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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪2 文字を愛した少女
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特殊な角度

 あたしは倉田さんに簡単な使い方を説明する。

倉田さんは自宅でPCを使ってる事もあり、スムーズに済んだ。

だけどそれが目的じゃないのは皆が分かってる。

楓さんがあれだけ焦ってるように見えたのは。

もうそこまで来ちゃってる可能性が高いから。

捜査に必要な機械をあたしと華音ちゃんも手伝って3人で運び、本格的な指令室が出来上がる。

「こちら警視庁の倉田。たった今PCPに緊急特別指令本部が完成。以後、警官連続殺人事件の指揮はこちらで執る。繰り返す」

 警部だった頃から知ってるけど、こうして見ると凄味がある。

凄い人と知り合いなんだなーと場違いな感想が漏れる。

「さて……メディアやネットでもかなり話題になっている。警官の見回り人数を複数にした事でとりあえず対策を講じたが……」

「黒の御使いを追うか、目の前の事件を解決するのか、ですよね」

「それらは翔太君と桜庭君らも動いている。我々は別の情報を手分けして調べる。まだ分からない謎があったのは覚えているかな?」

 あたし達は頷く。

チンピラの争い激化の事だろう。

血の付いた免許証も気になるけど、組織ぐるみって言う共通点が気になる。

「さっきの翔太君の考察を考えれば、この事件にどう関わっているのかを突き止められれば。起ころうとしている大犯罪の尻尾を掴むきっかけにはなるだろう」

 確かにその方が効率が良い。

孤立した所を狙われる危険はあるけど、状況が状況だ。

「と言う訳だ。鮎川君は今から柳生弦さんの所に行って来て貰えるかな?」

 ……え?

「チンピラの話は彼に話を詳しく聞いた方が良いだろう。そして、今ここにいる3人で会いに行けるのは鮎川君だけだ。警官は現状動かす事が出来ない。桜庭君のSPをつけよう」

 ある意味、一番怖い思いをするのもあたしな気がする。

「ああ。心配しなくて良い。翔太君との事はもう話してある」

 ……。

「じゃあ、私はここでモニターを」

「いや、華音君は今から私と面会巡りだ」

 ああ。

良く分かんなくなって来たけど腹を括ろう。

女は度胸だ。



 2人の刑事さんと車で到着した場所は、8階建ての廃ビルだった。

人通りもまるで無い。

近くにこんな場所がある事に驚くと同時に、黒の御使いがいかに地理関係を把握してるかが伺える。

「死亡したのは富田博美29歳。このビルの4階から転落したものと思われます」

 カン、カンと音を立てながら登って行く刑事さんの後ろ姿は、どこか寂しげだった。

「先輩刑事だったんです。色々と教えて下さって。尊敬していました。自殺するなんて思えなかった。それに、亡くなった日は富田さんの誕生日だったんです」

 やっぱり刑事。

これで殺害予告を送って来た人物とこの事件の犯人が繋がった。

一刻も早く、事件を防がないとまずい。

案内された現場はそのままの状態になってるとの事だ。

揃えられた靴と遺書。

これだったら確かに自殺する為にここに来た。

そして遺書を残して飛び降りたって考えるのが自然。

けど、多分そうじゃない。

「スマホのログは現在調査中ですが、現状はこれと言って不審な点が見つかりません」

 さっきの刑事さんの言葉を思い出す。

責任感が強く、真面目だったんだろう。

自殺以外の理由でここに来る事はまず無いだろう。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

無理な理由ではなく、可能になる方法を。

頭を切り替える。

どんな理由ならここに来るか。

脅迫?

遺書の中を確認する。

仕事に疲れたと言った内容。

それでふらっとここに来て、飛び降りた。

最近解決した、執拗なパワハラを受けてた男性社員も、下手したらこうしたのかもしれない。

だけどこれは違う。

尊敬されるような人物が、自発的に動いてないとは考えられない。

違和感がどこかに無いか。

それならと、交友関係を聞いてみる。

「詳しくは知らないですが、休憩中は良くスマホを見ていました」

 スマホならチャットログを追う事が出来れば何とかなるか。

……いや、違う。

そうだ。

これから自殺する人間が。

どうして4階から飛び降りる?

窓がついて無いって言っても、仕事に疲れて自殺するような人間が、ビルの窓の状態を調べるのはおかしい。

4階なんて中途半端な階層で遺書を残して飛び降りる?

考えれば考えるほどおかしい。

ここは偽装された現場の可能性が高い。

「確かに……何故屋上へ行かなかったのでしょう」

 確かめる為に屋上へ上がる。

屋上である8階は手すりが無く、景色が見渡せるようになってる。

そして遺書が置いてあったその真上と思われる場所。

そこから見た景色に、全ての理由を悟る。

「何て事だ……」


HAPPY BIRTHDAY


 確かにその文字が遠くの建築物に見えたのだ。

4階から見た時は何の変哲も無いただの建物だった筈なのに。

屋上から見たこの景色。

だとしたら。

この景色を見せる為に犯人は被害者を呼び出した。

そして転落死させた後、現場を偽装した。

呼び出したのは多分警官が言ってたチャット。

……何だ?

殺害予告、呼び出し、そしてこの景色からも文字が浮かぶ。

まさか、有り得ない。

そう思いつつも、否定できる材料がどこにもなかった。

文字で標的を殺すとでも言うのか。

ハッとして時計を見る。

時刻は午後の1時。

0時10分に殺害するなら。

もう次の標的が殺害されててもおかしくなかったから。

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