まると自動で開いた。

目の前にいた人は想像通りの。

私にとっては闇。

コインの裏。

そう表現するのが良いだろう。

「来てくださったんですね」

 館華星さん。

もし、翔太さんに救って貰えてたのなら。

そう思うと遣る瀬無い。

だけど、この人が殺人を犯した時。

私はまだ兄さんの事を思い出せてなかった。

だからその時の私には救えなかった。

翔太さんに帰るように言われたけど、例え行ってたとしても。

時間の非情なすれ違いで。

こうも私達は分かり合えなかったのか。

私は館華さんの正面の椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。


「怪我は大丈夫ですか?」

「そんな事を話す為に呼んだんですか?」

「時間は沢山あるのですから、そう構えないで下さい」

「……もう治ってます。元々かすり傷でしたから」

「そうですか……」


 前に会った時と様子が違う。

私の心配をまずした事にも違和感がある。

自分で覚悟をしてした筈なのに。


「半年後、私達に死刑が執行されます」

「それを後悔してるんですか?」

「いいえ。私達は、犯罪者にとっての敵であり続けました」

「それならどうして私を呼んだんですか」

「もう、薄々勘付いているのではないですか? 有村華音さん」

「どう言う事ですか」

「お互い、家族が犯罪を犯しています。私は正義さんに。有村さんは翔太さんに救われています」

「……」

「貴女と私は光と闇。コインの表裏。きっかけ次第で、私達はいつでも逆になり得た」

「結局何が言いたいんですか」

「貴女は、翔太さんの周りにいる方で唯一私達の気持ちを考えられる。だから知っておいて欲しいんです。心の闇を」

「……どうして私に知っておいて欲しいんですか。敵である私に」

「犯罪を無くすと言う目的が、同じだからです。敵も味方もありません。あるのは善か悪か。そして犯罪と言う悪を0にする。それだけです」


 死刑が決まっても尚。

この人は犯罪を0にしたいと願ってる。

その為にやれる事を。

私に託す。

……だからこそこの人と。

一緒になんて思ってる。

私は子供で。

館華さんは何倍にも大人びてる。

だけど。

一方的になんて嫌だった。


「条件があります」

「何でしょう?」

「心の闇を抱えたまま、貴女を死なせたくないです。だから私がどうやって光を取り戻したか。それだけ聞いて欲しいです」


 館華さんは静かに目を閉じる。

言葉をただ待った方が良いのかどうかは分からないけど。

話しかける事を躊躇ってしまう雰囲気がそこにはあった。

暫くの時、館華さんは微動だにせず、ただ目を閉じてた。

「有村さんはヴァイオリンを弾かれますか?」

 思ってない言葉だった。

館華さんは椅子の後ろからヴァイオリンを取り出す。

「一度は弾く事を諦めたのですが……」

 構える館華さんは、どこか寂しそうだった。

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