悪夢再び
松本大河は何度も鮎川君に接触を試みていた。
そして取り調べには一切答えず、まるで死人のような状態。
見張っている警官から報告を受け、鮎川君に託すしか思いつかなかったが、彼女であれば何とかしてくれると信じる。
一連の爆発により、死者は既に30を超えている。
桜庭君は財閥内で募ったボランティアに指示を出しながら、自身も懸命に活動している。
交通整理、避難誘導がおかげで迅速にでき、我々警察も救助に携わる事が可能になっている。
他の建物への被害が出ていない事は不幸中の幸い。
だが、本当にそうなのだろうか。
同時に起こった現場状況は、全てが狙われたと思われる建物以外に被害が出ていない。
特に現在私がいる現場はビル街の1か所のみが狙われている。
隣接したビルは無傷の状態。
これは偶然と取るべきなのだろうか。
久遠正義が大罪人なのは前提として、ただの殺戮者では無い。
異常なまでに頭の切れる人物だと言う事は分かっている。
だからこそ、この状況が偶然の状況では無い気がしてならない。
……生存者に話を聞きたい所だが、現在の所意識不明の重体者ばかりだ。
それは難しい。
人命が第一な筈なのに、こうして事件解決の事をメインで考えてしまっているのは、間違いなく焦っている為。
久遠を捕まえない限りこの状況は続く可能性がある。
私は桜庭君に連絡を取る。
私が離れる事は出来ない。
桜庭君の協力のおかげで現場は見事な連携が取れている今であれば。
『倉田さんですか?』
現場の指示は私に任せ、翔太君と久遠を追ってほしい旨を伝える。
『……なるほど。確かにどちらか1人で大丈夫な状況にはなっていますわ。油断はできませんが』
話が早くて助かる。
これ以上の被害は何としても防がなくてはならない。
それに、久遠が今後何をするかも分からない。
分からない事が多過ぎる為、そこに避ける人員は多い方が良い。
幸い、救援の為の人員は確保出来た。
『では、財閥内には倉田さんの指示を聞くよう伝えておきます』
……よし。
狙撃事件現場の警官には何かわかったらすぐに連絡するよう伝えている。
鮎川君なら松本大河から黒の御使いの情報を聞く事が出来れば、翔太君に再度合流できる。
悲惨な現場をもう一度目に焼き付ける。
一息ついて腰を下ろす。
こんな広い範囲を掘り返すのはしんどい。
何も出てこないなら猶更だ。
あれからずっと双鏡塔を掘ってるけど、進展は無しだった。
森田さんも手伝ってはくれてるけど、そもそも二人だけで探す範囲じゃない。
こんな事する位なら、本当に戻って別の事をした方が良かったんじゃないだろうかと思えてくる。
一応気になったものを集めてはいるけど、いまいちしっくり来るものは無い。
「もしや……反対側の塔にあるのやもしれません」
森田さんが声をかけて来る。
今あたし達が探してるのは、翔太達がいた方だ。
鏡道で同じ塔に実はいたって錯覚させられたのは、森田さんに聞いた。
「我々は、隠された何かを探す為にここに来ました。であれば、お嬢様らがいたこの塔は既に調べられている可能性が非常に高いです」
探す場所がそもそも違うんじゃないかって事に気が滅入る。
「それに、お嬢様が仰っておられた構造が事実であれば、そもそももう片方の塔は何の為に作られたのでしょう」
だったら話は早い。
直ぐに移動して探した方が良いって事。
「やる気に満ち溢れておりますね」
やる気があるんじゃない。
こう言う作業は面倒。
だから早く終わらせるだけだ。
時刻は午後8時。
明かりの少ない住宅街。
マンションの屋上から火花のような発光。
素早くライフルを片付け、ビルを後にする女性の姿がそこにあった。
同時刻。
犬の吠えを皮切りに、悲鳴やざわめきが聞こえる。
その輪の中心は。
頭から血を流して倒れている男性だった。
繰り返されるただの惨劇では無い。
これは。
終わらせる犯罪なのだ。
そうして零となる。
幾ばくかの芽が。
そこから開く。
スマホを下ろす。
再び起こった狙撃事件。
俺自身、どこかでこれで終わるんじゃないかと思ってたから。
久遠がどこに姿を現すかを考えてた。
だけどこれで事件が終わるなんて、久遠自身がいつ言ったんだ。
つくづく、甘い考えをしてた。
でも。
「モニターで犯人を確認しました」
拡大し、補正をかける。
目に映った人物は忘れもしない。
1年振り位だろうか。
迷い無く歩を進めて行く姿。
最初に会った時は儚さを感じた。
それがもうどこにも無い。
ただ目的の為に殺人を行う犯罪者。
館華星の姿。
頭を切り替える。
もうここで捕まえるしかない。
「戻ったわ」
由佳が戻って来る。
「由佳さん。また狙撃事件が……」
「翔太。久遠が行く場所だけど、多分スカイ ツリーじゃないかなって思う」
やっぱりか。
俺も高い所じゃないかと予想はしてた。
0の世界が何なのかは分からないけど、世界って言葉は考えられる。
高い所からの姿を想像するんじゃないだろうかって考えた時、自然と可能性として浮上した。
それに、普段は人通りが多くても、このタイミングなら。
爆弾テロを敢行した今なら。
容易に侵入が可能じゃないだろうか。
でも、それは今考えるべきじゃない。
館華星を追うべきだろう。
事件が起こって1時間経ってない今なら。
リアルタイムにまで手繰り寄せる事は可能。
「任せて」
拓さんに連絡し、動員可能な警官を送って貰う。
由佳達が館華星を見つけるのは時間の問題だろう。
その間、考える。
再び起こった狙撃事件は1件のみって考えて良いだろう。
或いは今後も起こる可能性はあるかもしれない。
気になる事は無かったか、思い出す。
連続狙撃事件が起きた後、爆弾テロが起きて今は混乱の中にいる。
その後、また敢えて狙撃による殺人を再開した。
今度は画面で姿を確認する事が出来た……。
ここだ。
何故今になって。
わざわざ館華星は姿を見せた?
狙撃できるポイントがここしか無かったんだろうか。
……いや、別に理由がありそうだ。
第一、一連の狙撃事件は時間も場所も法則性がある訳じゃない。
このポイントを最初に選ぶ事だって出来た筈。
今のタイミングでここで狙撃を行う事に意味を見るとすれば。
館華星が囮になってる可能性だ。
俺の予想が正しければ。
このまま全員で館華星を追えば。
久遠正義がその隙に動く可能性が高いと思う。
「捉えたわよ。館華星の車! 追う?」
「追うのであればヘリを出すわ。確実に捕まえられるように」
丁度良すぎるタイミングで、楓が戻って来る。
「テロ現場は倉田さんが引き受けてくれたわ」
全員で行くのはリスクがあるだろう。
「それなら、私も向かいます」
意外な事に立ち上がったのは華音ちゃん。
「体調は大丈夫? 華音ちゃん」
「大丈夫です。それよりも、追いましょう」
久遠が行くであろう場所へ向かうかどうするか。
万が一、館華星を見失った場合と、久遠自身が向かう可能性も考えられるし、何よりこの状況で俺が動くのは。
久遠を捕まえる場面のみ。
頭を切り替える。
頼む。
楓、華音ちゃん……。




