歴史は人のルーツそのもの
夜になって翔太は帰って来た。
明日には帰る。
榎田って人に会いに行った翔太は、晴れやかな表情だった。
寝ようと思ったら、翔太に散歩に誘われた。
思えば吉野会の屋敷とか初対面の人との会話だけで変に緊張しっ放しだった。
今日は調べ物があった。
意味も無く翔太の手を握ってみると、握り返してくれる。
会話も無く、ただ歩いてるだけの時間がとても幸せに思う。
どこへ行く訳でも無く、何を話す訳でも無い。
「50年前の真相、大体分かった」
立ち止まり、翔太は空を見上げる。
50年前の真相……。
それさえも解き明かす翔太の推理力。
だからこそ、ただ解き明かす事に意味は無いって願えたって分かる。
ただ、あたしが気になってるのは秘密結社の事と刑事の話。
「戻ったら久遠に会って来るわ」
……元々が久遠からの依頼。
この事件が、50年経った今、終わりを迎えようとしてるんだ。
だけど何だろう。
それだけじゃないような気がする。
具体的に何かは分かんないけど。
翔太は何か違う事を考えてる気がした。
「運命とか宿命って信じるか? 由佳は」
「んー……分かんない」
「事件の真相に辿り着いた時、もしかしたら俺は生まれて無かったんじゃないかって」
「やっぱり翔太の祖先の人が……」
「ああ……そうだと思う」
「あたしとも出会って無かったかもしれない?」
「そう言う事になる」
「それは絶対に嫌」
「俺もそうだ」
翔太はあたしの方を向く。
「50年前の事件が起きて無かったら。黒の御使いも久遠も大犯罪を犯そうなんてイマは無かったかもしれない」
それでもあたしは。
PCPって言う組織の中で沢山のモノを得た。
それに、50年前の事件をあたし達で防ぐ事は不可能。
翔太だってそんな事は分かってる。
そんなあたし達に出来る事は。
未来に向かって進む事しか出来ない。
それに誰かが躓いたり立ち止まったりした時は、助け合えば良い。
そうして強くなって行ける。
PCPは。
「……由佳に会えて良かった」
勿論あたしだってそう。
翔太の肩に頭を預ける。
「昔の事件を辿って分かった事があった」
「何?」
「俺って言う人間がどう言う経緯で存在したのかがはっきり分かった」
「存在意義って事?」
「ちょっと違う。俺が生まれて来るまでの話。んで、由佳に会うまでの話」
「何か思った事ある?」
「今の俺で良かった。そう思える。だけどいつまでも、過去を忘れない。そうして今この瞬間を歩きたい」
「例え失敗しても、凹めば良い。一緒に立ち直って行こ?」
翔太は何も言わずあたしの手を再度握った。
帰りの電車で、最後の整理をする。
50年前に起きた一連の事件の真実。
証拠は勿論何も無い。
全てが推測に過ぎない。
しかも、解決した所で誰も救われない。
一瞬久遠らが逃亡する為の罠って可能性も過ったけど、拓さんからそれが無い事を教えて貰う。
だから残る問題。
怪文章について。
目を閉じる。
その前に今までの推論を組み立てる。
全ての事件との関連。
秘密結社と刑事、三条葵の関係。
何故平石が殺人教唆をされたのか。
両小指を絡め、手を口元に当て考える。
10件の殺人事件で指の1本が切断されてた事を考えれば。
やっぱり文章に意味があるって考えた方が妥当だろう。
だとすれば。
答えは1つだけ。
……。
多分これで。
だとすれば。
久遠が俺に依頼した理由も頷ける気がする。
わざわざ俺に執着した理由も。
全ての情報がやっと1つになった。
1つだけ言える事があった。
俺達は未来へ進みたい。
拓さんに久遠への面会の連絡を行い、目隠しをされた状態で俺は再び久遠の待つ特別留置所に向かってる。
拓さんは俺がヨシノについて連絡した後からも他に捜査資料が無いか探してくれてたみたいだ。
「役に立てなくてすまないな」
無いのも無理は無い。
50年前に既に警察内から抹消されてたんだろう。
その情報も、今から俺が話そうとしてる推論が真実だって裏付ける根拠になり得る。
「だが、そんなに昔から警察に闇が隠されていたとは……」
闇かどうかは分からない。
50年前で言えば戦後暫く経って。
日本のバランスを考えたものかもしれない。
それを闇って結論付けるのは俺には出来ない気がする。
「……日本のバランスを保つ為、だな」
その頃の日本がどうなってたかなんて俺には想像もできない。
その当時には必要な事だったのかもしれない。
だからこそ、今を生きてる俺達が真剣に善悪について考える。
「今後、一切起こさせないようにする事を考える。その為の基盤は出来かけている」
PCPがあれば。
そんな未来になれば。
「そろそろ着く。真相を期待している」
拳を握る。
車から降ろされ、手を引かれ誘導される。
外音が全く聞こえなくなり、足音のみの時間が過ぎる。
エレベーターを何度か乗り降りし、どこに向かってるのか全く分からなくなる。
そうまでして捕えておくべき人物。
以前にここに来た時は、俺を呼んだ理由を只管に考えてた気がする。
だけど、あの時とは違う。
アイマスクを外され、思わず目を閉じる。
眩しすぎる廊下は相変わらず慣れない。
正面の部屋に向かって歩いて行く。
久遠が解決を望んだ事件の真相。
奴が望んだ真実かどうかは分からない。
一通りの可能性は考えた。
これで間違っていないか。
何せ証拠が無い。
だけど結論は変わらなかった。
固執してるだけかもしれない。
扉の前に着くと同時に扉が開く。
1回目にここに会った時と。
久遠正義は同じ表情だった。
「真実を、話したまえ」
何も話さず、俺は久遠の正面に座る。