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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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建物の前提

 時間だけが過ぎてく。

翔太が久遠の所に向かってから、かれこれ6時間は経った。

すっかり外は暗くなったけど、翔太は一向に帰って来ない。

あたし達の方でやれる事はやった。

だから後は帰って来るのを待つだけって頭で分かってても、何だか落ち着かない。

とりあえず、帰って来たら事件の真相は聞くつもりでいる。

ただ、それだけ。

それと、翔太の祖父に当たる人について。

ヨシノに所属してた人がそれに当たる人でも関係無いけど。

ただ、知っとかなきゃダメだと思った。

翔太と共に歩むって決めたから。

……自分で思って恥ずかしくなる。

優子さんは明日早いからと、先に寝てる。

だけど内心では心配してるだろう。

翔太を待ってる間、風舟村で翔太が話した内容の細かい所まで優子さんに話した。

優子さんは黙ってあたしの話を聞いてくれた。

話が終わるまでにかなりの時間がかかった。

そんなあたしに優子さんは言ってくれた。


 あたしも人の事言えないけど、今度からはちゃんと話してね。

由佳ちゃん達が自分達で考えて、想いと意思を持って行動してるのは分かったから。


 優子さんからそう言われたのは素直に嬉しかった。

実姉のように思ってるから。

初めて会った時は正直怖かったけど、話してみたら凄く良い人だったのを覚えてる。

姉弟はその時から今みたいな感じだった。

それでも仲が悪い中に見える絆は感じた。

コーヒーを淹れなおす。

早く帰って来て欲しい。

用意した食事はとっくに覚めてしまった。

呼び鈴が鳴る。

やっと帰って来た。

覗き穴で翔太を確認し、チェーンロックと鍵を開ける。

「ただいま。悪い遅くなった」

 何とも思って無いって言えば嘘だけど、謝られる程じゃない。

逸る気持ちを抑えられず、どうだったのか聞く。

「食べながらで良いか?」

 テーブルを指差し、翔太は言う。



 50年前に起きた事件の真相。

秘密結社と吉野章の関係。

久遠が事実を知ってても尚俺に依頼した理由。

何故官野帝が犯人と言う結果に至ったのか。

そして俺の爺ちゃんに当たる吉野章について。

食べながら由佳に説明する。

由佳は心底安心した様子だった。

「そっか……。 直接犯罪を犯した訳じゃなかったんだ……」

 あくまで証拠も無い、推測上での話だから確証は無い。

ただ……。

「でも、解決した割には浮かない顔してるね翔太」

 1つだけ疑問がある。

久遠は俺を犯罪者の子孫だって言いきった。

確固たる理由がある筈なのに、語らなかったのは何でか。

「真相を知ってる事件の解決を翔太に依頼しといて、確かにちょっとおかしい」

 断定した理由があるんじゃないだろうか。

俺に固執した理由だってそうだ。

もしかしたら。

根拠を久遠は見つけたんじゃないだろうか。

「どこで見つけたかだよね」

 俺が知る限りでの久遠の行動を考える。

官野が建てた建物での殺人計画を久遠が建て、ターゲットと俺達を招く。

簡潔に言えば久遠の動きはそう。

それにその建物の下調べや未解決事件の解決もあっただろう。

……そうだ。

その後に建物が全て焼き払われた。

実行したのは間違い無く久遠。

そしてその後官野の日記が送られて来た。

……この一連の行動の中で久遠が俺に関わる痕跡を見つけたんだとすれば。

多分建物のどこかで見つけたんだろう。

ならその建物はどれか。

両小指を絡め、手を口元に当てて考える。

一通り姉ちゃんと森田さんには調べて貰った。

それなのにそれらしき痕跡は無かった。

久遠の事件、更には雷鳥館。

全ての建物の記憶を辿る。

雷鳥館は久遠が絡んで無いし、爆破されたから除外するとして。

花園塔の本来はあった筈の2階から上は拓さんが以前に調べたからそこにも無い。

そもそも爆破によってバラバラになり、その瓦礫を探しても俺に繋がるものが何も出なかった。

だったら見えない部分に何かがある可能性が高い。

俺が行った中で何かありそうな建物……。

……建物をもう1度思い出す。

「そう言えば……」

 由佳がいつの間にか持って来てたノートPCでモニターを眺めてる。

「今、前に行った建物の外観を見てたんだけど、ここ」

 由佳が見てたのは花園塔だった。

「確か各階を最初に全部見て回ったよね?」

 あの時は幽霊騒動で行ったから、最初に建物内部を調べた筈。

「何か1ヵ所だけ違ってなかった? ……すっごい曖昧な記憶なんだけど」

 確か4階だか5階だけ天井が高かった……。

そうか。

だとすれば一番可能性があるのは花園塔。

そんな目的で作られたかは分からないけど。

何かありそうな予感がする。



 50年前の真実。

繋がりを無かった事になんて出来ないけど。

それでも翔太は犯罪を0にする為に明日を。

今この瞬間を動くのは変わらない。

それに、翔太が折れそうになってるならあたしが翔太を起こす。

今、あたし達はPCPの車で花園塔に向かってる。

翔太だけかと思ってたら、優子さんと華音ちゃん、楓さんも付いてくるって言ってきた。

久し振りにPCPのメンバーが全員揃った気がする。

今後もあたし達は基本的にはバラバラに行動するだろうから、珍しいと言えば珍しい。

50年前の事件の真相は皆には伝えた。

だけどそれで翔太と優子さんへの見方が変わるなんて事はあり得なかった。

優子さんは勿論だけど、楓さんまで『あらそう。それで?』って返答が帰って来るだけだった。

だけど華音ちゃんはミラー越しにしか見え無いけど、外を見たままだった。

「犯罪者に何かしらの縁があったんですね。私達」

 あたし達だけじゃない。

誰しもが、犯罪に何かしらの関りを持ってるのかもしれない。

そう考えて行動しなきゃいけないだろう。

あたし達PCPなら猶更。

「犯罪を0にする為に作ったPCPの親族の多くが犯罪を犯したメンバー。PCPにとって上等なメンバーじゃねーか」

「近い内に大塚詩乃芽さんをお誘いするつもりよ。彼女はサイバー犯罪のエキスパートだから。サイバー犯罪の方にも圧をかけられれば、それに越した事は無い」

「俺の知り合いの健文……。 出所したらここに誘っても良いか?」

 PCPがちょっとずつ大きくなってく。

犯罪を0にする為の組織。

「どうせあたしを武器代わりに使うんでしょ? ……出来る限り協力するから連絡はしなさいよ」

「あら、良く分かっているじゃない」

 友達がいない訳じゃないけど、ここに誘えるようなコネなんてあたしは持ってない。

だけどだからこそ。

ここにいる皆がスムーズに動けるようにサポートする。

何も無くたって、やれる事なんて幾らでもある。

想いがそこにあるから。

車を止める。

着いた。

車から出て、元々あった筈のその場所を見上げる。

空が見えるだけ。

あった筈のそれは無く、焼け跡があるだけだった。

「それで? 本当にここに何かがあるの?」

「ああ」

 翔太は迷わずその場所に向かって歩いて行く。

大きな穴が開いてる場所を。

エレベーターがあった、その場所に。

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