それは某K氏の手記3
桜花は大した子供だった。
私が生涯集めた専門書を明確に理解し、身体能力も子供とは思えない程度の水準で備えていた。
前者からは様々な可能性が考えられるが、後者は間違い無く殺されない為の本能が基となっているだろう。
傍から見れば包丁を持つ異常な子供でしかないが、世界はこのような子供を消そうとする。
激しい怒りを通り越し、呆れてしまう。
私の事を持ち出すつもりは無いが、人は均一でありたいのだろう。
何が良いか、悪いかではなく。
何が不快か、心地良いか。
そのような下らないものが必要なのだ。
更に、定期的に訪ねて来る訪問者に、桜花との組み手をさせた。
人間は頭が資本とは良く言ったものだ。
桜花は1日1日レベルではなく、1分1秒で成長が感じられた。
紛れも無く、桜花は天才だろう。
簡単なロジックテストをしてみたが、既に桜花には退屈なものとなってしまった頃。
私は桜花に、自分が建築した建物を案内した。
私の心の闇を。
桜花に引き継がせる決意である。
私はもう長くはない。
寿命が尽きる前に。
その空っぽの心を憎悪で埋め尽くす。
心の中で静かに燃え続けた何十年もの闇を。
建物の名前、込めた願い。
それらを桜花に説いて回った。
その時の桜花が何を考えていたのかは定かではないが、私の心は間違い無く晴れて行った。
同時に何故だろうか。
激しい後悔も湧いた。
建物を造った事に対してではなかった。
何故この状況へ追いやった本人ではなく、こんな子供にぶつけてしまっているのか。
建物の、そして心の闇を説いていく過程で、私は間違い無く泣いていた。
心の闇が氷解し、後悔となって流れた。
1つだけ知る事が出来た事は僥倖だろう。
心の闇、憎悪は。
それを与えた本人に返すべきだと。
決して連鎖を造ってはならない。
後悔が残るだけなのだ。
所詮、世界の善悪は法によって定められているかいないかの差である。
心の痛みを、相手は知らなければならないと考える。
全ての建物を回り終え、私は桜花にプレゼントを贈った。
トランプのモチーフとなる銅像、心の闇の隠ぺいをイメージした、建物を覆う蔦。
その館を、桜花の住居として。
そして、私が終期を迎える為に用意した館。
現在私は、ベッドでこの手記を書いている訳だが、これまでの時間は私にとっては比較的穏やかな時間が流れて行った。
後悔は2つある。
桜花に私の全てを託した罪。
そしてどのような未来を迎えるのかを見届ける事が出来ない事である。
ここには定期的な物資、資金の配給を済ませている為、生きる事は出来るだろう。
桜花は、1日に3回、私の元へ様子を見にやって来るが、性格がまるで変っている事に驚いた。
只管に明るい口調。
絶やさぬ笑顔。
隔離施設から出る事が出来た当時の私を彷彿させた。
何をしているのか、試しに聞いた。
明るい声で『内緒だよ』と返答されるのみだった。
深くは聞かなかったが、一瞬だけ垣間見る、冷酷な表情を見逃さなかった。
確信をした。
心の闇を継承し、何かを成し遂げるつもりなのだと。
葛藤は消えた。
思い残す事はもう無かった。
死の世界がどのようなものかは分からないが、その世界から静かに見守る事とする。
純粋な闇を継承した、小さな悪魔の行く末を。
この手記をどのような者が見るかは分からない。
1つだけ言うべき事があるとすれば。
この手記の中で、何が善で何が悪だったのか。
その事実から決して目を逸らしてはいけない。
書いてある内容は全て事実である。
証拠は何も無いが、事実であると言う事だけに目を向けて欲しい。
この手記を見た者が、自分の意思で結論を出すべきであると私は考える。
この手記は。
私が建てた建物に隠しておく。
最も。
この建物が利用される事も無く。
例え利用されたとしても手記が見つからなければ。
世界の本当の闇が露呈する事は無いだろう。
それでも構わないかもしれない。
全てを実行する者が、確かにいるのだから。
それが幸か不幸かは。
生きている者1人1人が決めると良い。
手記を閉じ、目の前の光景に目をやる。
建物が燃える光景に、既に死んだ人物の憎悪を想う。
桜花とは。
間違いなく皇桜花の事だろう。
まさか、奴の関係者による建造物だとは思わなかったが、不思議ではない。
奴の思考と手記の著者の思想が似ている為だ。
本当に犯罪を行う為に建てられたものであるならば。
私はそれを壊すのみ。
著者に共感できる部分は勿論存在する。
皇桜花の悲願は達成不可能。
つまり、殺害されるしか道は無かったのだ。
私には私の思想がある。
0の世界を、始める。
雪がすっかり上がり、烏が離れて行く呪恨館の呪いは、こうして解き放たれる。
準備は整った。
全ての儀式を完了させた後に。
計画を実行に移す。
くろのてんしちにまいおる。
いかがだったでしょうか。
残る話は2話。
長かったですね(笑)
物事の善悪って何なのか。
割と思う事なのではないでしょうか。
その辺りを考えながら、先の話を読んで頂ければ幸いです。
それでは、次回作までお待ちください。
一旦完了にして、また再アップ予定ですノシ




