罪科ゼロを憶察する
花園塔の5階には、他の階よりも天井が高かった。
それなのに外観は何も変化が無かった。
その時は地下に部屋があるから。
それだけだと思ってた。
だけどそれだけの理由なら5階部分だけ天井を高くする理由は無い。
だとしたら何で天井が高くなってるのか。
だから1つの状況を考える。
振動が全く無かったエレベーター。
だけど異常事態でエレベーターがもしも止まったら?
1階で止まった状態で動かなくなったら、恐らくは7階の屋上への扉から地上に出れるようになってるだろうけど。
例えば3階と6階。
或いは4階と5階で止まったら?
その階の住人はここから出れなくなる。
だから例えエレベーターが止まっても。
ここから出れるような構造になってるんじゃないか。
だから脱出する為の抜け穴。
もとい。
ここから別の場所に行けるような抜け穴。
ロープを使って下に降りる。
そもそもここは犯罪を犯す事を目的に作られたんだから。
非常用の出口なんて目的で7階の扉を作る訳が無い。
エレベーターの上部に当たる場所に降りる。
多分ここが4階と5階に当たる場所。
思えば非常用出口がエレベーターについてないのがおかしい。
持って来た斧で無理矢理天井をこじ開ける。
この中に入れば。
俺の仮説の真偽が分かる。
姉ちゃんも降りて来て手伝ってくれる。
こじ開け、中に飛び降りる。
皆がロープで続々と降りて来る。
「んで?」
姉ちゃんが斧を振り上げるのを止める。
俺は対面にある扉に目を向ける。
姉ちゃんに頼んでこじ開けて貰うように。
4階の扉をまず。
開けた先には廊下に『4』の文字が入ったフロア。
5階の方の扉を開けて貰う。
……やっぱり。
思った通りだ。
「これ……」
「だから天井が高くなっていたのね……」
「こんな仕掛けが……」
5階のフロアは4階と違い、エレベーターの床の下にフロアの床が見える。
間違い無い。
高い天井の分だけ4階よりも床が下がってたんだろう。
って事は。
5階に飛び降りる。
5階のフロアから見れば見える、エレベーター下の隙間。
これが無い訳が無い。
だったら久遠はどのタイミングで俺の事を知れたのか。
そこに矛盾が生じるから。
懐中電灯でエレベーター下にある隙間から覗く。
何故か下へ繋がる梯子がある。
「官野帝はここまで予測してこの塔を建てたのかしら?」
予め官野がこうしたのか。
或いは別の誰かがこう建て替えたのか。
多分前者。
建て替える為にはこの塔の構造を知ってる事が条件。
エレベーターの仕様も含めた構造を知る事が出来たのは皇桜花だけ。
ここで殺害された人物に教えたと仮定するなら、皇桜花は日記に書いてあった時系列的に不可能。
カン、カンと1段ずつ降りる音が鳴り響く。
多分花園塔だけじゃない。
他の建造物にいた人間達にも種を蒔いてたんだろう。
……久遠が館華を救った理由って。
憎しみの連鎖から断ち切る為って言えばそれで終わりだったかもしれない。
だけどそれを生み出したきっかけが蛍火館だとすれば。
もっと深い意味があったのか。
……その仮定を証明する証拠。
久遠が俺に目を付けた理由。
全てを証明する何かが。
この奥にある。
降り着いた先に続く道を全員で進む。
って楓は俺にしがみつくのを止めなさい!
