朽ちない善
奴らは、最後に死ぬんだろう。
確たる根拠はこの派手さ。
今はモニターで追えなくても何れ捕まる事は確実。
それを分かってない奴らじゃないだろう。
だったら仮説として考えられるのは。
捕まる事を計算に入れてこの犯罪を犯してるか、死ぬかのどっちかだろう。
後者だと思う理由は、0の世界。
奴らは過去の被害者の事を考えた犯罪を計画し、実行させた。
その軸で考えるのなら。
今回の事件の被害者は、何らかの加害者だって考えるのが自然。
それなら。
そんな加害者を殺害した後に行うのは。
捕まって罪を償うよりも。
自分らの死を以って何かを伝えるって事だって考えると納得が行く。
「なるほど……」
だとしたら。
いくつもの事件で俺達に殺人予告を出した理由はもしかしたら……。
スマホが鳴る。
姉ちゃんからだろうか。
何か分かった事があるんだろうか。
スマホ画面を見る。
見慣れない番号。
無意識に全身が固くなるのを、立ち上がって誤魔化す。
『いかがかな? 0の、世界は』
最初に手帳が送られて来た時から。
確信に近い予感はしてた。
だけどこうして本人からの宣告を受けるのはまた違う。
「やっぱりてめーが……」
『分かっていたのでは、無いか?』
「ああ。てめーがどうするかもな」
『ほう? 聞いても、良いか?』
「全ての犯罪を犯した後、死ぬつもりなんだろ? 目に見えた犯罪者が犯罪を犯して死ねば良いとか考えてるんだろ。こんな目立つ事して逃げるって思考をてめーがするとは思えない」
『ふふ、ははは』
「何がおかしい」
『だから必要なピースだと、言う訳だ。吉野翔太』
「何?」
『その推理を、私に言って、どうする?』
「止める」
『悪を止めて、どうする? 悪は、所詮悪でしかない』
そうじゃない。
善悪は人じゃない。
事実に対して設けられるだけだ。
法で裁かれるか裁かれないか。
俺がしたい事はそんな事じゃない。
犯罪を無くしたい。
久遠正義。
お前を裁くのは法律。
俺じゃない。
『止めてどうするのかと、聞いているのだが?』
お前を止めてから教えてやる。
『止める事は、出来ない。吉野翔太。君が止めようとしても、世界は、私を、許しはしない』
通話が切れる。
「翔太さん、これ!」
華音ちゃんが見せたスマホの画面には。
SNSの書き込み。
……そうか。
こいつはこうやって世界の悪を。
自分で全て……。
世界は、過去の犯罪を許し過ぎている。
例えば虐待。
例えば事故の隠蔽。
殺人。
虐め。
被害者らは、今も救われず、理不尽に苛まれている。
呪いから解放する事は、果たして悪なのか。
呪いから自ら脱却しない事を、果たして悪と言えるのか。
死ぬ事を止め、生きる事を諦めてしまう状態に陥る事を、悪と呼べる者はいるのか。
ある事がきっかけで呪いに対して憎悪を覚え、復讐をする事は悪なのか。
我々は違うと断言する。
呪いを与えた者に、等しく罰を。
連続狙撃事件、或いは今混乱に陥っているであろう爆破により。
我々は犯罪者を裁いた。
我々は、加害者の敵である。
この書き込みはもう炎上してた。
リアルタイムでの閲覧数が、見ただけで分かる位の書き込み。
大多数の反対する書き込み。
少数の煽りと、感謝の書き込み。
ただ一言、ありがとうって言葉が重い。
そうだ。
崖の城の事件を思い出す。
信じられない殺害動機の中にいて、過去の呪いから解き放たれた人だっていた。
感謝の涙だったんだと。
今になって思う。
世界には理解されなくたって。
こうして確かに感謝の言葉がある。
これが現実なんだと愕然とする。
何を信じて良いのか分からない位に。
久遠と星さんは世界を敵に回した。
全てを覚悟の上で。
「久遠の居場所を特定しよう。今後も断罪って称して誰かを殺害するかもしれない」
世界が例え久遠を許さなくても。
翔太は久遠を。
いや、犯罪を止めようとしてる。
でも、もし翔太が止めてしまえば?
今度は翔太が世界の敵になる?
この書き込みで。
世界は久遠を認識した。
久遠って言う名前が分かんなくても。
それが久遠の狙いなんだって確信してしまう。
死ぬのが目的で。
例え翔太が止めたとしても。
今度は世界が。
翔太の事を悪だって認識する。
そして今までの事が。
まるで夢だったかのように。
でも……。
翔太を見る。
両小指を絡め、手を口元に当てて。
今も久遠の居場所を探す為の手を考えてるんだろう。
これだけ事件を解決して。
全身に怪我まで負ってる人に。
世界の悪を全部押し付けるつもりなんだ。
……。
翔太が世界の敵になる位なら。
いっその事、後悔に苛ませてしまった方が、傷が浅い可能性まである。
「由佳、モニターで追ってくれるか?」
……。
「今ってさ、久遠が犯罪を犯してるって皆に認識されてるんだよね?」
「間違い無い。だから急ぐんだ」
「久遠をさ、翔太が止めたらさ」
「由佳、どうした?」
「翔太は、どうなるの?」
「え?」
心底、翔太の存在が消える事が怖かった。
社会的に殺される。
それと同じだって思った。
「あー……」
あー……じゃないと思うんだけど、翔太は自分の事なんて考えて無いんだろう。
だからあたしがいないとダメだって。
心の底からそう思う。
「そうなったら、由佳はどうする?」
何にも変わる訳が無い。
「じゃあ、それで良い」
え?
「俺がもし世界から悪だって言われても、由佳がいるんだろ? だったらそれで良い」
そう言う事じゃなくて!
翔太が社会的に消されるって事。
「PCPは無くならない。それに、分かってくれるって思う」
そんな事は分からない。
「事実は残酷だけど、きっと世界ってそんなに残酷じゃないって思う」
……。
「現に由佳はそう言ってくれた。だから俺は、迷わずに久遠を止めに行ける。それが俺の事実だ。だから、手伝ってくれ」
……。
最初に解決した事件は有村君が犯人で。
その時の翔太は壊れそうだった。
だけどそこからあたしが隣に立ちたいって願って。
色んな想いを見て来て。
そうした結果が今になってる。
だから翔太は迷わずに。
それでもあたしを頼って。
だったら。
頭を振る。
例え地獄にいても、助けてあげるから。
「あの……お二人とも」
ビクッとする。
あ。
「私がいる事忘れないで貰えませんか……」
すっかり忘れてた。
華音ちゃんは笑う。
「因みに私は、既に犯罪者の妹って言う肩書ですから」
つられてあたしも笑う。
世界が敵に回る位で壊れるPCPじゃない、か。




