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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪2 文字を愛した少女
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犯罪者を知り、犯罪を止める

「吉野様、森田です」

 ビルを降りた矢先、森田さんからの電話。

「現在は私がPCP拠点から代理でご連絡させて頂いております」

 いつ覚えたのか。

森田さんの技量の高さに舌を巻く。

「そこからそう遠くない場所のビルですが、先程清掃員が人が倒れてると言う事で連絡を頂いたようです」

 時刻は13時過ぎ……やられた。

0時10分だけじゃなく、12時10分もそれに含まれるって事。

犯人を捕捉出来てるか。そこが重要。

建物内に入ってくれればそれで良い。

「時間を遡り、なるべく早くご連絡差し上げます」

 現場に急ぐ。

2人の刑事も事態を察してくれたようだ。


 イヤホンを装着し、拓さんに飛び降り事件についての連絡を入れる。

俺がいたビルから、現場まで車で10分と掛からない。

ビルに入り、階段を駆け上がる。

震えてる清掃員らしき男性。

部屋を見て驚愕する。

壁が全面赤。

そこに書いてある大量の『死ね』の文字。

テーブルに置かれたマイク。

倒れてる男性は、胸を抑えた状態で、部屋の奥で絶命してるのを予感した。



 緊張しない訳が無かった。

刑務所の中の人に案内され、向かう先には。

兄さんみたいな心の闇を持った人が待ってるから。

倉田さんは急用が入ってしまったらしく、今は私1人しかいない。

逃げ出しても良いんじゃないかって気持ちが直ぐに湧いて来る。

でも、もう逃げない。

そう決めたからって言うのもあるけど。

私自身が知りたい。

兄さんの気持ちを。

例え手紙越しでしか知れなかったとしても。

犯罪者の気持ちを知る事で。

分かるようになるかもしれない。

でも。

犯罪はやっぱりいけない事だと思うから。

理解した上で止めたい。

抜け殻ではもういたくなかった。

重い扉が大きな音を立てて開き、その人はそこにいた。

美園渉さん。

夢幻城での不可能犯罪。

水消失。

2つで1つの不可能犯罪を計画し、実行した人物。

一気に心音が聞こえて来るのが分かる。

緊張感が物凄い中、私は辛うじて宜しくお願いしますと言うと、美園さんも返してくれた。

「有村華音さん、で良いんですよね」

 私はぎこちなく頷く。

「倉田警視も一緒だと伺っていましたが」

 私は今の状況、倉田さんが急用で離席した事を告げる。

美園さんはなるほどと納得してくれたようだった。

「黒の御使い……。 そんな事になっているんですね。それは仕方が無い」

 私は深呼吸をする。

「それで? 今日は私に聞きたい事があると伺いましたが?」

 座る事も忘れてた事にハッとして、慌てて座る。


「私の兄さんも、美園さんと同じように犯罪を犯して自殺しました」

「……だから有村さんを連れて来たと言う事ですか。納得しました」

「失礼な事をお伺いする事をお許し下さい。どうして殺害を決意したんですか?」

「僕は、事故に見せかけて恋人を殺されました。それに気付いたのが上司を殺害されたのがきっかけなんです。恋人は渡瀬未來って言うのですが、未來が死んで。それなのに僕は絶望しただけで。真実を知った上司が殺害されるまで気付けなかったんです。だから殺害を決意しました。このままだと。殺された未來と上司に申し訳が立たなかった」

「兄さんも同じです。私は2年前まで植物状態で動けなかったんです。そのきっかけが飲酒運転の事故だったんです。両親は亡くなって、兄さん1人が生き残りました」

「なるほど? 僕とお兄さんを、どこかに重ねてるんですね」

「……はい」

「泣かないで下さい。そんな風に僕を見て頂く事は久しいので、嬉しいんですよ」

「すみません。勿論兄の心の闇を知ってれば。その気持ちはありました。ですが私はもう1つ目的を持ってここに来ました」

「と言いますと?」

「犯罪はしてはいけないと思っています。ですが私は犯罪者を憎む事は間違ってると思っています。だから救いたいんです。今から始まるだろう大事件を防ぐ為に、私に出来る事があると思ったんです」

「なるほど……」


 美園さんは真剣に私の話を聞いてくれた。

どこか納得してくれたような表情だと思いたい。

「吉野君は本当に凄い。多分桜庭さんと鮎川さんも傍にいるんですよね」

 由佳さんとインテリビッチさんも知ってる事に驚きは無い。

あの人達は本当に凄いから。

「吉野君は、今もどちらかの女性を選べていないのですか?」

 そんな事まで知ってるのかとビックリする。

美園さんは笑う。

「まあ、見ていれば分かりますよ」

 翔太さんが由佳さんと恋人になってる事を言うと、美園さんは再び頷く。

「それは良かった」

 談笑の後の静けさは、どうすれば良いのか分からなくなる。

「近況を知れて嬉しいです。お礼と言っては差し出がましいですが、何でも質問して頂いて構いません」

 変な事を言ってないみたいで良かった。

考える。

何しろ、倉田さん先導で来てくれるって思ってたから自分で何も準備してなかったのだ。

お貰い根性をまだ直せてない事に恥じるけど、今考えれば良いだけだ。

少しずつで良い。

前に進めば良いだけだ。

「焦らなくて大丈夫ですよ」

 ありがとうございます。

……。

これだろう。

今の私に出来る精一杯の質問。


 美園さんならどんな事があったら犯罪を躊躇いましたか?

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