「怖いのよ」
「何言ってんのか分かんない」
反対側にしがみつくかと思いきや由佳は楓を剥がし、由佳が代わりにしがみつく。
事件が起こって無いのも分かり切ってる。
更にこの事件は半世紀前に起こった事件。
こんな状況になっても無理は無い。
だけど緊張感の無い状況に懐かしさを感じる。
今とは違って、自覚が無かった証拠。
刹那を生きる事。
それが必要だって知れた。
……誰に感謝してももう遅い。
未来を0にする。
……久遠を引き継ぐみたいで釈然としない。
だけど俺は久遠が作ろうとしてた未来を望まない。
広い所に出る。
そこには2つの墓があった。
墓だって分かったのは。
ワイン瓶みたいな建物の中にあったものと同じ形のものだったから。
近付き、確認をする。
墓石に小さく書かれた文字は。
予想通りだった。
akira yosinoとaoi yosino。
日付まで記載されてる。
今から5年前。
……。
全て分かった。
「あたし達の……お爺ちゃんとお婆ちゃん……」
姉ちゃんは墓の前にしゃがむ。
表情は見えない。
ただ、ゆっくりと両手を合わせる姿が見えるだけだった。
「2人で逃亡を続ける中で、2人に愛が芽生えた……って事ですか」
或いは、その前から。
ヨシノの中に不穏な動きがあった事を。
2人は掴んでたんだろう。
んで、俺の両親がその意思を受け継いだ。
久遠はこれを見たんだろう。
これを見て、俺が犯罪者の子孫だと思った。
けど、事実は違う。
もし久遠が俺に言った事が本当だとしたら、50年前に起こった事件の説明がつかない。
俺は墓前にしゃがみ、両手を合わせる。
今から5年前に亡くなったって事は。
俺が生まれた後にも生きてた。
顔位見せてくれても良かったんじゃないか。
逃亡を続けないと万が一にでも俺達や両親に危害が加えられるのを恐れた為って納得したくなかった。
……そんな事しか思い浮かばない。
祖父母が起こした行動を、吉野会って言う皮肉で両親が受け継いだ。
それがPCPって言うイマになってる。
これからも活動を続けるなんて誓い、とうの昔にしてるから。
今ここで浮かぶ言葉が無い。
1つだけここで言うとすれば。
「犯罪の無い未来、叶えよ?」
由佳の言う通りだ。
50年の時が経っても受け継がれたモノを。
俺達の意思で歩いて行く。
それ位だった。
墓はそのままにしておき、たまに墓磨きにでも来ようって事で、花園塔の焼け跡を離れる。
「1つ疑問があるのだけれど」
「何が?」
「双鏡塔の生活の痕跡よ。翔太君。誰だったのかしら」
「ああ……」
「分かったの? 翔太」
「誰なんですか?」
「俺達の祖父母」
「何の為に!?」
「想像でしか無いけど、官野帝らと会ってたんじゃないかな。それで、世間の目を盗んで隠れ住める場所を紹介されたとしたら、話が繋がるような気がする」
「なるほど……。 だからここにお墓を作るって言う事が出来た訳ね。無罪を証明した2人に対しての何かしらのお礼と言う形でここに」
「後で作らせたのかもしれませんね。ここが出来た後でしょうから」
「んじゃあ、爺と婆はそれを知ってて?」
「それはもう分かんねー」
「でも、続いて来た……」
「ああ」
空を見上げる。
雲1つ無い空が広がってる。
……やる事は決まってる。
犯罪を0にする。
それだけ。
加害者側に殺害するだけの理由があったとしても。
犯罪を止める。
加害者は、自分の犯罪の重さを理解しなければならないと思うから。
俺は目を閉じ、祈る。
この世の犯罪が消えて無くなれば。
罪5。はんきをこえしもの。いかがだったでしょうか。
未解決事件を取り上げましたが、怨恨絡みの犯罪の多くは
未解決って言う部分に全てが集まるんだなーと自分で書いて来て気付き、題材として未解決事件って言う設定を取り上げました。
実際多くの未解決事件は存在する。
それが無くなる事を願ってる方がどれ程多いか。
痛感しました。
だからこそ物事の善悪を切り分ける事は非常に難しい。
そこから何を考え何を想い、繋げていくか。
それが果たして良いのか悪いのか。
自分にしか分かりませんよね。
このシリーズはようやく終わりです。
2年半。
長かったような短かったような。
だけど終わりは来ます。
終わらないものがこの世にあるのはあまり良くないと。
私はそう思います。
個人的には書くべき事が書ききれたような。
そうでもないような。
微妙な感覚です(笑)
個人的に好きなキャラはやっぱり楓です。
楓のキャラってどのキャラと合わせても書きやすくて面白い。
作中の女性キャラの中では一番頭が良いって言う設定なのも大きいかもしれません。
このキャラが書けなくなるのはちょっと寂しくもあります。
ある意味一番いそうなお嬢様じゃないでしょうか。
高圧的ではない口調なのにどこか圧を感じるような。
冷たいキャラの割に翔太にだけはべったり張り付くような。
掴めないキャラって言う訳でも無いのに、どこか掴み所の無さを感じるような。
他のキャラクターも勿論良いんですが、楓はやはり1歩抜けてる印象を感じてます。
次回作はどうしようか何も考えていませんが、また何か上げると思います。
最後って事で本当に長くなりましたがまたお会いできれば。
それではノシ