零の駆け引き
大学にあるサークル、部活動用の更衣室は高校のものとは全然違うのが意外だった。
シャワー室まで完備なのは良いけど、誰でも24時間使える状況は予算的にどうなのだろうと場違いな感想を抱く。
……館華星さんの言葉が脳から離れない。
分かってて言ったのは。
言わずにいれなかったから。
ずっと思ってた。
私が館華星さんの立場だったらどうなってたかを。
だけど考え方が違った。
温水が出るのを確認し、シャワーを身に受ける。
気付いてしまった。
誰もいなかったら。
どの道良い結果になんてなってないんだって。
だからこそ言える。
自分がどん底の状況で会った人が善か悪かじゃない。
自分の意志がどん底に落ちて無かったらそんなのは関係無いんだ。
だから館華星さんにそれを伝えたかった。
善人か悪人かなんて境界線なんて私には持てない。
兄が犯罪者で、その汚名を背負わされた私だから言える。
そのまま翔太さんに頼ってれば。
きっと未来は変わったって言えるから。
翔太さんを選んでれば良かったのに。
翔太さんに負い目があるって自分で認めてる。
私にはその意志さえも無かった。
だけどあの人にはそれがあったんじゃないか。
それに。
犯罪を犯したって世界は変わらない。
何も生み出されない。
自分の中に罪となって入り込んで。
経験になるだけなんだ。
シャワーを止める。
そんな事で人を巻き込むのは間違ってる。
正義さんは次の計画の為に行動しています。
扉を開け、手錠に繋がれた彼女の姿を確認すると、既に目を覚ましていたようでした。
衣服と武器は回収し、下着姿の阿武隈川さんの表情からは恐怖は感じられません。
流石は犯罪者と褒めるべきなのでしょう。
「以前にも同じ状況になった事があるだけ よ」
他にも黒の御使いみたいな犯罪者がいるって事でしょうか。
ですが彼女は口を閉ざしたまま。
話す気は無いと言う事でしょう。
拳銃を彼女に向け、発砲する。
勿論彼女に今は危害を与えるつもりはありません。
反応を見る為。
「ちゃんと狙わないとこの距離でも当たらないわよ」
犯罪者に、一般的な方法を順番に試しても仕方が無さそうです。
「他のメンバーの居場所を教えて頂けますか」
「知ってて答えると思うのかしら?」
「吐かせます」
「残念だけど、知らないわ。目的を達成するかエージェントが死んだ時点で、この組織はもう存在意義が無いのよ」
「メンバーのリスト位はあるでしょう」
「裏サイトはもう消滅してるから、知る術はもう残って無いわ」
「嘘をついている訳では無さそうですね」
「ただ、松本の居場所なら想像がつくわ」
「簡単に吐くのですね」
「あいつは別。最も不幸にしたい男」
「どこにいるのですか」
「特別なお墓にいるわ。松本にはもう目的が無いんだから」
「どうしてそこにいるとお考えなのですか」
「そこは私が作ったお墓。そして松本の妻を、自分で埋葬させてあげた。松本には彼女しかもういないから」
無駄足だったでしょうか。
阿武隈川さんも既に知っているでしょう。
松本大河さんは既に拘束されている事を。
それを敢えて言う意味は。
多分罠か何かだと思った方が良いのかもしれません。
正義さんには一応連絡をしておきます。
他のメンバーで我々が既に知っている人物を。
正義さんが殺害しに行っています。
以前、拘束した男性メンバーの身分証をわざと残し、黒の御使いが動くかどうかを確認した際に判明したメンバーを。
ですが、想像以上にガードが堅い。
何を持ってこの組織が成り立っていたのかが気になる所ですが。
「どうしたの? そこに松本がいるのよ?」
時間があまりありません。
後半日拷問にかけて吐かないようであれば殺害、の方向に切り替えます。
「延命に意味は無いわよ。もう解散したも同然なんだから」
こちらの手の内を隠しても仕方が無いでしょう。
紙を阿武隈川さんに見せると、表情が僅かに硬くなったのを見逃しませんでした。
「情報を持ってて何故私を拘束したのかしら」
主な目的は2つありました。
1つは他のメンバーの詳しい居場所を聞き出す為。
もう1つは。
これまでの標的と違う為です。
今までは公になっていない犯罪者を裁いて来ましたが。
これから行う殺人は。
公になっている犯罪集団を裁く。
それを決して我々の行いだと表に出してはいけないのです。
我々の行いは正義であってはいけない。
悪だと言う覚悟。
「それが自分達を正当化する理由になると思ってるの? わざわざ私に言うって事はそう言う事よ」
我々を正当化する必要はありません。
阿武隈川さんは。
必要な情報を吐き出させれば殺します。
それに。
もう1つだけ個人的な理由があったから。




