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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪4 永久の零を望む者達
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全てを賭けて

 黒の御使いはあらかた片付けた。

吉野翔太と警察がここに到着した事は多少誤算ではあった。

館華星の動きについて行くと思っていた。

だが、信じる事を決断した。

尚且つこの場所に辿り着いたと言う事は。

松本大河から情報を得たと言う事だろう。

どうやって得たかは興味があるが、予測を誤ったと言う事だろう。

だが、計画に支障は無い。

「もう終わりにしろ! 久遠正義!」

 煙玉を投げる。

同時に用意しておいた銃を天井に向けて撃つ。

白煙の中、まさか逃走経路を、しかも天井に用意しているとは吉野翔太も予想出来まい。

「さ、探せ!」

 天窓がある事も確認済み。

天窓近くの天井に突き刺さった杭。

ボタンを押し、自分の体を逆に天井に引き寄せ、勢いで天井を蹴破る。

天井へ上ってしまえば、後は既定のルートで撹乱しつつ逃げ遂せる。

そして最後の計画を実行する。

天井を飛び移れるだけの距離である事も調査済み。

ここが黒の御使いの移動に使われていた事が分かったのは逃走中での事だ。

建物内にマンホールがある事に疑問が無い訳では無かったが、これだけの地下通路を用意していた事も、吉野翔太の速さを考えれば納得が行く。

恐らくはそれを知る為の鮎川由佳の誘拐であった事も。

何らかの手段を使って吉野翔太達が所有している監視システムの存在に気付いたか予測を立てたか。

そんな所だろう。

だが、奴らの目的には落胆させられた。

自分の心を他人に解決させる事ほど虚しいものは無い。

そう言う意味では、皇桜花は官野帝によって死ぬ事でしか解決できないものを背負わされた。

官野帝の立場が何にも比べられない非道なものだった事は認めよう。

だが、所詮悪は誰かによって滅ぼされる事も学べた筈なのだ。

警官が来る前に用意しておいたバイクに素早く乗り、移動を開始すると同時に館華星に着信のみで連絡を送る。

戯れは終わっただろう。

本当は鮎川由佳を標的にした方が確実だったが、吉野優子と行動を共にされては迂闊にこちらから手を出す事は難しい。

それに、有村華音であれば確実に動く目算があった事も事実だった。

私が兄に似ている事。

そして境遇が館華星に似ている事。

どちらを選ぶにせよ、それなりのリスクはあった訳だが、吉野翔太はそれを上回りかけた。

それが誤算と言えば誤算だろう。

だが最後の場所を予測する事は難しいだろう。

例え予測が出来たとしても。

吉野翔太が私を止める事は不可能。

ネット上での反応も、我々の予想通りの事態になっている。

全ての確認を終え、向かう。

桜庭コーポレーションに。



 煙幕が晴れた時には既に久遠の姿は無く、ガラスの破片が床に散らばっているのみだった。

見上げれば、天窓が破られていた。

こうなる事を予測されてたって事だろう。

「大丈夫? 翔太」

 由佳がここに来たって事は、姉ちゃんは華音ちゃんの方に向かったんだろう。

急いで楓に連絡をすると、既にモニターで追跡をしてるようで助かった。

後1歩で捕まえられた。

そう思ってた。

考えが甘かったんだろうか。

両小指を絡め、手を口元に当て、考える。

そもそも華音ちゃんを指名した事がおかしい。

俺達と警察に追われる事無く行動するんだったら。

華音ちゃんより由佳を指名すれば良い。

尚且つ。

松本大河から何も情報を聞けないなんて奴らに分かる訳が無い。

だったら情報を握られる事を前提に動いた方が賢明と思うのは気のせいだろうか。

だからこれは予定通りだったんだろう。

だから奴は警察の到着が遅いとわざわざ言った。

あの言葉は嘘じゃないだろう。

それにここまで追い込まれた状況を作り出した事が計画通りなら。

俺や松本大河が考えてるようなスカイツリーへ向かうって推察も考え直す余地がある。

もう1度考える。

0の世界って言葉の意味。

俺達人間が世界って言葉を想像する時。

それは全てが見えるような状況を見て思う筈。

ここまでは間違って無いだろう。

だけどそれなら。

奴の計画は成り立たない事になる。

俺だったらどうする?

