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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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全ての共存なんて子供じみてるけど

 テレビ電話が繋がるのをただ待つ。

何を話そうかなんて、全然考えてない。

こんな状態で本当に交渉が出来るのか。

由佳さんが隣に座っててくれてるのが唯一の救いだ。

私は、1人じゃ何も出来ない。

誰かの手伝いをする事位でしか、役には立てない。

何をしようにも、誰かについて貰わないと。

モニターに男の人が映る。


「貴女が有村華音さん、でしょうか?」

「よ、宜しくお願いします」

「何か用があるとしか伺っていませんが」

「今、黒の御使いが警視庁を襲撃してます」

「知ってますよ。それが計画でしたから」

「貴方に、それを止めて欲しいんです」

「それは出来ない相談ですよ。我々はその為に動いた。そしてその過程で今の状況になる事を承諾したんですから」

「……私は」


 本当は相瀬さんに伝える事が出来たら良かった。

無意識の内に下がった目線をモニターに向ける。

どんな選択肢も選べないなら、選ばなければ良い。


「殺人を犯すって言う選択肢が浮かばなくなる世界を望んでます」

「はは! 何を言いだすのかと思えば」

「殺意は生まれてしまえば消せません。それならもう、生まれた殺意が犯罪を犯さないように。目の前の犯罪を解決するしか無いんです」

「それが仮に実現するとしても、私が協力する事は考えられない。それを分からずにこのような場を設けたんですか?」


 こんな方法じゃダメだ。

どうしたら良い?

こんな時、兄さんと翔太さんだったら……。

考える。

2人ならきっと原点に戻る筈。

「どうしました? 何も言い返せないんですか?」

 黒の御使いは、ある人物を殺害する事を目的に作られた組織。

組織の人物は、ネット記事によって晒された人と晒した人。

大金と名誉、全てを奪い、戻る道を塞いでしまう。

……要は戻る場所が無い。

それなら。

はったりでどこまで出来るか分からないけど。

後で倉田さんに頼んでみよう。


「貴方には、家族がいらっしゃいますか?」

「もう戻れないのだから、意味は無いでしょう」

「いらっしゃるんですね」

「いたらどうなるんですか」

「ご家族の方が、貴方に会いたくないって思ってると思いますか?」

「会う事は許されない」

「人の縁は、絶対に消せません。戻れないって言うのは、ただ逃げてるだけだって。私は学びました。戻れないんじゃありません。戻るのを怖がらないで下さい!」

「それで全てが上手く行くとは思えない」

「例え面会出来なくても、手紙でのやり取りがあるだけでも変わると思います」

「取引材料はそれか?」


 口調が僅かだけど鋭くなった。

口調の変化がどうなるのかは分からないけど、興味が湧いた、或いは揺らいでる?

こっちにとってはプラスだと思っておく。


「私達の目的は犯罪を無くす事です。その中で私が出した答えが、目の前の犯罪をどうにかするって事なんです。だからこれは取引じゃないです。私にとっての共存です」

「取引ではないか」

「違います。私はこれで、損も得もしませんから。犯罪が無くなれば。目の前の犯罪をどうにかしたい。ただその願いだけです」

「その思いが叶えば、取引になるのでは?」

「平和になる為の行動が損得だなんて言わせません」

「……」


 今度は画面の向こうの相手が黙る。

だけど、無駄な追及はしたくなかった。

痛みを痛い程に知ってるから。

話して話して無理矢理こじ開けるか、黙って開くのを待つか。

私は後者を選びたい。



「何?」

 皇は翔太君に視線を向ける。

翔太君が思わず言いたくなったのは当たり前だろう。

「寝惚けた事言ってんじゃねーって言ったんだよクソガキ」

死んだ人はどんなに大切な人でも生き返らない。

だから何も出来なかった無力な自分を何とかしたくて。

翔太君はここまで来た。

皇のやっている事は、翔太君の生き方を根本から否定する生き方だから。

「貴様がどう思おうが関係無い」

 皇が胸倉を掴む手を強くしたらしく、藤堂の呻き声が聞こえる。

「関係無くてもてめーは死人を生き返らせてしか自分の心の闇を何も出来ねー屑だって事だ!」

「さあ。早く官野帝を蘇らせろ。お前がやってこそ意味があるんだよ。蘇ったら確実に貴様を殺すだろうな? そして私が官野帝を殺してやる。それで憎しみは綺麗さっぱり全て終わる」

 ……。

皇の殺人教唆のやり方を思い出す。

雷鳥峠の事件では、過去に犯罪を犯した人物に、その始末をさせるやり方だった事を思い出す。

考え方は破綻していないけれど、子供じみている事に変わりはない。

何より、この世の人の全てを否定している。

けれど、どんなに願った所で、絶対にかなわない願いだと言う事が分からないのか。

或いはそう願うしかもう方法が無いのか。

どちらか分からないけれど、少しだけ複雑な気持ちになる。

「叶わない願いを勝手に他人に押し付けんじゃねーよ!」

「それ以上喋るなら、遠慮無く打つわよ?」

 阿武隈川は、拳銃を翔太君にロックする。

私は視線を、壊れた扉の方に向ける。

この状況を打破したい。

人並み以上に運動はしているけれど、拳銃相手に何かが出来るとは思えない。

だから願う。

早く目を覚ましてと。

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