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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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心の闇は人の間を移動する

 確証は無い。

確証を取るにはあまりにも年月が経ちすぎてる。

だけど食事がてらに考えた仮説が可能性としてあり得るのなら。

日記の刑事が官野を容疑者として外した理由も頷ける。

ただ、それだけで官野の無実を証明する事は出来なかっただろう。

裏付ける何かがあれば。

由佳は用事があるからと別れ、俺はPCPに戻って来た。

確証は無いって言いながらも。

殺人教唆の部分。

そして嫌な予感が常に付きまとってた、久遠や黒の御使いを追ってたあの感覚。

それらが酷似し過ぎてる。

殺人教唆による連続殺人なら、指が切断された事にも意味が出て来る。

只の連続殺人ならそんな事をする必要が無い。

だとしたら、途中から複雑になった殺人は何だ。

殺人計画の一部に入ってたのかもしれないけど、いまいちそれをやる意味がない。

一部を除いて異なる海岸だった。

だけど殺害時間まで弄る必要は無かっただろう。

それなら、指を切断した理由は何か。

不意に後ろから抱きしめられる。

「皇桜花が言っていた例の事件ね。その資料」

 音もなく近付くのは止めて欲しい。

何回か襲われてるんだし、心臓が止まりそうだった。

「それは軽率だったわ。ごめんなさいね」

 しれっと言う楓は、スーツ姿だった。

「この組織を組織として稼働させる為に、私も色々大変なのよ」

 それには感謝しかない。

色々あったけど、この組織が出来て良かった。

運営に関しては俺は全く何もしてないけど。

「翔太君は今まで通り、その推理力を発揮して貰えれば良いのよ」

 そう言って楓はわざと俺に密着するように隣に座り、資料に目を通す。

「この殺人事件の容疑者にされたのだとしたら、官野帝の心の闇の深さは相当なものだったでしょうね」

 ……。

誰も心の闇なんて抱えたくない。

だから人を傷つけるって形で押し付けてしまう。

皇桜花も、ある意味心の闇の犠牲者だったのかもしれない。

俺がもし秀介に気付いてやれれば。

起こってしまった事はもしかしたら起こらなかったのかもしれない。

後悔と時代の遣る瀬無さは、どうしても拭い切れない。

「私に出来る事は無いかしら?」

 楓にも話を聞いてみた方が良いかもしれない。

多分、根拠なんて何も出て来ない。

だから出来る限り多くの人に話を聞いてみた方が良い。

複数の人間による結論ならば、少しは信憑性を持たせられるかもしれない。

「翔太君の考えを聞かせて頂けるかしら」

 楓は俺から離れ、真面目な表情で俺に向き合う。

俺は考えて来た事を楓に話す。

5件目の殺害現場だけが自宅な事。

6件目の殺害を皮切りに、犯行方法が複雑になって来てる事。

切断された指。

そして何より、何故刑事が無罪を証明できたのか。

それらの事実から、もしかしたら犯罪教唆をした人物がいるんじゃないだろうか。

「確証は無いけれど、少し前の私達と犯罪者に状況が似ていないかしら? 凄く嫌な感じがするのだけれど」

 それは俺も同意見だ。

「私が気になる事は、名前……かしら」

 由佳もそこが気になってた。

でも共通点らしきものは無かった。

「あまりにも共通点が無さ過ぎるから、かしら」

 由佳と楓は雷鳥峠で暗号を実際に解いてくれた。

それと関係ある訳じゃないけど、華音ちゃんも俺が解いた暗号とは別の切り口で、秀介の残した手紙を探し当てた。

俺とは見方が違うのかもしれない。

兎に角、続きを楓にお願いする。

「根拠と言えるかは分からないけれど、共通点と言えば、指が切断されていると言う事位よね。けれど、単に猟奇殺人であるならばそんな事をする必要が無い。けれども、必ずこの指については警察も考える筈。だからこの指を切断と言う事実が、他の何かを隠す為に行われたと考える事も出来るわね」

