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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪4 永久の零を望む者達
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善悪の捉え方

 物心着いた時から既にこの世は残酷だった。

人に見て貰う為に何かをしていた訳では無かったが、人は私を認めようとしなかった事は良く覚えている。

だから海外に留学を決意した。

だが、銃があるか無いかの違いがあるだけで、根本的には何も変わっていなかった。

正しい事は、時として間違っている。

何を言っている?

生きる為に懸命に生きている貧困層を虐げるだけの世界が広がっている。

その様子が正しいと言うのは。

単なる恐怖に過ぎない。

全てを変える力をつける為に生きようと決意をした。

理不尽に不幸に晒された人物を、本当の意味で救う事は必要だった。

均一は善。

不均一は悪。

無力は悪。

力は善。

繁栄が善。

衰退は悪。

価値無き概念だ。

それでも言える事が1つだけある。

憎しみが無くなる事で、全てが0になる。


0の、世界。



 荷物の確認をする。

これで全部。

やっと退院だ。

事件に関わる程に傷が増えてくけど、こうして俺は生きてる。

黒の御使いのメンバーは、あれから拓さんが捜索はしてるけど、行方は掴めてない。

それに……。

俺は手に持ってる古い手帳を見る。

差出人が不明。

この手記を書いた人物の名前は分からなかったけど。

桜花と言う名前。

間違い無く皇桜花の事だろう。

だとしたら。

これを書いたのは官野帝って事になる。

誰が?

手帳を握りしめ、帰路につく。

綴られた心の闇。

建てられた用途不明の建築物。

これを送って来たって事は。

送り主は読んだって事。

何を思った?

読んで尚、皇桜花を殺害したのか?

自然に力が籠った体を解す。

0の世界?

そんなものの為に?

自宅の扉を開ける。

姉ちゃんは先に退院して、もう仕事をしてる。

前に比べて吹っ切れたような表情をしてたのが気になったけど、元気なら元気で良い。

荷物を片付け、手帳を再度見る。

この中身が全部本当だとしたら、皇桜花は憎しみだけを受け継がされたって事だろう。

だから蘇らせて殺害したかった。

そんな目的の為にあんな組織を作ったのは理解できないけど……。

以前、どっかで由佳と話した事を思い出す。

物事の善悪で言えば。

本当に手記の著者の官野帝は、悪だったのか。

俺がもしそんな立場になって、どうするかなんて分からない。

面と向かって官野帝に、お前は間違ってるって言えるのか。

大袈裟かもしれないけど、世界が分からなくなって来た。

ドアが開く音。

「迎えに行くって言ったのに」

 関係が変わってから、由佳は勝手に家に入って来るようになった。

家の合鍵を渡したってのもあるけど、ちょっとびっくりする。

「翔太の所にも来たのね。それ」

 由佳は俺に、古い手帳を見せる。

って事は、差出人は……。

隣に由佳が腰かける。


「翔太はこれ読んでどう思ったの?」

「分からなくなった」

「うん。あたしも」

「だよな……」

「前にした話、覚えてる?」

「善悪って何だろうって話だろ? 忘れるわけない」

「あの時と、今の考え方って変わった?」

「変わったのかは分かんないけど、色んな犯罪者を見て来た」

「あたしも、犯罪者の気持ちを理解したかった。でも、拒絶された」


 そうか。

由佳と話して納得する。

それは間違ってるって言うのは悪い事じゃない。

間違ってる事を知ってて何も言わない事が悪い。

簡単な事だった。

「松本大河には、あんたは間違ってるって言ってやったわよ」

 その場面が容易に想像できて笑える。

「この手帳を送って来たのって、やっぱり……」

 間違い無いだろう。

久遠正義。

そして根拠は無いけど、皇桜花を狙撃したのも多分。

奴の痕跡が無いか。

今からPCPで調べないと遅いかもしれない。

立ち上がると、由佳に止められる。

「あんたは今日はジッとしてる!」

 おとなしく待つ焦燥感はあるけど。

冷静に久遠達の目的を整理した方が良いかもしれない。

何より、あれだけ動いた久遠が全く動かなかった事に。

何か理由があると考える。



 企業との話し合いが終わり、帰路に就く。

黒の御使いの事件が何とか区切りがついた為、森田さんに送迎を任せられる事は大きかった。

深呼吸をし、古い手帳を取り出す。

先日送られて来た手帳は、現在桜庭コーポレーション内に拠点を設けている警察にも見せた。

官野帝の心の闇。

皇桜花が死者を蘇らせてその人物を殺害すると言う、通常は考えられない目的にもある程度納得がいった。

皇桜花は、過去の犯罪者自ら過去を清算させ、最後に殺害するやり方をしていた。

被害者に仇を打たせる久遠とはある意味正反対のやり方。

この手記の人物を殺害したいと思うのであれば、皇桜花のやり方に行きつくのだろう。

けれど。

私はそれを許さない。

翔太君や由佳ちゃんが、もがきながらも前へ進もうとする姿。

殺意や憎悪だって。

自分の中で折り合いをつけ、それでも生きて行かないといけないと思うから。

官野帝にしても。

停滞した空間の中で別の答えを見つけなければいけなかった。

全てを肯定していたら。

私は危険だと考える。

立場上の考え方かもしれない。

翔太君達の元にも送られて来ている筈。

どんな考えを持ったとしても、私はそれを否定しない。

彼らを信じる事が出来る確かなものがあるから。

1つだけ言える事がある。

この手帳が送られて来たと言う事は。

何かが始まろうとしている。

さっき翔太君から退院したと連絡が来た。

翔太君に無理はさせられない。

私は進路を大学に変更するよう、森田さんに命じる。



 黒の御使いは思った以上に派手に動いて下さいました。

正義さんは今が時だと仰り、私も本格的に。

悪に染まるのだろう覚悟をします。

もう、既に何人もの人を殺害しているのに何を自分は考えているのだろう。

ですが、これは全てを0にする為の行為。

黒くなればなるほど、私達にとっては都合が良いのです。

部屋の隅に置いてある。

埃を被ったヴァイオリンケースが目に入り、少しだけ胸が痛みました。

アタッシュケースを持ち、計画実行の為に。

0を作る為に。

翔太さん。

是非止めに来て下さい。

そうしないと、この計画は成立しないのですから。



 時刻は午後9時。

残業で遅くなってしまった帰り道を、1人の男性が早足で歩いて行く。

特筆すべき特徴が何もない、静かな住宅街。

当然この時間は、男性以外誰もいない。

だが、それは起こった。

男性の体がビクッと跳ね、地に倒れる。

頭部から広がる血溜りに、男性の絶命が見て取れる。

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