0の世界って言葉をフェイクとわざわざする事はしないだろう。

だったら。

別の見方。

そして尚且つ俺が分かってても止められないような状況、場所を作る。

そんな都合の良い場所があるだろうか……。

『今はまだ追跡が出来ているわ。何か分かったら教えて頂戴。翔太君』

 ハッとする。

警視庁が襲撃されて間もなく、連続狙撃事件と爆弾テロ事件が立て続けに起こった……。

仮拠点として桜庭コーポレーションが使われている。

更に、爆弾テロの復旧作業に警察と桜庭財閥からも人が派遣された……。

桜庭コーポレーションのセキュリティは完璧。

だけど警察が出入りしてる現状、そのシステムは部分稼働せざるを得ないか、警察関係者にもカードキーか何かが配られるだろう……。

そして今は、財閥関係者は復旧作業に手を貸してる状態。

更に警察は久遠を追う為に動員されてる……。

まずい!

切れた通話を再度かけ直し、警察も動くように拓さんにお願いする。

桜庭コーポレーション内部はがら空き。

更に、久遠が死に場所として本当に選んだと仮定すれば。

俺が止めたくても止められない場所に当て嵌まる。

久遠を助ければ財閥は、警察は何を言われる?

ネットの書き込みを見る限り、決して良い結果になるとは思えない。

警察どころか、財閥まで世論によって追いやられる可能性が高い。

そうなったらPCPだって消える。

『分かった。急いで向かわせる!』

 拓さんの声に感謝を告げ、通話を切ろうとする。

俺はどうすれば良い?

俺だけがどうにかされるんだったら良い。

だけどこれは。

俺だけでどうにか出来るものじゃないだろう。


『翔太君、聞こえるかしら?』

『まだ切ってない。どうした?』

『久遠は警察も財閥も全て世論から追いやろうとしているのではなく、確実に計画を実行できるような状況を整えているだけよ』

『……どう言う事だ?』

『迷わないで頂戴。私達が足枷になっているのであれば。切り捨てても構わないわ』

『そんな事出来る訳無いだろ。どれだけの恩があると思ってんだよ』

『それは私も同じよ。だから翔太君を好きになった。けれど、足枷になる事は一番望んでいない。大丈夫よ。悪い事は何もしていない。それなのに組織が潰されるなんて事は無いから』

『表向きはってだけだろ。警察は兎も角、財閥は徐々に衰退してくしかない。少なくとも俺にはその未来しか見えない』

『信じて頂戴。貴方を信じている私を』

『……』


 これは、全てを賭ける感覚なんだろうか。

直ぐに見抜く楓は、やっぱりただの令嬢じゃない。

今までの未来を自分で切り開いてきたんだろう事が改めて分かる。

久遠正義は、自分の命を確実に断つための計画を遂行し、尚且つ俺が絶対に邪魔できない状況を作り上げた。

だったら俺も自分が持ってるものを全て賭けなければ。

止められない。

これはそう言う事なんだろう。

俺は久遠に秀介を重ねて来た。

夢で秀介が何も言わなかったのは。

いい加減にケリをつけろって。

俺の本心かもしれない。

全てを賭けて。

「一緒に前に進もうって言ったよね翔太」

 今度は由佳が俺の両頬を掴み、目の前で訴えかけて来る。

由佳が俺を心配してくれたみたいに。

俺だって心配なんだ。

……あの時は犠牲にする覚悟をして無かった。

「そうなったらまた作り直せば良いよね?」

『馬鹿な事言わないで頂戴。壊させないわ』

 はは……。

自然と笑いが込み上げる。

そうだ。

作って来たモノが。

簡単に壊れる訳が無い。

それは。

多くの心、想いを垣間見て来て作られた。

それが簡単に壊されるほど。

弱いものじゃない事は俺が一番よく知ってるじゃないか。


 由佳、楓。

ありがとう。


 楓との通話を切り、手を繋いでくれた由佳。

桜庭コーポレーションへ向かう。

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