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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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嵐は過ぎる

 飲食店で働いてて別にきついって思わなかったけど、楽しいとも思ってなかった。

生きる為の行為、それだけだった。

もし仮に、あのまま武道を続けてたら楽しかったかって聞かれれば。

多分そうじゃなかっただろう。


 ……。

気絶してたみたいだ。

起き上がろうとしたけど、今の状況がどうなってるのかが分からないから、聞き耳を立てる。

部屋に入ろうとしたら、背後から攻撃が飛んで来たって事は。

皇桜花が室内にいる事だけは間違い無いから。

もし、翔太達が殺されてたら?

ノイズ的な考えをかき消す。

生きてる事に望みを賭ける。

「それ以上喋るなら、遠慮無く打つわよ?」

 女の声が聞こえて来る。

それと、多分老人の震えるような声も。

だけど肝心の翔太達の声が聞こえない。

「何故俺達をすぐに殺さない」

 ……ホッとする。

気絶してた時間はそんなに長くなかったみたいだ。

「勘違いしないで? 殺す必要の無い人間は殺さないわ」

「それはおかしいわね。翔太君は皇桜花に殺されかけたわ。そのような人物が目の前にいる。放っておくメリットがあるのかしら?」

 銃声が響き、老人の悲鳴が聞こえる。

「早く蘇らせろ」

 蘇らせる?

誰を?

……何を言ってるのかさっぱり分からない。

だけど音だけで状況を整理すれば、女が翔太達に拳銃を向けて、皇桜花が老人を脅迫してるだろう状況を思い浮かべる。

「あんまり時間はかけてられないわよ。エージェント」

「黙れ」

「そうね。時間が経てば、優子が目覚める可能性だってある。それに警察が来る可能性も高まるわ」

 ……信じてくれたっぽいけど、無性に腹が立つ。

「ここで要求を呑まないのであれば、貴様を連れ帰るだけだ」

「で、出来ないものは出来ない! 死人を蘇らせるなんて、そんな事出来る訳が無いだろ!」

 ……。

そんな事の為に、犯罪に手を染めたのか。

この上なく愚かだ。

音を立てないように起き上がり、部屋の位置を確認する。

部屋の隅まで吹っ飛ばされたらしい。

とんでもない力だ。

僅かな隙間から覗いてみる。

幸いな事に、全員の視界に入らない位置にあたしはいるみたいだ。

反撃の隙を伺える。

「心肺停止した人間を蘇生する延長だ。出来る筈だ」

「や、奴が死んでから何年経ったと思ってる! お伽噺はもう止めろ!」

「社会的に殺害したのが貴様だと、まだ理解をしていないようだな」

 皇桜花の握る銃口が、ゆっくりと老人のこめかみに移動する。

「流石に殺したくなって来た」

「止めろ撃つな!」

 翔太達に拳銃を向けてる女。

あいつから拳銃を奪ってしまいさえすれば。

天井に向かって発砲される。

木の破片が乾いた音を立て、落ちた。

「簡単に死ねると思うな?」

「連れ帰った方が良いんじゃないかしら?」

「どうしたら要求を呑む? ここまで譲歩してるんだ。答えろ」

「む、無理なものは無理だ!」

「要求を呑む事が前提での話だ。分かるな?」

 銃口が出血した手に向けられる。

その間、女は片時も翔太から目を背けない。

どうする?

楓がこっちを見る。

目が一瞬だけ合う。

向こうに見えるように、隙間越しに手を振ってみる。

けど、楓は気付かなかったみたいで、直ぐに視線を戻してしまう。

そっちからのアクションで女の視線が一瞬だけ逸れれば。

形勢は逆転する。

あたしは体勢を整える。

きっと気付く。

楓の表情が変わったのを、あたしは見逃さなかった。


「今よ!」


 扉を蹴飛ばし、女に突進する。



 阿武隈川が視線を向けた時には、姉ちゃんは既に阿武隈川の拳銃に触れてた。

「な……!」

「お喋りが過ぎるのよ。あんた」

 素早く手刀を加えるのと、発砲は同時だった。

足に激痛が走る。

手から離れた拳銃を回収しようとしても、俺は足を抑えて蹲る。

辛くも楓が拳銃を回収してくれる。

「今止血するわ!」

 楓が惜しげもなく自分の服を千切り、俺の足にきつく巻く。

「形勢逆転よ」

 姉ちゃんが俺に視線を向けるけど、今はこの有利な状況を崩しちゃいけない。

手を抑える阿武隈川が、後退る。

表情に焦りが無いのは俺を負傷させたからだろうか。

「本当にそう思ってるのかしら?」

「あんたがそれを言っても説得力が無いわ」

 皇が、心の底から溜息を漏らす。

「何してるのかな? 阿武隈川愛子」

 何を思ったのか、皇は阿武隈川に拳銃を突きつける。

「油断はしてないわよ」

「まあ、結果的には良いけどね」

 皇は阿武隈川に拳銃を渡し、こっちに向き直る。

台風が通り過ぎ、眩し過ぎる程の光が差し込む。

「拳銃であたし達を打てば良いんじゃないの?」

「少なくとも貴様に当たると思っていない」

 姉ちゃんと皇が再び対峙する。

台風はもう過ぎ去った。

後は警察が来るまでの足止め。

それで黒の御使いに勝った事になる。

後は姉ちゃんに死なないで欲しいと。

全力で願うだけ。

「時間も惜しい。貴様を殺して終わりだ」

「あんたを倒すわ」

 2人が構える。

殺気が手に取るように伝わって来る。

その時だった。

それは起こったのだ。

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