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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪3 黒の天使地に舞い降る
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地獄

 目を覚ます。

事件解決から、常に私達は交代でモニターでの監視を続けているけれど、黒の御使いの動きは全く追えていない。

他に出来る事が無いかを考えるけれど、答えが何も浮かばない。

緊急事態と言う事もあり、現在は企業の方の依頼は断らせて頂いている。

シャワーを浴びながら、それでも諦めないで考える。

財閥のコネを使えば、皇桜花らの消息を追う事は可能かもしれないけれど、気付かれてしまえば間違い無く殺害されるだろう。

後手に回ってしまっているのは、リスクを背負わないで何かを実行しようとしているから。

分かっているけれど、実行に移す事は出来ない。

あれだけの監視システムでも捉えられないなんて思っていなかった事もある。

たかを括っていたのかもしれないと反省する。

バスルームを出て、スマホを確認すると、翔太君からのメッセージが届いていた。

黒の御使いの殺害したい人物の当てをつけた。

内容はざっとそんな感じだったけれど、その事務的な連絡に、喜びと残念な気持ちが渦を巻く。

思えば、PCPが発足してから、翔太君の顔を見る回数は極端に減っていた。

勿論状況が状況と言うのもあるけれど、自分で気付かない訳が無かった。

意識的に、顔を見る事を避けている。

叶わない夢と、自分で叶えた夢。

世の中が思い通りに行かない事を痛感した。

けれど、大切な友人である事に変わりはない。

翔太君も、勿論由佳ちゃんも。

……。

頭を振り、着替えて部屋を後にする。

そんな事を考えている場合ではない。



『現在、非常に強力な台風14号が日本に上陸……きゃ!』

『長谷川さん! 大丈夫ですか!? ……以上、現場からの中継でした。尚、この強力な台風は日本列島を横断する可能性が非常に高いので、皆さんもご注意下さい』

 皇桜花は、映像を見て笑顔を隠そうともしていない。

「もうすぐ、だね」

 すかさず桜花はスマホを取り、電話を掛ける。

「もう、後は実行するだけかな?」

『ええ』

 電話の向こうの女性は、ただ短く返事をする。

楽しそうに頷き、電話を切ると、机上のPCを、異常とも言える速さで操作していく。

画面に表示されたのは、とある男性の顔写真と地図だ。

桜花は地図を拡大する。

赤く点滅したポイントが5か所。

「候補は5か所……」

 そのポイント1つ1つを、何故か桜花は指で軽く叩く。

「1は無い。2は場所を知ってる者がいる。4も……時期を考えたら無理。3か5だね。多分近い3が妥当だけど、5から行けば途中で鉢合わせられそうだね」

 くすくす笑い、PCを閉じる。

この間、僅か3分と言う速さでやってのける桜花は、意にも介さず、素早く手荷物を纏め、ホテルの1室から出て行った。

出て行く際に、窓に一粒の雨が当たった。



 凄まじい程の豪雨を、部屋の外から眺める。

翔太君の連絡を受け、該当する人物を調べたが、勿論そんな人物がいる訳が無い。

ある程度の階級にならないと伝えられない情報の可能性もあるが、その可能性を私自身が追うには時間が掛かるだろう。

交代で見張りをしている刑事の様子を見にやって来たが、表情からは疲労の色が伺える。

無理も無い。

警官が大量に殺害され、その上で敷いた厳戒態勢。

そして3週間がたった今尚何も起こらないとなっては、それも当然だろう。

だが、ある程度の消耗戦を覚悟しなければ、奴らを捕まえる事は不可能になってしまう。

しかし、そんな時期に台風上陸とは、不吉な予感が脳裏を過る。

何も起こらなければ良いが……。



 だが、それはもう起こってしまった。

窓ガラスが割れる音と同時に投げ入れたと思われるビニール袋。

倉田が表情を変えた時には、もう遅かった。

大量の煙と同時に、再び投げ入れられたのは恐らく発煙筒だろう。

視界が確保出来る訳も無かった。



