嵐の死闘2
部屋に入った時には既に老人は両手に手錠をかけられ、ソファに座らされた状態だった。
俺達に拳銃を向けてるのは。
前にも一度出会った女。
阿武隈川愛子。
「動かないで頂戴」
引き金に指をかけ、すぐにでも発砲できる状態。
「正直、ここまでとは思っていなかったわ。私自身は、だけど」
誉め言葉だろうけど、そんな事はどうでも良い。
外では豪雨の中、姉ちゃんが戦ってる。
その前にこの状況を何とか出来ないか考える。
「本当はエージェントが1人で来る筈だったけど、何故か保険をかけて来た。珍しくね。その意味が分かったわ」
「その御老人を開放して頂けないかしら?」
「無理な相談ね。それが分からない訳では無いでしょう?」
老人は蹲ってて動く様子が無い……。
「安心して頂戴。少しの間眠ってて貰ってるだけ。用があるのに、殺す訳が無いでしょう?」
どう言う事だ。
この老人を殺害する事が目的じゃないのか。
考えてみればおかしい。
俺達が到着した時には、既に前の席にいた2人が殺害された状態。
老人の殺害が目的なら、そこで殺害してしまえば良い。
「外の戦いが終わるまで、昔話でもどうかしら?」
時間稼ぎの手には乗らない。
言った瞬間に発砲され、頬が切れた事を察する。
「翔太君!」
すかさず楓が止血を施してくれる。
「この状況を打開する為には、吉野優子が勝つ。或いはPCPが警察に応援を頼んで、ここに駆け付ける事が最低条件よね」
まさか、そこまで読んで?
今までの警察との協力は、全て拓さんを通じて行ってた。
けど、拓さんが今動く事は不可能。
……俺達の内情をそこまで詳しく把握してたなら、リスクを冒して警視庁を襲撃した理由も頷ける。
尚且つ、最小限のリスクに抑える為に台風の時を選んだって事か。
「そう言う事。吉野優子さえ何とかしてしまえば、貴方達は然程脅威ではない。犯罪は、先手を打てる最大のメリットがある。それをこの短時間で追いついた事は褒めるけど、こちらの勝利条件を上回る事は不可能」
撃鉄を起こし、再び俺に拳銃を向ける。
「だから貴方達に駒が無い限り、私の指示に従うしか無いの。次は当てるわ」
阿武隈川はソファに座る。
俺は座るのを拒否する。
諦める訳にはいかなかったから。
隙を伺って拳銃を奪う。
「ご自身の病院で、何の研究をしていたのかしら?」
表情が少しだけ動いたのを見逃さない。
「地下室を調べたのかしら? それで? 何か見つかったかしら?」
人が入れるカプセル。
人に気付かれない場所に作られた入り口。
そこから示される事実……。
「その先は分かっていないのね」
「例えば、死んだ人間を生き返らせる為の装置だったら面白いわね」
「そんな装置、この世にある訳無いわ。けど、限り無く正解に近いのは皮肉ね」
限り無く正解に?
「貴女は何故黒の御使いに所属しているのかしら?」
「帰る場所が無くなったから。簡単よ」
写真を見る限りだと、あの廃墟の病院は、明らかに外部からの襲撃を受けた形跡があった。
スネーク……って事か。
どうしてそんな襲撃を受けたのかは分からないけど、これで黒の御使いの構成員がどんな人物で出来てるのかは確定する。
「松本大河と行動を共にしている事から察するに、その襲撃には松本大河も関わっていた。違うかしら?」
「関わっていた?」
表情が明らかな殺意に満ちるのを感じる。
「あの男は、この世で一番不幸にしたい男。それだけ」
かちゃ。
振り向く。
扉がゆっくりと開く。
「終わったみたいね。エージェント」
「下らない事だと?」
思わず出た言葉と共に繰り出したストレートが皇にクリーンヒットするも、カウンターでこちらも一撃貰う。
「それはお前の基準での話だ。誰がどう思おうが関係は無い」
スピードを更に増した拳のラッシュを防ぎながらも、どうしてと言う気持ちが沸き起こる。
もしあたしの周りにいたなら。
そんな気持ちが抑えきれない。
「ならここで倒せば良いだけだ!」
初めて声に怒気が籠った。
拳を足で受け止め、逆足で見舞った蹴りを躱される。
繰り出される拳を回転して受け止め、その手を掴みながら体勢を立て直す。
「お喋りは終わりだ。お前と私はここで殺し合っている。それだけが事実だ」
距離を取り、目を閉じる。
こんな喜びがあるんなら。
止めなければ良かったと、少しだけ思う。
目を開き、現実を見る。
倒す!
放った拳からは確かな感触。
だけど、あたしももろに喰らう。
同時に崩れ、倒れる。
けど、意識を失う訳にはいかない。
翔太達が入ってく前に、別荘に入ってった女がいた筈だから。
ここであたしが意識を失うって事は。
翔太達が死ぬ事とほぼイコール。
何とか立ち上がり、あたしは別荘に向かう。