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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪4 永久の零を望む者達
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悪の末

 次々に起こる連続狙撃事件。

鮎川君から届いた不審者の画像の人物を全国指名手配してから、私は次なる現場へ向かう。

鍵がかかった密室の中、狙撃をされた女性の現場。

窓が開けられており、被害者はその時に狙撃をされたものと思われる。

被害者を貫通した弾の入射角が、ほぼ水平になっている事実から、同じ高さから狙撃された事は分かっている。

該当する場所はすぐ横の改装中のビル。

ここに既に矛盾点が存在する。

鮎川君からの画像のビルとは別と言う事。

更に画像のビルからは、現場が死角になっており、そもそも狙撃が不可能。

対して狙撃現場と思われる改装中のビルからは何の痕跡も見つかっていない。

どうやって狙撃を可能にしたのか。

見えない地点からの狙撃。

複数人で陽動と実行を分けた可能性は考えられるかもしれないが、わざわざそれを行う理由が思い当たらない。

PCPの監視を念頭に置いたようにしか思えないような動き。

だが、久遠がPCPの監視モニターの存在を知れるとは思えない。

つまり、情報を整理すれば。

鮎川君の画像のビルから、死角の相手に向けて狙撃を行ったと言う事になる。

1つの可能性を思いつく。

可能にするとすれば跳弾。

だが、拳銃ならともかく、ライフルとなれば不可能に近い。

ほぼ全てを貫通してしまうだろうし、ましてやそれを狙って行う事は困難。

改装中のビルのビケ足場程度、容易く貫通してしまうだろう。

……。

現場をもう一度見直す。

状況を1つずつ追っていく事にする。

そもそも、何故被害者は窓を開けたのか。

ただ普通に開けただけなら不思議ではないかも知れない。

だが、ここは密室だったのだ。

つまり、被害者が自らカギをかけた。

そんな状況で窓を開ける事が疑問。

使われた弾を確認する。

先端が激しく潰れており、やけに細かな傷が目立っている。

普通に狙撃を行っただけで、果たしてこうも傷がつくとは思えない。

古い弾をわざわざ使った?

何の為に。

状況を整理すればする程、分からなくなる。

深呼吸し、現場を後にする。

これら全ての状況をまとめられる何か……。

或いは他に情報が無いのかどうか。

……。

翔太君達は殺人犯をリアルタイムで追えるように尽力している。

彼らの手を煩わせるような事は避けたい。

……そうだ。

死角にいる人物がどのような動きをしているのかを確認しなければ、この方法は成立しない。

それに、改装中のビル内部を調べただけで、足場の方はまだ調べていない筈。

無意識の内に、不安定な場所での狙撃は行わないだろうと思っていたから。

狙撃は行わなくとも、仕掛けをする事は出来る筈。



 相変わらず、突然電話で人を呼び出すのは気に入らない。

しかも、最近は大抵護衛だ。

だけど律儀なのか何なのか、毎回バカ高い報酬を積んでくるから、こうして嫌々ながらも同行するのは、我ながら現金だと思う。

「不満かしら?」

 楓はこっちを見ずに話しかけて来る。

あたしは別にとだけ言い、現状の説明を求める。

あたし達が乗ってる車の後ろを、パトカーが2台ついて来てる。

「黒の御使いを捕まえる為よ」

 ……。

皇桜花は死んだ。

他の仲間は捕まって無い事は聞いてる。

そのメンバーを見つけたとでも言うのか。

「確証は無いわ。けれど、普通に生きる事はもう叶わない。そして国外逃亡は警察が既に対策を打った現状で、彼らは何をするのかを考えたのよ」

 犯罪者の気持ちなんて知りたくも無いけど、言いたい事は分かる。

要は未来が無いんだからって事だろう。

「珍しく察しが良いわね」

 イラっとする。

けど、どこに行くのか見当もつかない。

「前に、華音ちゃんが見つけた所。ワイン瓶のような形の建物よ。松本沙耶さんの……ね」

 松本沙耶?

松本大河が来るとでも言いたいのか。

安直な気がする。

「そうね。本当に松本大河が来る可能性は低い。けれど、選択肢の1つには入ると思っているわ。その1つ1つを、こうして潰す事が大事なのよ」

 その為にあたしまで呼んだのに呆れる。

だけど。

PCPって組織がやろうとしてるのは。

犯罪を防ぐ事って言ってた気がする。

防ぐって行為がこうした地道な作業の積み重ねって思うと、バカには出来ない。

「翔太君ならもっと賢く出来るのかもしれないけれど」

 少しだけ寂しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。

「着いたわ」

 車が止まり、あたし達は降りる。

周りは薄暗かった。

こんな山奥に、さっき言ってた墓があるのか。

華音ちゃんは良く見つけられたと、場違いな感想を抱く。

「何かの兵器に見えたから、確認したそうよ。ある意味、見つけられたのは由佳ちゃんのおかげかもしれないわね」

 翔太が由佳ちゃんとの関係を進展させてくれて本当に良かった。

こいつにお姉さんと呼ばれるのは、心底気持ち悪い。

どうでも良い事はさておいて。

人が何とか通れるような場所を通り、楓の後ろをついていく。

開けた場所に、それはあった。

「雑草が奇麗に刈り取られているわね。聞いていた話と違うけれど」

 って事は。

最近になって誰かがここに来たって事か。

楓が立ち止まり、あたしに視線を向ける。

先に行けって事だろう。

皇桜花が死んだ以上、警察に任せとけば良いんじゃないかと思うけど、黒の御使いは警官を殺害出来る力を持ってる。

だからあたしをわざわざ呼んだんだろう。

やっと納得出来る理由が見つかった。

正面の扉は。

推すと案外簡単に開いた。

人がいる気配を探る。

この場合は殺気の事。

こっちに向けられた明確な攻撃の気配なら直ぐに分かる。

殺気は感じない。

ゆっくりと中を覗く。

男だろうか?

確かな人影を確認する。

一気に開き、中へと入る。

しゃがんだまま微動だにしてない。

……死んでる?

「ここに来る。或いはいると思っていたわ。松本大河さん」

 松本はゆっくりとこっちに振り返る。

生気が無いその眼は。

幽霊のようだった。

「黒の御使いは、元々戻るべき場所を失った方の集まりだった。そんな集団が目的を達成してしまった。であれば。過去に戻ろうとする者もいるのではないかと言う幼稚な発想だったけれど、当たっていたようね」

「……誰だ」

「PCPと言えば、分かって頂けるかしら?」

 興味を失くしたように、松本は背を向ける。

その先にあるのは、お墓だろうか。

「そんなものも、あったな」

 流石の楓も首を傾げてる。

本当にこいつが黒の御使いのメンバーなのか。

「他のメンバーの居場所をご存じかしら?」

「興味無い」

 この状況は一体何だろうか。

「演技でやっているようには見えないわね」

 小声で楓はそう返すけど。

警官が手錠をかけても、松本は何の反応も示さない。

呆気無く松本大河の確保が成功してしまった。

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