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ザイカオクサツ~吉野翔太の怪事件ファイル2~  作者: 広田香保里
罪5 半紀を超えしモノ
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半紀を超えて

「真相を話す前に1つ確認だ」

「何、かな。吉野、翔太」

「どこまで知ってる?」

「何故?」

「未解決事件を解決し、その被害者や遺族に殺人教唆をする。てめーの得意分野をわざわざ俺に依頼するなんて考えにくい。何か意図があった。違うか?」

「なるほど。だが、私も、万能では、無い」

「あくまで分からなかったから俺に依頼したって言い張る訳だな」

「誓おう」


 そもそもこいつが簡単に白状するなんて考えて無かった。

だけど、万能では無いって俺に言ったって事は、少なくとも久遠自身がこの事件を調べた事は事実だろう。

問題はその事実がどこまで真実に近づいてるのかどうか。

俺は深呼吸する。


 まず、10件の事件の内の4件は5人目の被害者である平石圭司によって行われた。

他9人の被害者は犯行現場さえ分からない状況だったのに対し、平石の殺害現場だけは自宅ってハッキリ分かってた。

だからこう考えた。

平石が別の人物から殺人教唆を受け、最初の4件の殺人を行っていたけど途中でその依頼人との間に何かがあった。

その口封じの為に平石が殺害された。

その証拠に、それ以降の犯行はそれまでの犯行に比べて複雑に、より狡猾になってる。

これは少なくとも実行犯がそれまでと違う人物だって言う証明にはなり得る。


 俺の話を、久遠は黙って聞いていた。

「それぞれが、違う指を、切断されていた理由は、何だ」


 とある事実を隠す為と、殺人を最後まで遂行する為。

警察の捜査は切り取られた指に向くだろう。

全てを繋げる為に、どうしても最後まで殺人を遂行する必要があった。

その事実ってのは、殺害された10人の苗字と名前の頭文字。

それぞれの頭文字で文章を作ると


 あおいけひたときはかけれた

 こみはひやした


 この文章が出て来る。

真犯人はこの文章をどうしても作り上げる必要があった。


「何の、理由がある?」

「本当に殺害したかった人物らへの警告」

「警告?」

「三条葵と吉野章への」

「吉野……?」


 久遠の表情が少しだけ変わった。

確証は無いけど、この辺りの事を既に知ってるんだろう。


「そもそもこの連続殺人事件の発端は、とある秘密結社の間で起こった1種の内紛」

「警察との、間ではなく、か?」

「これは想像だけど、この秘密結社は戦後の日本のバランスを保つ為に存在してた組織。だから警察と手を組んでこそ意味のある組織だった。だけどある人物がある日に気付いてしまった。当時警察の不正逮捕がそれだ」

「警官による恐喝じみた取り調べも、その1つか?」

「それは何とも言えないけど、その事実に気付いてしまった1人の刑事と刑事の協力者がいた」

「刑事と、協力者?」

「官野帝が死の直前に残した日記に書いてあった刑事だ」


 久遠はなるほどと頷く。

「それで、その秘密結社と、刑事は、誰だ」

 秘密結社の話を出しただけで警察との関係を聞いて来た。

間違いなくこいつは俺の口からその言葉を言わせようとしてる。


「秘密結社ヨシノ。刑事の名前は吉野章」

「身内同士の争いと言う、訳だな? 吉野、翔太」

「やっぱり知ってやがったんだな」

「きっかけは、偶然、だったがな」

「何故俺にこの事件を調べさせたか、この名前を聞いた時にやっと分かった」

「最後まで、話したまえ」

「吉野章はヨシノと警察を繋ぐパイプのような役割を担ってた。刑事としてな。だが、警察の不正逮捕に疑問を持った吉野章は、それがヨシノと関わってる事を突き止めた。だから多分警察やヨシノと関係を断つと言い出したんだろう。それをヨシノ側が許す訳が無い。だから警告の為にあの殺人を企てた。勿論、ヨシノに疑いがかからないように平石を脅して。平石に白羽の矢が立った理由は三条葵が勤めてた店の常連であり、三条の正体を知ってる可能性があったから。だが、殺人が起こり、平石に疑いを持った三条と吉野章は恐らく途中でヨシノが絡んでる事に気付いたんだろう。それで平石にこれ以上の殺人を止めるよう説得したか何かしたんだろう。だが、平石はヨシノによって消された。だから吉野章は警官である間にこの事件の全貌を警察に報告した。ヨシノがそんな大犯罪に関わってる事が分かれば、警察の存在にまで発展する。だけど警察はこれらの証拠を抹消しようとした」

