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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪4 永久の零を望む者達
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分かり合おうとする心

 桜庭君らは電話の主に一瞬だけ手を止めつつも、すぐに作業に戻る。

この電話に気を取られてしまえば、それだけ奴らの発見が遅れるのだ。

何度もこの手法で捜査をかく乱させられた。

『桜庭さんの救出はお見事でしたよ』

「何の用だ?」

 あれだけの動きをした別の理由があるとすれば、翔太君達の動きを止める事。

直ぐに逆探知をかける。

『阿武隈川愛子さんを捕えています』

「2人がかりだったな。それで俺達と何の交渉をするつもりだ?」

『こちらの場所は既に逆探知をされているでしょう。その場所に、指定した時間にいらしてください』

「俺がって事だな?」

『いいえ』

 館華星の言う通り、逆探知によって示された場所は、一定の場所を示していた。

しかもここから遠くない場所に。

警察の目を盗み、こんな場所に潜伏していた事に驚きを隠せない。

『有村華音さんを指名させて頂きます』

 なっ……!

「理由は何だ?」

『少しお話をしたいだけです』

「取引でも何でもない事を分かって言ってるよな?」

『応じて頂けたら、阿武隈川愛子さんを引き渡します。警察は……お分かりですね?』

「あんたの投降もな」

『……考えておきます』

 通話が切れる。

華音君はモニターを見つつ、手が止まっている。

「行く必要は無いですよね」

 冷静な回答にホッとする。

館華星の現在位置は把握できた。

警官を向かせる方が良い。

「無茶も無理も承知です」

「止めた方が良い。楓が殺されかけた。殺されない保証なんてどこにも無い」

「私は犯罪者をただの罪人なんて割り切れません。だから出来るなら話し合って止めたいんです!」

華音君の強い語気に、冗談じゃない事を悟る。

「もしかしたら私が館華さんに出会ってたら。そんな事を考えていました。それは叶わないですけど、今からだって遅くないって思うんです。その機会があるなら」

 翔太君は黙って華音君の話を聞いていた。

「目的は館華星の説得じゃない。館華星を捕まえる事。それは分かってる?」

 黙って頷く華音君に、翔太君がこちらを見る。

変わりたいと願った華音君に、犯罪者との面会の機会を設けたのは他ならぬ私だ。

高校生に託すべき案件ではない。

だが、華音君は黒の御使いの事件に関わる人物らと交渉を既にしている。

且つ、久遠正義が教唆をした犯罪者とも。

人材で言えば打ってつけなのも事実。

……翔太君の狙いが分かった。

だが、これは危険な賭けだろう。

私の口から言うと言う事は。

責任問題を考えている場合では無い……か。

深呼吸し、華音君に告げる。


 必ず捕まえる。

死なせない。


「我儘言ってすみません」



 運転席には森田さんが既に待機してた。

向かう場所は、昨日向かった場所。

護衛の為に優子さんも同伴してくれる。

思えば、この事件が始まってからまだ1週間も経ってない。

これだけの犯罪をこんな短時間で実行に移してる事に恐怖しか感じない。

「こんな事件を相手に、毎回動いてたのね。 由佳ちゃん」

 事件の事を、あたしから優子さん話した事は一回も無い。

海に行った時は皆がいた。

こうして2人の時には一度も。

あたしはすみませんと優子さんに言う。

「何でこう言う時に謝る人が多いのよ」

悪い事をした訳じゃないのに謝るのは。

心配してくれてる優子さんの気持ちに反する行動をしてるって自覚してたから。

だけど、それでも確実な思いがあって。

それを比べるなんて出来ないけど、確実な思いを選んだ。

「それも分かってるわよ。だけど、それでも納得し切れないものもある」

 うん。

分かる。

だからこそ分かり合えないかと人は願う。

「落ち着いたら話してくれれば良いわよ。全部片付いたら」

そうしよう。

頭を切り替える。

「それで、本当に情報が得られるの?」

 何とも言えないけど、松本大河は何故かあたしを松本沙耶さんだと思い込んでるから。

あたしに情報を推理し、教えてくれた。

出たとこ勝負なのが正直な所だ。

「着きましたよ。鮎川様」

 ここから先は、あたしだけが行かないと松本は何をするか分からないと思う。

不安が無い訳じゃない。

そんなあたしの背中を、優子さんは優しく押してくれる。

「守ってあげるから」

 ……。

心が軽くなる。



 久遠正義は館華星が行動している間、何をしようとしているのかを考える。

先程の館華星の電話の内容は、恐らくだけれど嘘では無いだろう。

今更私達に嘘をつく必要は無いと考えるから。

久遠正義の消息は途中から追えなくなってしまった。

一応その地点を警官が向かってはいるけれど、あまり意味は無いかもしれない。

彼らもまた、うまく地下を利用して移動している可能性が高い。

ネットやSNSでの書き込みは凄まじいものになって来ている。

犯行声明を皮切りに、メディアでもその様子が取り上げられているようだ。

翔太君も目を閉じ、言葉を発さないのは只管に考えているのだと思う。

「拓さん。確認なんですけど、事件は起こって無いですよね」

「ああ。阿武隈川愛子が拉致された以外の目立った情報は無い。黒の御使いもそこまで馬鹿では無いだろう。日の高い内は動かないと考える」

「地下、ならどうですか?」

 地下?

「地下で犯罪が起きても、直ぐには気付かないと思います。黒の御使いは地下通路を主な逃走経路にしてました。だとしたら地下に詳しい筈。館華星も例のビルで地下通路がある事は少なからず知ってると思います」

 それに、昼間もし移動を行うのだとしたら、目立たないように移動をする。

地下通路は打ってつけ……と言う事だろう。

「可能性としてはある……か。 捜査本部に伝えよう」

「俺も行きます」

 翔太君自ら向かうのは、勝算があるからだろうか。

「これ以上被害を拡大するわけにはいかないし、もうこれ以上ここで待つのは嫌なんだ」

 私には犯罪者を相手に翔太君は守れない。

行っても足手纏いになるだけだろう。

だから言う。

翔太君に抱き着く。


お願い、死なないで。


「分かってる」

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