過去は零にしなくても
スマホを下ろす。
予測していた設備が既に完成していたとは。
対応策まで伝えてくれた事に感謝をする。
多少トラブルは起こったが、支障は無い。
計画を次の段階へ移行する。
この為に時間をかけたと言っても過言ではない。
全てを終わりにする。
「いよいよ、ですね」
館華星。
少女は本当に良く動いてくれている。
だが、本当にこれで良かったのか?
少女に問う。
「女の子の言葉ですか?」
声の主は恐らくは有村華音だっただろう。
その言葉を今更気にする事は無い。
犯罪に利用して良かったのだろうか。
その疑問は常に自身に帰って来る。
「桜庭楓さんを殺害していたら。正義さんは私をどうしていましたか?」
少女の問いに、なるほどと頷く。
館華星に計画を持ち掛けた瞬間から。
我々は運命を共にしているのだ。
「さっさと離れて貰えませんか? インテリビッチさん?」
「腰が抜けて動けないのよ」
「助けなくて良かったんじゃないですか?」
「華音ちゃんそれは流石に……早く離れなさい!」
由佳の視線が痛い。
楓がさっきからずっと離れない。
まあ、元気だからとりあえずは良かった。
怪我じゃなくてただの鼻血だったのが笑える。
「戻ったわよ」
不機嫌な声と顔の姉ちゃんが森田さんと入って来る。
何か見つかっただろうか。
「何があれか分かんなかったから適当に持って来た。これ以上は暗くて分かんないから戻って来たわよ」
気が付けば時刻は11時を回ってた。
それに、皆休まないでずっと動いてたから限界だろう。
心なしか全員口数が減ってる。
「であれば、私がここでモニターするわ。皆は休んでいて頂戴」
やっと楓は俺から離れる。
「だけど館華星の捜索はしなくて良いの?」
「私が追っておくわ。翔太君に抱き着いて元気が出たから、一晩位何とかなるわ」
「やっぱりわざとだったんじゃないのよ!」
「由佳さんは翔太さんのものなんですから自重してください」
「あんた最近物扱いな訳?」
別の意味で頭が痛くなる。
面白半分の冗談で言ってる事は分かってるんだけど、緊張感が無いと言うか何と言うか。
「あんただって昔そうだったでしょうが」
……確かにそうだった。
あの時は親友って呼べる奴が確かにいて。
それだけで良かった。
そいつが思い詰めてた事を全てが終わった後に知って。
同じ事をもう繰り返したくない。
犯人に、秀介を重ねた。
でもそれは、守りたいとかそう言う事じゃなくて、後悔したくないって思いだったんだと。
けど自分が怪我をして。
決定的に犯罪者とは分かり合えないと知った。
多分そこから、別の何かを探すようになった。
犯罪を無くしたいって大前提とは別の。
仲間って呼べる存在が増えて行ったから。
守りたいと確かに言える居場所が出来た。
守りたい。
失わせない。
犯罪を犯させない。
それだけ思いが増えてしまったら。
ふざけてなんかいられない。
珍しく姉ちゃんが笑う。
「絶対に死ぬんじゃないよ」
勿論と。
短く答える。
「いつまで怒ってんだよ由佳」
シャワー浴びたりご飯食べたりする前に、無理矢理翔太を散歩に連れ出す。
別に怒ってはない。
全く怒って無い訳じゃないけど。
「こうやって2人で歩くのって久し振りか」
意味も無く腕に抱き着いてみる。
翔太は拒否しなかった。
無言のまま、どこを行く訳でも無く歩く。
あたし達がぎゃあぎゃあしてる時、優子さんと翔太が話してるのを盗み見してた。
優子さんが翔太に対してあんな風に笑ったのを初めて見た気がする。
こう言っちゃあれだけど、優子さんの翔太の扱いは、控えめに言って雑だ。
いつも不機嫌だし。
だからちょっと気になった。
「さっき優子さんと何話してたの?」
「俺自身が変わったって話」
「あー……」
「あー……って何だよ」
「ふざけなくなったよね」
「はは……」
「それに、ちょっと大人っぽくなった」
「ふざけなくなったからかそれ?」
「勿論」
「扱い雑……」
「そうなる理由も分かるから」
「……色んな事、あったな」
「うん」
「俺を止めようとしてくれて嬉しかった」
「本当に、翔太はそれで良いの?」
「仲間と由佳が傍にいるならそれで良い。元々そう言う人間だ俺は」
「……」
「お前言ってたじゃん。あんたはただのバカな高校生だって。今は大学生だけど」
「前は、本当の翔太が周りに知られてくのが怖かったのにな」
「そんな事思ってたのか」
「誰も知らない翔太の力を、身近な人だけが知ってれば良かった」
空を見上げる。
爆弾テロがあっても。
連続狙撃事件があっても。
周りに明かりが無い状態の星空は奇麗だった。
「俺達、子供だったな」
一言で言っちゃえばそう。
有村君を失わなければ。
その言葉の意味も深みも分からずに過ごしてたかもしれない。
だけど。
人は失わなければ何も得られないけど。
失った事によって得た物は、善と言えるのか。
「俺はそうは思わないけどな」
星空を見上げる翔太の表情は、寂しそうだった。
「秀介は殺人を犯して死んだ。だけど、もし他の仲間が同じような状況に陥ったら。今度は助けてやれると思う。全部上手く行く事を諦めたくない」
翔太は目を閉じる。
全部上手く行く未来。
犯罪が無くなる未来。
「そう思うしか無いだろ」
翔太に寄り添う。
その言葉が。
物凄い重い言葉なのを。
あたしが一番知ってるから。
回収したものは、森田さんが保管してくれるらしい。
今調べないって事は、あたし達の行動って無駄だったんじゃないのかとムカついてくる。
今捕まえようとしてる犯罪者が相当危険な相手で余裕が無いのか。
それとも犯罪を防ぐって行為そのものが難しいのかは何とも言えない。
PCを使ってみたから分かる。
膨大過ぎる情報を相手に、翔太達は犯罪に立ち向かってる事だけは言える。
あたしが分かるのはそれ位だ。
翔太は事件が解決するまで帰って来ないと思う。
テレビでは悲惨な状況がニュースで流れてる。
日本で爆弾テロが起こるなんて誰が予想できるだろう。
翔太達はそうなるかもしれないってまで考えてたんだろうか。
テレビを何となく見ながら。
何かできないか、自然と考えてる自分がいる。
出来る事って言えば精々護衛位だろう。
それが出来てたら、楓が危なかった状況を何とかして。
一連の事件の犯人を確保出来たかもしれない。
だったらただ待つ事が最善かもしれない。
頼られるのを待つだけで良い。
幸い、武道をやってた時は競争相手がいなかったから、ただ待つだけなんて苦でもない。
言い方が悪いけど、頂点の取り方を知ってる。
だからいくらあたし以外の人間がどうだろうと焦らない。
第一焦らせる人間はもう死んだ。
その人間の過去や原点は、もう知った。
その代わり呼ばれたら必ず成功させる。
頭が切れる子ばっかりだから。
そこ位は全力でカバーしてあげる。
一部ムカつくやつもいるけど。
それと。
拾ったもののメモをPCに纏めとく位は出来るだろう。
汚くなったメモ用紙を見て溜息をつく。




