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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪4 永久の零を望む者達
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零の結末

 この状況で拳銃を使って自殺を図るのであれば。

とうに行っている筈。

だから何かを待っている可能性がある。

恐らくだけれど、翔太君はそう考えた。

だからそれを前提に急ぐ。

必要なもの。

人手は警察が駆けつけているお陰で足りている。

時間があるとか無いとかは考えない。

間に合わせる。

間に合わせてみせる。

けれど。

それは翔太君を……。



 動けないんじゃなく、動かないんだろう。

こんな状況まで作って動けないなんて、お粗末過ぎる計画だ。

「どうした? 答えないのか? 吉野翔太」

「飛び降りようとしても無駄だ。もう見えているだろうが、救助マットで死ねはしない。我々は久遠正義、館華星の2名を確保すると決断した」

 救助マット……。

それでも久遠は確信を持ってる。

それに、何かを待ってる……。

夕日が沈み、尚も膠着状態が続く。

取り押さえないのは。

拓さんの話が全てだろう。

だからその時を警察も待ってる。

久遠らが飛び降りるその時を。

だったら久遠が待ってるのは何だ?

少しずつ辺りが暗くなって来る。

……時間?

「時間だ」

 俺と警察が駆け出すのと久遠が背を向けるのと。

楓が来るのは同時だった。

「0の、世界だ」

「はい」

 久遠と館華星の体が地面に傾く。

楓からそれを受け取り俺はただ夢中で久遠の元に走る。

振り向きざまに拳銃を俺に向け、発砲する。

避けたのか外れたのかは分かんないけど、俺は久遠と館華星の手を掴もうと手を伸ばす。

虚しく空を切り、それでも俺は突っ込む。

既に落ちてるのは、使用状態になった手榴弾だと辛うじて分かる。

それを落としてそこへ転落すれば……。

落下地点に何も新たに細工されないように……。

考えてる場合じゃないのに。

頭を過ってしまう。

屋上から聞こえて来るのは多分由佳の叫び声。

そう言えば、俺今ビルから落ちてるのかと冷静になってるのは。

多分死ぬだろうなって予想してるからだろう。

それでも体は久遠と館華星の体を掴もうと必死に伸ばす。

後少し。

多分手を掴んでもこのスピードで耐えれないと思うから。

地面で爆発が起き、助かるって退路が断たれる。

地面がものすごい勢いで近付いてくる。

こいつらを救えなかったら。

……。

絶対に後悔するからこうしてるんだ。

後は無我夢中だった。



 モニターを見て息が出来なくなる。

久遠、館華に少しだけ遅れて翔太が飛び降りる姿。

……。

ここまで協力して何言ってるんだと思うけど。

自分の命を懸けてまでやるべきだって翔太は思った。

あたしがあの場にいたら。

多分止めてたと思う。

だから余計に願うしかない。

死なないでと。

そんな願いが砕かれるように。

救助用マットが爆破される。

「翔太さん……!」

 体が震え、動けなくなる。

考えようとするのに。

動こうとするのに。

体が言う事を効かず、その場にへたり込む。



 何を叫んだかなんて覚えてなかった。

ただ、もうその瞬間を見る事が出来なかった。

肩に手を置かれる。

顔を上げると楓さんが、悔しそうな表情をしてる。

「ごめんなさい……」

 その言葉が、1粒落ちる。

どんな思いで翔太に託したのか。

察してしまう。

共通してたのは。

翔太の願い、想いの為に動いて来た。

でも……。

本当に怖かったのは。

世界からどう見られるかじゃなくて。

翔太が死ぬかもしれないって事だった。



 計画はこれで完遂される。

吉野翔太が自ら飛び降りて来る事は予想外だった。

計画の終わりにつれて、予想外の事象が起こり続けている。

対処が出来るよう動いて来たつもりではいた。

世界を敵に回す覚悟と悪である覚悟。

先手を打ち続けても尚。

我々を止めると言うのか。

地面すれすれの所で。

強制的に引き上がっていく。

ここまで来て。

何故犯罪者を救おうとする?

邪魔をする?

最初の時点で殺害する事は。

信念に反した。

敵ながら共感した部分は勿論ある。

だが……。

ここまで立ちはだかるのであれば。

吉野翔太……。

「てめーがやってる事は自分本位でしかねーんだよ!」

 あの高さから飛び降りた人物を、片手ずつで2人抱え、死なせない力があるとでも言うのか。

「死んで全てが終わると思うなよ?」

 拳銃は引き上がった際の衝撃で落としてしまったようだ。

「てめーがやった事位、行く末見届けろ」


「何故助ける!」

「てめーらが死のうとしたからだ!」

「何故だ? 何故そこまでして! 犯罪を無くせるんだこれで!」

「てめーらが悪を覚悟してやった! 悪を覚悟すればそれは善? ちげーだろ! 0の世界なんて大義名分掲げんじゃねーよ!」

「大義名分では無い。事実なのだ! 気付いていないだけだ! 殺意の芽を摘める!」

「罪を罪と意識する勇気を持ていい加減!」


 それを勇気と呼ぶ事が理解できない。

罪の意識を感じる訳が無い。

バンジーのような上下運動が無くなり、我々は警察のヘリに引き上げられる。

館華星と共に電子手錠をかけられる。

だが。

我々を助ける理由について納得が行かない。

再度吉野翔太に問う。

吉野翔太はぐったりした様子で、それでも笑いながら言った。


 お前が秀介に似てるのが悪いんだよ。


 ……ふっ。

思わず笑ってしまう。

それを分かっていて吉野翔太を選んでしまった事が失敗だったと言う訳か。


 こうして日本の活動してる2つの犯罪は。

幕を閉じる事となった。

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