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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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酷似した状況

 こんな短期間でこれだけの殺人を行った事に驚きを隠せなかった。

資料は人目につくと厄介な為、PCPの拠点で見てる。

多分、日記の内容と照らし合わせれば。

6件目の事件でたまたま目撃した男性って言うのが官野帝なんだろう。

国民を安心させる必要があったかもしれない。

だけどそれを甘んじて受け入れなければならなかった官野帝はどんな気持ちだったのか。

想像がつかない。

物取りじゃなく、完全に殺害が目的での犯行。

被害者の交友関係は一切書いて無いけど、多分意味のない情報なんだろう。

年齢もバラバラな為、交友関係を探るにも探りようが無い。

要はここから考えられる答えは1つ。

完全な猟奇殺人だって事。

一般的な常識で考えちゃいけない殺人。

……。

両小指を絡め、手を口元に当てて考える。

気になる点は、6件目の死体発見現場が最初の事件の現場だった事。

1件1件の現場がバラバラだった事から、犯行現場を間違えた可能性は考えられない。

わざと警察に現場を張り込ませる為とも考えられるけど、そんな事をするメリットは今の所不明。

それに、5件目の被害者だけが自宅で殺害されてる事も疑問。

わざわざ争った理由は何か。

他の殺人は狡猾かつ迅速とも取れる状況なのにどうして。

それに、犯罪を重ねる毎に期間を開けたり、殺害してからしばらく日数を空けてから遺棄したり手が込んで来てる。

計画的に行った犯罪なのは間違い無い。

それに、一番疑問なのが切断された指。

捜査資料を見る限り、全員が別の指を切断されてる。

殺害された10人の切断された部位を書き出してみる。

……やっぱり、両手の指になるように切断されてる。

それは事実として分かっただけで、理由も何も今の所は考えつかない。

しかも、50年前の事件。

遺体発見時の状況を詳しく聞く事も難しいだろう。

要はこの事件報告書だけが手掛かり。

こんな事件を本当に俺が解けるのか怪しくなってくる。

……だけど。

気になるのは無罪を証明した刑事。

この資料と捜査から、官野帝が犯人ではあり得ない事を確信した。

現状取っ掛かりが掴めない以上、そこから事件を考えてくしか無さそうだ。

今なら官野帝の日記によって官野の無実を証明できなくはないけど、日記はほぼ間違いなく官野が死ぬ間際に書いたものだろう。

日記さえなかったのにどうやって無実を証明したのか。

拓さんに貰った捜査資料がこれだけな以上、その刑事は捜査資料ごと辞職でもしたんだろうか。

……分からない事だらけだ。

扉が開き、由佳が入って来る。

「何見てるの?」

 覗き込んで来る仕草に多少なりとも慌てる。

由佳に資料を見せる。

事件背景も含めて説明するのは、あまり気分が良いものじゃなかった。

「……酷い事件……」

 言いながら由佳は何かをメモしてる。

それと、久遠らの死刑が正式に決まった事も告げる。

「後悔、してない?」

 間違った事をしたかもしれない。

だけど、体が勝手に動いた。

それにこればっかりは社会が判断すべき事。

そう割り切れる。

「そっか」

 由佳は笑顔を返してくれる。

それだけで良いと思えてしまう。

今はテストも終わり、夏休みに入ろうかっていう時期だ。

授業は特に無い。

「どうしたの?」

 全部解決してないけど、夏休みの中盤には生まれ故郷の風舟村に帰らないといけないから、由佳とあんまり会えない。

俺は資料を仕舞い、どっか食いに行くかと由佳に言う。

恥ずかしそうに由佳は俯いた。

由佳に話して情報整理もしたいし、これ位なら許されるだろう。



 昼のピークは過ぎてたから、カフェの中はあまり人がいない。

事件の話もしたいから好都合だった。

「で?」

 由佳は何故か不機嫌だった。

何回か来た事がある、自宅から近いカフェをわざわざ選んだのは、一応思い出がある場所だからだけど、由佳にはお気に召さなかったんだろうか。

「場所は良いわよ。あたしもここが良いって思ってたし」

 じゃあ何で由佳は機嫌が悪いんだろうか。

由佳はため息をつく。

「期待してたわけじゃないけどさ。はぁ~」

 ……。

何か悪い事をしたらしい。

それはそうと、半年とは言え時間が無い。

由佳に気になった事が無いか聞いてみる。

気になる事があったからメモった筈。

「気になるって言うか名前をメモっただけよ」

 名前……。

「別の指が切断されたんでしょ? ただそうしたかったって訳じゃないと流石に思うし。だから年齢とかも含めて何か無いかなって」

 年齢、性別はバラバラ。

共通点があるかもしれないってのは俺も思ったけど、それなら捜査資料に詳しく書いてあってもおかしくはない。

書いて無いって事は、警察が調べたけど何も無かったって捉えた方が良い。

「名前見てて思ったのは、あたし達でも知ってる過去の偉人に似た名前の人もいるって事位かな」

 そもそも漢字が違うけど、確かにそれしか無い位に法則性は無い。

名前に法則性は無いって考えた方が良いかもしれない。

だとしたら殺人の手口に目を向ける方が良い。

疑問なのは犯行を重ねる毎に狡猾さが出て来た事。

言い換えれば、平常心に犯人がなった可能性がある。

「何で分かるの?」

 確証は勿論無いけど、死体を何日も放置した後に海岸に遺棄するなんて、殺人をして少なからず気が動転してる人間のやる事じゃない。

逆に最初の方の事件にはそれが無い。

だから何らかの変化が犯人にあったって考えた方が自然だろう。

「なるほどね……だったらさ、最初の事件って何で起きたかって事じゃないの?」

 ん?

「翔太の今言った通り、仮に犯行を重ねて平常心を犯人が取り戻してったって事ならさ。最初の方の事件って犯人の気が動転してたって考えても良いんじゃないの?」

 そう言う訳じゃないとは思うけど。

だけど何だろう。

何となくは言ってる事が分かる気がする。

そう考えれば、可能性として出て来るのが殺人教唆を犯人自身が受けたって可能性だ。

「殺人教唆……」

 久遠や黒の御使いと同じような事をやってた連中がいたかもしれないって事。

「それにさ、何で久遠は翔太にこの事件の事を話したのかも分かんない」

 考えれば考える程、久遠が何故俺にこの事件をわざわざ解決させようとしたのかが分からなくなる。

まさか繋がりがあるとでも言いたいのか。

「勿論あたしも手伝うわよ」

 その言葉が嬉しい。

ある程度考えるべき事が見えた気がする。

やっぱり由佳に話して良かった。

由佳が脊髄反射の如く鼻血を出す。

多分機嫌は良くなったはずだけど。

鼻血での返事は止めて欲しい。

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