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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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昔を今

「それで、何が知りたいんですか?」

「どうしたら貴女が持ってた殺意が無くなったと思いますか?」

「冗談言わないで下さい」

「冗談じゃありません。私は本気で聞いてます」

「消える訳無いです。失ったものは絶対に無くなりませんから」

「それは、消えないって思ってるからです。消す方法を考えれば、絶対に方法は見つかります。そして考える事が出来るのは、私や貴女みたいな経験をした人にしか分からないと思います」

「見つからなかったら?」

「見つけます。諦めません」

「それなら、貴女はどんな方法でなら殺意を消せるって考えてるんですか?」

「……」


 あの時、私は答えを返す事が出来なかった。

代わりのものを探す?

理性で殺意を殺しきる?

そんな答えを何より私自身が望んでない。

それなら、どうすれば殺意を起こさずに、殺人なんて最悪な結末を回避する事が出来たんだろう。

やり直しの利かない人生は無い?

ダメだ……。

こんな当たり前すぎる答えしか、殺人者の心理を目の当たりにしてさえ浮かばない。

雨の中、倒れてる優子さんと皇桜花を見て拳を握りながら、願いながら考える。

それでも、希望を求める事が出来ただろうか。

殺意が完全に意思を持ってしまった後で。

寄り添う?

違う。

私は聖母でも無ければ、女神でもない。

何も出来ない1人の人間でしかない。

そんな我儘ばっかりの考え方で、答えなんて出る訳が無い?

……そんな事は無い。

「華音ちゃん?」

 ハッとして頭を振る。

優子さんが起き上がる映像が見える。

……良かった。

黒の御使いは、これでほぼ捕まえる事が出来るだろう。

……。

答えを出せないでいるのは。

私に意思が無いから。

兄さんみたいな犯罪者を、これ以上出したくない。

もう、その気持ちだけは終わらせないと。



 焦燥し切った優子を見て安心する。

阿武隈川愛子は意にも介さず、拳銃さえ構えない事が気になったけれど、今は兎に角優子の元に駆け寄る事が先決だろう。

立ち上がり、私と翔太君が駆け寄ろうとした時だった。

「うあ!」

扉ごと優子が吹き飛ばされる。

立ち止まった為に二次被害は免れたけれど。

そこに立っていたのは皇桜花だった。

阿武隈川は黙って皇に銃を投げ渡す。

「保険を掛けて良かったわね」

 すかさず皇は阿武隈川に向かって発砲する。

乾いた銃声。

窓ガラスが割れた為か、外の音がよく聞こえる状況になる。

阿武隈川は意に介した様子も無く肩をすくめる。

「そんなもので怯むようなら、組織には所属して無いんじゃないかしら?」

「黙って見張れ」

 私達は部屋の隅へと、予備の拳銃を構えた阿武隈川に追いやられる。

「う……あ……」

 タイミングの悪い時に老人が目覚めてしまう。

あれだけの音が立て続けに起きればそうなのかもしれないけれど。

そんな因果は今は無視して欲しかった。

「最高の時間の前の休憩はどうだったかな? 藤堂九十郎? それとも、元警察庁長官って呼んだ方が良いのかな?」

 老人。

藤堂は明らかに怯えている様子だった。

「な、何故官野帝の名前を知っている?」

「どいつもこいつも状況を分かろうとしないんだね。この状況で何故かって情報、必要なのかな?」

「言え! お前は何者だ!」

「まあ良いや。今から50年位前かな? 海岸に打ち上げられた10人の死体。同じ所が切り取られた事実から、同一犯の連続殺人事件と認定された」

 昔の事件?

優子に調べて貰った中に、そんな事件は存在していなかった筈。

……隠された事件と言う事だろうか。

「今の時代、そのレベルの大事件ならネットで調べれば出るよね? けど、それが無い。だけど反応を見れば分かるよね? 実際にあったんだよね?」

 藤堂は恐怖なのか何なのか、一言も話そうとしない。

「犯人はついに見つからなかったけど、未解決事件として犯人が見つからないのは警察の威信に関わる。だから犯人を仕立てる必要があった」

「止めろ……」

「事件の前の日にその場にいた。それだけの理由で逮捕され、冤罪を掛けられた人物が1人いた」

「止めてくれ……」

「だけど、証拠不十分で逮捕する事は不可能だった。けど、表向きは殺人犯にしなければならなかった。だからその人物に特別な処遇を命じた」

「止めろと言ってるだろ!」

 藤堂の怒鳴りと銃声が同時に木霊する。

弾は藤堂のこめかみを掠め、壁にめり込む。

「一定額の補助と住居、食料を提供する代わりに、隔絶された場所での生活を行う」

「その人物の名前は、官野帝。その事件を担当してたのは、誰だったのかな?」

 皇が藤堂を見ていると言う事は、そう言う事なのだろう。

こんな事をわざわざ話す必要は無い。

藤堂に確かな恐怖を与え、心理的にとことんまで追い詰める事が狙いだろうか。

「も、目的は何だ?」

 皇は藤堂の胸倉を乱暴に掴み、冷たく言い放つ声が、大雨の音の中確かに響く。

「官野帝を蘇らせろ」

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