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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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憎しみが消える法則

 膠着状態が、一体どれ程続いただろうか。

銃声は時折聞こえる程度だが、潜んでいるだけと言う事が明らかに分かる状況。

この台風が過ぎ去らないと、外部からの応援は絶望的。

頭の中で何度も整理してしまっている事が、私自身の余裕の無さを物語っている。

何か無いか。

この状況を一瞬で有利にしてしまうような強烈な策は。

皇桜花はここにいない可能性が非常に高い。

尚且つ、代わりにここで指揮を執っているようなリーダーらしき人物もいない事から、最初の目的に忠実に従っていると推察する。

この状況で、奴等より優位に立つ為の策。

最前線で踏ん張ってくれている警官の為にも。

はやる気持ちを、強制的に深呼吸して落ち着ける。

リーダーらしき人物がいない証拠は、思えばどこにも無い。

ほぼ確定している事と言えば、皇桜花がこの場所にいないと言う事実だけ。

応戦の体勢が整った今なら、交渉の余地がある。

いや、交渉は表向きで、問いかけによってリーダーを炙り出す。

そのリーダーがもしいなければ。

1つの作戦を思い付く。

だが、恐らく別の警官がそれを行ったとして。

偽装だとばれてしまえば襲撃は激化するだろう。

外部の人物との連携が必要になる。

そして恐らく現段階でそれを行える人物は1人だけ。

警官の尽力のお陰で庁内の指令センターは制圧されていない。

……この作戦に賭けよう。



 華音ちゃんのスマホが鳴る。

状況が状況だけに緊張が走るけど、ここで冷静さを欠いたらダメな事はさっき嫌程学習した。

あたしは無言で華音ちゃんに頷く。

画面に表示された『倉田拓也』の文字に安堵し、華音ちゃんが電話を取る。

情報が欲しいから拡声ボタンを押してもらう。

『華音君か? 大至急頼みたい事があるんだが、引き受けて欲しい』

「私にですか?」

 電話の奥から微かに聞こえる銃声。

外からの様子しか伺えないけど、想像するのも嫌な状況だろう推測しか出来ない。

「私よりは、由佳さんとかの方が良いんじゃないですか?」

『いや、君にしか出来ない事なんだ。良く聞いてくれ。今から私は黒の御使いに交渉を持ちかける。だが目的は交渉ではない。警視庁内での暴動を仕切るリーダーがいるかどうかを炙り出す為だ。私はいないと考えている』

 どう言う事だろう。

リーダーがいないって倉田さんが考えてるのに、交渉をリーダーに持ち掛ける?

「詳しくお願いします」

『リーダーがいるならそれで良い。だが、リーダーがいない場合の為に華音君には動いて欲しいんだ』

 リーダーがいない場合?

リーダーがいないんだったら、他の所からリーダーが指令を……あ。

「警官の連続殺人の時に捕まった黒の御使いの仲間に、リーダーを装って退くように説得して欲しいって事ですか」

『そうだ。台風の大雨がいつ過ぎるかは分からないが、こちらはとりあえずは私が動けるような状態になっている。仕掛けるなら今しか無いと思っている』

 華音ちゃんは微動だにせず、ただ虚空を眺めてる。

期待と不安なのかなと漠然と思った。

「そんな犯罪者に、私が会って良いんですか?」

『交渉人としてのテストだ』

「え……」

 倉田さんらしくない支離滅裂な発言だけど、それだけ状況が圧してるって事かもしれない。

第一、翔太達が中でどうなってるかさえ分からない。

優子さんが立ち上がって、建物の入った所までは……。

モニターを見て頭が真っ白になる。

皇桜花がいつの間にかモニターから消えてる。

……。

一刻も早い決断が必要かもしれない。

倉田さんに状況を伝える。

『華音君』

 華音ちゃんは胸元に手をあてる。

華音ちゃんを急かしたい気持ちを懸命に堪え、静かに待つ。

「この天候で今からそこには向かえませんよね」

『テレビ電話を繋ごう。実際に対面するケースは多くは無い。より実践的だろう?』

 華音ちゃんは短く笑う。

「出来なくても文句は言わないで下さい」



 蘇らせろ?

こいつは本当にそれを言ったのか。

何を言ってるんだと言う疑問で頭が固まる。


「そ、そんな事出来る訳が無いだろ!」

「出来ない? やれと言ってる。お前に拒否権は無い」

「第一、私が冤罪を持ちかけた証拠なんてどこにも無いだろ! それこそ冤罪だ! ああそうか。お前も何かを吹き込まれたんだな? そんな事件を私は知らない!」

「貴様の心臓か脳天を吹っ飛ばす前に要求を呑め」


 皇桜花が放った銃弾。

藤堂の右手中指が吹っ飛ぶのが確かに見えてしまう。

「ああああああああああ!」

「貴様が官野帝を蘇らせる。そして貴様と官野を殺す」

 官野を殺す?

……。

こいつの言葉を思い出す。

確か姉ちゃんが言ってた。

憎しみは受け継がれない……みたいな感じだっただろうか。

「貴女……まさか」

 パニックに陥ってる藤堂に拳銃を押し付け、胸倉を掴む皇桜花。

「他人をいくら殺したところで私の心の闇は消えなかった」

 絞り出すような声に、根拠の無い威圧を覚える。

「だったらもう本人を殺して晴らすしかねーだろああ分かってんのかてめーはどんだけの不条理を押し付けられたか孤児院にいた適当な人間を拾ってただ憎悪と憎しみを背負わされて最後に自殺されてこの世に憎しみだけ残された奴の気持ちが毎日殺したい殺したいって思ってた奴に自殺された気持ちが元を正せば原因はてめーだろだがてめーを殺したってこの憎しみがどうにもならねーのは分かってんだよだから譲歩して甦らせろって言ってんだよ分かるよなああ?」

 肩で息をしてる皇は、ただ怯えるだけの藤堂を壁に叩きつける。

「意思を持った憎しみってのは、本人を殺さねーと晴れねえんだよ。原因を作ったのは貴様だ。分かるよな後は?」

 殺したくても殺せない人物。

誰かを殺す事が目的の黒の御使い。

すぐに殺さない理由。

やっと分かった。

皇桜花は、無い物をねだる子供だって事が。

そんな事を実現する為だけに。

大勢の命と人生を奪った、どうしようもない屑だって事。

「犯罪を犯しても何も残らないのではない。汚れた器を洗い、新たなもので満たす行為と同じだ。憑き物が落ちる感覚と達成感。その後の事に苛まれる位なら最初から犯罪を犯す度胸も資格も無い。ただそれだけだ」

 由佳がこいつを引っ叩いた理由が良く分かる。

聞き分けの無い子供を叱りつける感覚……とは随分違うかもしれない。

「この世の善悪など、所詮人間が決めたものに過ぎん。そこに必ず綻びがあり、それを利用して生きている奴がいる。これが世界だ。何を信用できる? それでも信じさせる何かなど、この世には存在し得ない」

 俺は心底吐き捨てるように言う。


 クソガキ。

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