過去は未来へ。未来は過去から
多くの理不尽を見て来た。
強い者が弱い者を制する。
それは全てにおいて当たり前の自然の摂理。
だが、生物には悲しみと言う感情が存在する。
幼少期から周囲には疎まれていた。
そんな自分が目の前で殺害される児童を目の当たりにし、涙した。
自分自身にこんな感情がまだ残っているとは思わなかった。
気が付いた時には、私は男を殺害していた。
見ている事は出来なかった。
男が絶命した姿を、驚く程冷静に見下ろしていた。
証拠を全て消し、目撃されないように現場を立ち去るまで、行動はスムーズだった。
海外には、そんな理不尽の死が当たり前にあった。
何度も目の当たりにする事で。
それを止めたいと願った。
遺族の気持ちは様々だった。
犯罪学を学ぶ学生だと騙り、遺族に心境を聞いた事もあった。
悲しみに打ちひしがれている様子が痛かった。
こんな下らない事を。
今尚人は犯していた。
捜査線上に私が上がる事は無く、無事に学校を卒業し、日本に戻って様々な事件を調べた。
解決している事件。
特に自殺だと判断された事件について。
考察を重ねるうちに、矛盾点が手に取るように分かる。
実際に現場に赴き、当時の話も聞く事で矛盾点は確信へと変わる。
更に視点を変えて考察を行う。
事件として発覚すらしていない事件があるのではないか。
私には到底分からない心理ではあるが、犯罪者は事件の発覚を恐れる。
適当な人物に当たりをつけ、話を聞いて行くうちに分かる心の闇。
それは表情にも表れる事を突き止める。
そして想う。
この世界はこんなにも理不尽なものだと痛感する。
被害者の遺族と話をし、ケースを2つに振り分ける。
激しく憎悪を持つ人物には教唆を。
そうでない人物には自ら断罪を行う。
その先にある世界は。
悲しみが無い世界。
悲しみや憎しみは連鎖。
それを断ち切る事が重要。
0の世界と名付けたそれを実行に移す為に何が必要かを考えた時、1つの答えが浮かんだ。
自分の命を賭す覚悟と、協力者。
ただの協力者では無い。
私の敵として立ちはだかる者としての存在。
長きに渡り探し、ようやく1人の人物に行きついた。
全ては悲しみや憎しみを私に集め、それを以って私自身が消滅する。
その後に出来る、0の世界の為に。
久遠は淡々と語った。
日本とは違う海外での経験。
俺は海外へ出た事は無いから分からない。
それに、1人1人に直接話を聞き、そこから理論武装をする行動力と頭脳に、何も言う事が出来なくなる。
「0の世界は、君が拒んだ」
……要は俺に託すって事だろうか。
未来に起こりうる犯罪を止めたいと願った。
それに、全てが終わってしまってる事件。
遺族関係者ももう皆亡くなった。
憎しみや悲しみの連鎖はもう起こらない。
だけど。
両小指を絡め、手を口元に当てる。
「奇妙な癖、だな」
全てはここから始まった。
50年にも及ぶ憎しみの連鎖が何故起こったのか。
それは未来につなげられる。
「期限は、死刑執行までの、半年間だ」
俺は立ち上がる。
何故無罪を証明した刑事が、その後何も出来なかったのか。
それにその刑事が生きてるとしたら、今何をしてるのか。
当時の心情を。
無罪を暴き、それをこんな形にしてしまったその理由を知りたかった。
PCPには立ち寄らず、今日は家に戻る事にする。
病み上がりってのもあるけど、考え事をしたかった為だ。
拓さんに待ち合わせ場所だった喫茶店まで送って貰い、家路につく。
何を取っ掛かりに考えていくか。
事件概要は、明日拓さんが資料を送ってくれる事になってるから良いとして。
同じ部分が切り取られたって皇桜花は言ってた筈。
それに海岸に打ち上げられた。
切り取られた部位は分からない。
だけど何故切り取ったのか。
それも一部分だけを。
今までに解決した事件を考える。
体の一部が切り取られる事件は、俺が関わった事件で言えば秀介の事件のみ。
それも、他殺だと思い込ませる為に行った。
今回のそれには当てはまらない。
パッと思いつくのは何かのメッセージが含まれてる事。
もしくは証拠の隠滅。
このどっちかだと考えるのが妥当か。
他にも理由があるかもしれないけど、体の一部を切り取る作業は簡単じゃない。
それでも尚実行するって事が犯人にとっては重要だった。
それに、海岸に打ち上げられた事も気になる。
ぐー。
……腹減った。
姉ちゃんの帰りは今日遅いから、帰ったら自分で作らないといけない。
それは面倒だ。
だったらいっその事。
久し振りに店に行ってみる事にする。
目的の店に入って早々、店員にガンを飛ばされる。
「ここはあんたが来るお店ではありません返ってカップ麺でも食べて下さい」
酷い言い様だけど、俺の姉、吉野優子が働いてる店に顔を出す。
「ったく……何で来たのよ」
茶番も程々に、渋々姉ちゃんは俺を席に案内する。
セルフサービスの水を入れ、注文を済ませて考える。
海岸に打ち上げられたのは何故か。
海に沈めようとして偶々海流に流された事は考えにくい。
錘でもつけて沈めれば良い。
それをしなかったのは、何かしらの意図があるから。
この辺りか。
今の段階で言える事は。
後は警察に真相を掴めなかった理由と。
日記の刑事がどんな切り口で捜査を行ったか。
或いは官野帝が犯人じゃないと分かっただけかもしれない。
何れにせよ、期間は半年。
久遠と館華両名が死刑になる前に。
「何考え事してんのよ」
姉ちゃんがパスタとサラダを持って来る。
もう姉ちゃんに隠し事をしても仕方が無い。
久遠に会った事や今日の事を話す。
「過去の事件の解決ねぇ……」
姉ちゃんは無理だけはすんなとだけ言い、仕事に戻って行く。
今回の事件で、少なくとも俺が危険な目に遭う事がほぼ無いのが救いだ。
50年前の事件を解決する事が出来るかどうか。
不安が無い訳じゃない。
だけどそれを考えるのは得が無い。
今までの事件を解決して、俺が得た物の1つだ。




