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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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いつだって人は罪に苛まれる

 台風が去ってくれて、モニターの映像がクリアになった。

警視庁周辺は、膝まで浸かるような水溜りの規模の台風にも拘わらず、既にマスコミや野次馬、警察の姿が見える。

「肝心の黒の御使いのメンバーは、1人も捕まってないですよね」

 華音ちゃんの声からは、悔しさしか感じない。

これだけの事件が起こったのに。

台風の如くあっという間に過ぎ去った。

警察の足止めと天候。

きっと両方計算されたものなんだろうと今更ながらに思う。

倉田さんは現場を離れられないとさっき連絡を貰った。

だから代わりの応援の刑事さん達が、翔太達がいる現場に向かってる途中だ。

きっと何とかしてくれると信じてる。

だから不安も大きくなってるだけだと思い込んで、あたしは何とか冷静を保ってる状態だ。

優子さんもいる。

楓さんだっている。

心から絡みついて離れない、嫌な気持ち。

「出来る事、探しましょう。由佳さん」

 華音ちゃんがどんどん頼もしくなっていってる。

きっかけを作ったのはあたし。

ここで立ち止まっちゃダメだ。

頭を振り、別荘らしき建物のモニターを見る。

俯瞰映像しか無いけど、異変があれば分かる筈。

角度を変えて、変化が無いかを観察する。

割れた窓。

乱反射したような眩しさは、割れた破片が反射してるから。

拳銃なのか何なのかは分からないけど、間違いなく翔太達が、誰かと建物内にまだいる証拠。

発砲されたのが脅しなのか……。

窓には誰の姿も映らない。

角度を更に変える。

入り口だと思う場所に、ドアが無い。

何が起こったのか。

巻き戻してみる時間は今は無い。

別の角度。

別の窓が割れてる。

……首を傾げる。

おかしい所が無いか。

「どこかおかしいですか?」

 漠然としかしてない。

試しに拡大してみる。

台風が過ぎて、今は快晴。

あ。

ガラスの破片が外に落ちてない。

「そう言えば……」

 俯瞰の映像。

太陽が出てる。

本当に割れた窓の原因が建物内からなら。

ガラスが落ちてないのはおかしい。

「外から……って事ですか……?」

 不安が一気に加速する。

翔太達は無事なの……?



 一瞬だった。

窓ガラスが割れる音。

壁にめり込んだ弾丸。

震えている藤堂。

仰向けに倒れた皇桜花のこめかみから吹き出した血が、床を赤く染めあげていく。

「ちっ!」

 阿武隈川愛子がすかさず窓から出て行く様子を、ただ見る事しか出来ないでいる。

優子も限界だったのだろう。

膝をついて崩れる。

翔太君が追いかけられる訳が無かった。

突然の狙撃。

「前の事件も……」

 大怪我をしているこの状況でさえ、翔太君は考えを止めていなかった。

何の為の狙撃なのかが分からない以上、窓際に立たないようにする以外に、今私が取れる行動は無かった。

「は、ははは……」

 ゆらゆらと立ち上がり、藤堂は壊れたように嗤いはじめる。

「やはり貴様らが悪だったな! 見た事か! いくら吠えた所で悪は滅びる! あの時と同じだ! はははははははは!」

 藤堂への不快感が急激に増した所で、藤堂のこめかみから大量の血が噴き出す。

2発目の狙撃だと認識した時には、藤堂の肢体が力無く地に倒れる。

「今は動かない方が良い」

 無差別に?

誰もいないような場所を選んで?

意味が分からない。

確実にここに人が来る事を知っている人物。

……一体誰が?

救急車の手配と、倉田さんへの連絡。

既にこちらに警察は向かっている事を知る。

後は由佳ちゃん達へ。

『翔太は無事ですか!?』

 止血はしたし、弾も貫通はしているようだけれど、急いで病院へ運んだ方が良い状況だと言う事を、簡潔に伝える。

「俺も姉ちゃんも大丈夫」

 黒の御使いの大犯罪は、憎しみだけを遺し、皇桜花の死を以って幕を閉じた。



 警視庁襲撃事件は、テレビで連日のように報道された。

死者は150人にものぼり、犯人グループの目的は一切公表されなかった。

中でも、犯罪者側の死者が0人だった事実は賛否両論となり、SNSやメディアで大きく取り上げられた。

臆病者と叩く人もいれば、人命を尊重した、あの極限下での勇気ある行動だと称える人もいた。

黒の御使いのメンバーの行方は警察も追ってはいるものの、やはり消息は掴めない状況だ。

そんな事実を、俺は入院生活の中で知る。

入院キャラみたいになってるのが釈然としないけど、今は完治が先決。

それに。

狙撃での殺害。

呪恨館の事件で。

犯人は狙撃によって殺害された。

双鏡塔での事件でも。

狙撃によって犯人を殺害しようとした。

まるで動きを見せてなかった事実。

予感が膨れ上がってく。

直感レベルだけど、確信を持てる感覚。

「入るわよ」

 由佳が入って来る。

例によって兄弟揃っての入院の為、由佳に世話をして貰ってる。

「また体拭いて無いじゃないのよ!」

 看護師が置いてったお絞りを、例によって考え事をしてた為に忘れる。

「早く脱ぎなさい」

 殺気じみた声にノーと言えず、脅されるように俺は上半身を脱ぐ。

決まってこいつは、俺の脇腹に手を充てる。

何度気にすんなって言っても。

由佳にとっての罪滅ぼしなのが分かるから、俺も何も言えない。

爆発の時に刺さった破片の傷跡。

由佳にとっての儀式が終わった後、黙って俺は背中を拭かれる。

表情は見ないようにしてる。

微かに聞こえるすすり声は、聞こえない振りをしとく。

行動の意味も、気持ちだって全部説明が出来る。

「はい、終わり」

 そんな無言の時間が過ぎ、軽く背中を叩かれる。

素直にありがとうとお礼を言う。

どんな時でも礼儀を忘れちゃダメだって事を、俺達は事件を通して学んだから。

由佳は姉ちゃんの所に行くからと出て行く。

……。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

警視庁は工事中の為、桜庭コーポレーションが仮拠点になってる。

拓さんの提案と先日の事件の行動、警察拠点の提供によって、俺達PCPは正式に警察との連携を実現させる事が出来た。

奴らが皇桜花を狙撃した可能性は高い。

以前言ってた事を思い出す。

0の世界。

指名手配の犯罪者、久遠正義。

奴が自らそう言ってた。

何を以って0の世界かは分からない。

だけど、その0の世界の為に、犯罪者である皇桜花を殺害した。

どうかしてると思うけど、奴らの思考は多分こう言う事だろう。

奴らが何をしでかすかは分からない。

それに、警察も今は混乱の最中にある。

今行動を起こされれば、とんでもない状況になるのは確実。

怪我に対して、これから起こるだろう犯罪がすぐそこまで来てる。

逸る気持ちを抑える為に、こうやって必死に考える。

けど、それだけじゃないのは分かってた。

秀介に似てるから。

だから俺はここまで固執して、犯罪に関わり続けてる。

いつまでだって。

俺にとって秀介は……。

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