 隠す……か。

確かにその考えは俺には無かった。

だから名前か。

「名前では無いかもしれないけれど、可能性として考える事は出来るかもしれないわ」

 後は海岸……か。

「現場へ行くのであれば送るわよ?」

 いや、行っても意味が無い。

だけど結構情報は得られた気がする。

共通点が無い筈の10人の被害者……。

それに気づいた刑事が犯人じゃない事を突き止め、官野帝は結果的には汚名だけを被った。

だけどそれでも。

何で釈放されなかったのか。

刑事がその選択をしなかった理由。

「それなら、私は由佳ちゃんと協力して名前に何か共通点が無いか探しておくわよ」

 楓がカーテンを開けると、外は陽が沈みかけてた。

そんなに無理をする必要は無いから、今日はもう大丈夫だと告げる。

「また明日。翔太君」

 俺に抱き着き、楓は部屋を後にする。



 最近は、由佳も俺の家で食事を取る事が多い。

と言うか、普通に泊まってる。

まあ由佳の両親も俺達の事を知ってるからなんだろうけど。

「んで? 何か分かったの」

 俺用に肉が無い料理を別に用意してくれてて良かった。

今日は機嫌は悪くないみたいだ。

「聞いてんのこのバカ!」

 痛い痛い痛い!

元祖アイアンクローを叩きこまれ、蹲る。

でも、今回の場合は分かった事があるかどうかじゃない。

理論をどこまで立てられるか。

証拠なんてどこからも出て来ない。

その刑事が今も生きてればまだ望みはあるかもしれない。

だけど刑事の年齢も分からない上、警察側は官野帝を犯人として処理をした。

その刑事が誰だったかの名簿も残ってないだろう。

第一分かってるなら拓さんが教えてくれた筈。

「そう言うもんなんだ」

 1年前とか半年前なら証拠が出る可能性もあるけど。

あまりにも長い年月が経ち過ぎた。

「誰かが殺人教唆をしたって仮説は良い線だと思うけど」

 それだって何とも言えない。

何で10件もの殺人を教唆されただけでやり切るのか、俺には分からない。

その10人に恨みがあるにしても、共通点が無いなら脅されて犯行に及んだって事。

それなら途中でその人物と何か……。

ハッとする。

5件目の殺人の犯行現場は確か自宅だった筈。

もし、これが犯人同士の争いだったとしたら。

「どう言う事?」

 つまり、5件目の被害者である平石が、4件までの殺人を行ってたんだとしたら。

平石は真犯人に殺害された可能性が高い。

そう考えれば1件だけ不自然に犯行現場が分かるような証拠が多かったのも納得が行く。

そして、その証拠を隠蔽する時間が取れなかったのかどうかは分からないけど。

6件目の死体現場が1件目と同じ現場だった事や7件目の殺人を1週間も前から行った理由。

つまり犯行が複雑になったのが犯人が違うからって考えれば納得が行くかもしれない。

「違う犯人の犯行……」

 そう考えると官野帝が真犯人の可能性は0じゃないとは言え、かなり低くなるんじゃないだろうか。

何とも言えないけど、平石の交友関係を明日拓さんに聞いてみる事にするとして。

後は楓と由佳が気になってた名前。

由佳に楓が言ってた事を伝える。

「明日ね? 良いわよ」

「って言うか翔太。来月中旬は分かってるわよね」

 分かってる。

去年は受験(と事件)で行けなかった。

「由佳ちゃんも来る?」

「え!? い、良いんですか!?」

 ダメじゃないだろと突っ込むと、顔が気持ち悪くなった。

言うと殴られるから言わなかったのに、何故か殴られた。

「顔に書いてある!」

 出来ればそれまでにある程度の結論は出しておきたい。

それと……。

姉ちゃんと森田さんが持ち帰ってくれた証拠品も確認しときたい。

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