 モニターの異変に直ぐに気付く。

警視庁すぐ前の建物から、軍服の人達が大量に出て来る姿。

「何だ、こいつら……まさか!」

 翔太が立ち上がる。

そこに入って来る楓さん。

「どうしたのかしら?」

 次にモニターに映った映像は、想像を絶するものだった。



 警視庁、入り口前。

大雨は衰える所か勢いを増していた。

軍服の人物がざっと500人はいるだろうか。

無人の中、迷い無く警視庁目指して歩いて来る姿は、戦争開始そのもの。

入り口を固めていた警官が不審に思うのは当然だろう。

だが、警官がこちらを見るのと同時に、1人がビニール袋ごと入り口に向かって何かを投げると、それは轟音と共に爆発した。

轟音を皮切りに、軍服の人物らは大声をあげて走って行く。



 前の事件で使われた地下道……。

考えが及ばなかった。

見落とした部分が無い?

拳を握る。

直ぐにでも出て行きたい気持ちを堪える。

今から行っても俺には何も出来ないだろう。

「翔太さん! SNSの書き込み見ましたか!?」

 入って来た華音ちゃんが、すかさず俺に見せる書き込み。


 黒の天使が、今から地に舞い降りる。



 警視庁前通り。

道路の水溜りが徐々に広がり始めていた。

そんな中、何台ものトラックが通りを走り、道路を塞ぐ形で横に停車する。

運転席や荷台からも軍服の人物らが素早く降り、ブロックでトラックの隙間を埋めていく。

ここまでの時間、僅か5分での出来事だった。

こうして通路は封鎖された。

台風の中、ヘリも迂闊に飛ぶ事は出来ない。

警視庁は、巨大な密室へと変わってしまった。



 まさか台風を利用して計画を実行に移すなんて思わなかった。

思えば、秀介が実行した時だって台風を計算に入れた上での犯行。

立ち上がり、現場に向かおうとした矢先、スマホが鳴る。

『翔太君か!?』

 倉田さん。

取り合えず生きてるみたいで助かった。

中の状況を出来る限り聞く。

『……地獄そのものだ』

 ……。

何て奴等だ……。

厳戒態勢の上から警察に堂々と仕掛けるなんて。

モニターを見る。

建物内は煙なのか分からないけど、白いものが立ち込めており、時折爆弾らしきものの爆発が見える。

『外の状況は分かるか?』

 建物回りの通路が全てトラックで塞がれている事を伝える。

『……分かった。我々は今応戦中だが、いつまで持ちこたえられるかは何とも言えない。後でまたかける』

 ……人質にする事は奴等も無理と考えたんだろう。

だとしたら、どこまで持ちこたえられるか……。

頭を振る。

無事を祈り、110番通報を済ませる。

俺に出来る事。

道路が塞がれた以上、あの場所に入る事は不可能。

この天候で、ヘリも飛ばせないだろう。

……おかしい事に気付く。

皇桜花はこの状況でどうするつもりなのか。

警視庁を襲撃したって事は、そこに殺害したい人物がいるって事。

でも、もしいなかったら?

空振りに終わったらこの計画は全てが無駄になるだけだ。

「確かにそうね……」

「予め予定を調べておいたんじゃないですか?」

 可能性はあるけど、今は警視庁内部での攻防が行われてる。

そんな中、傷を全く負わず、尚且つ誰にも知られずに目的の人物まで辿り着ける可能性は高くは無いと思う。

現に、倉田さんには顔が割れてる。

「って事は翔太。囮……って事?」

 信じられないような仮説だけど、警察に追われるリスクが極端に少なくなるリターンはある。

「そう考えるのであれば、皇桜花をモニターで補足できるかどうかね」

 と言うか、その可能性しか俺達は追えない。

仮にあの場に皇桜花がいる可能性だってある。

結果的に何も出来なかったとしても、何もしないよりはましだと思い込む。

楓はスマホを仕舞う。

「優子には連絡したわ。私達はもう移動しながら探すしか無いわ」

 仕事が早くて助かる。

「あたし達はここに残ってモニターするわ」

「はい。由佳さん」

 急いで拠点を出る際に、PC画面を見た由佳の表情が、一瞬だけ驚きに見えたのは気のせいだろうか。

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