 久遠は笑みを浮かべる。

「組織が、個人に、壊された」

「多分、だから官野の無実が証明されたにも拘らず官野は隔離され、その刑事もどこかへ行ってしまった。尚且つヨシノが解散する事になった。そして当時の資料にヨシノの事も吉野章の調査資料も無かったんだ」

 事件の真相。

ヨシノの間に起こった内紛によって、何の罪も無い10人もの人間が殺害された。

年齢も性別もバラバラで、尚且つ共通点が無かったのも納得だった。

吉野章と三条葵への警告の為に。

言ってしまえばあんな文章を作る為だけに殺害された。

「ここからが、本題では、無いのか?」

 俺は久遠を見る。

久遠が何を言いたいのか。

俺には分かってた。

久遠が俺にこの事件解決を依頼した本当の理由。

「貴様の親族は犯罪者だったと、言う訳だ」

 久遠が俺をわざわざ選んだ理由。

誰でも良いって言っときながらそれでも何故固執したのか。

「こんな下らない事があった結果の上に、貴様が、生まれた。後は、分かるな?」


「俺が生まれて無かったらてめーが犯罪を犯す必要も無かったって言いたげだな」

「黒の、御使いは、どう説明する?」

「ガキみてーな事言ってんじゃねーよ。自分の意思で悪に染まったんだろ? 自分自身の中にある悪って感情から目を背けただけじゃねーか。そんな下らねー事を言う為に俺に依頼したんならお門違いも良い所だ」

「無関係だとでも、言うつもりか?」

「今更関係無いなんて言わねー。俺の爺ちゃんが秘密結社に属してた。それは多分事実。けど俺の父さんと母さんは少なくとも犯罪を犯す為の組織を作ったんじゃない。吉野会が出来た経緯だってこの事件が関わってるだろうから。それを犯罪なんて言わせねーよ」

「事実を知った時には、笑いが止まらなかった。犯罪者が、犯罪を0に、しようとしているのだからな」

「それに、俺の爺ちゃんは犯罪を犯してねーよ」

「何故、それが、言える」

「俺の爺ちゃんが吉野章だからだ」


 久遠は驚いた様子も見せない。

「根拠は、何だ?」

 章を読み替えればショウ。

多分、そう言う事なんだと勝手に思ってる。

俺の両親がその証を俺の名前に残したって。

これ以上話す事は無いだろう。

俺は立ち上がり、久遠を見る。

今なら分からなくもない。

こいつは本当の意味で犯罪を0にしようとした。

ヨシノって言う過去から、ある犯罪に関わる家系。

つまり俺に悪って概念を返すのも目的だったかもしれない。

もしあの場で俺が久遠と館華を助けなければ。

助けようとした人物として俺がどうなってたかは分からない。

こいつがいつ吉野の家系に気付いたかは分からない。

でも。

50年も前の話なんだ。

無かった事になんかしないけど、久遠の言う事はお門違いだ。

俺は久遠に背を向ける。


 俺達は今にしか生きて無い。

だから俺は未来の犯罪を0にする為にこれからも動く。

例え俺が秘密結社に所属してた人間の子孫だろうが関係無い。


「悪を、忘れるな。永遠に」

 ああ。

半世紀に渡って隠された秘密。

昔の俺だったら心が折れてたかもしれない。

真実を知っても尚冷静でいれたのは皆のお陰だ。

何があっても立ち止まらずに。

この先も歩いて行く覚悟を決めれたから。

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