沈黙の解答
「坊ちゃんを試したつもりはありませんが……」
まあ、見つけられたからこの際その辺りの事は置いておく。
多分一晩中調べてくれたんだろう。
この膨大な量を1人で。
何か分かったのかと弦さんに尋ねる。
「……分かったは分かったのですが……」
言いにくそうにしてるのは何故だろう。
「想像を超え過ぎていて、自分自身信じられないでいます」
想像を超え過ぎて?
弦さんが?
テーブルの上にはいくつかの紙がまとめて置いてある。
きっと情報として該当するものだろう。
弦さんが頷く。
紙に目を通していく。
秘密結社の名前がそこには書いてあった。
ヨシノ。
確かにそこにはそう書いてある。
弦さんが言うのを躊躇った。
……要は多分、そう言う事なんだろう。
俺達に何かしらの関りがある人物。
ってちょっと待て。
吉野会はそもそも俺の両親が作った組織だ。
関係ある訳が無い。
苗字が同じ何てざらにあるだろう。
それなのに何故弦さんは関連付けて考えてるのか。
「坊ちゃんの祖父に当たる人物であればどうでしょうか」
確かに俺は自分の祖父母を知らない。
だけど俺の祖父母がそんな犯罪に関わってたと仮定して、俺の両親が真逆と言っても良い組織を立ち上げるだろうか。
ただ、苗字が同じ似通った組織は多くないのも事実。
「この秘密結社ヨシノは、警察と裏で繋がっていたと噂があったようです」
事件前後で解散された組織。
尚且つ裏で繋がってたんだとしたら、犯人がヨシノの組織内にいても頷ける。
組織のメンバー表は無いだろうか。
「あるかもしれませんけど、まだ見つかっておりません。ただ、それが見つかったとしても犯人の特定が出来るかどうか……」
いや、そうでもない。
今までは組織があったかどうかさえも分からなかった。
それが具体的な組織に目星がつけられた。
拓さんからの警察資料にヨシノの話が何も載って無かったのも頷ける。
だとしたらもう1つ分かる事がある。
無実を暴いた刑事がヨシノの事に気付いた。
今その刑事は警察にいない。
当時の警察の闇に気付いたからか、或いは既に殺害されたか。
ただ、殺害されたと仮定するなら秘密結社は解散してない筈。
三条葵を連れて逃げたか或いは。
犯人はヨシノに所属してた人物なのは間違いないだろう。
そして事件前後で刑事と警察、ヨシノの間に何かがあった。
その結果犯人が官野帝として処理され、ヨシノは解散した。
こんな所か。
兎に角由佳にヨシノについては詳しく調べて貰う事にして、残る問題は刑事が誰なのか。
地下から出ると同時に、楓からの着信が鳴る。
『今大丈夫かしら?』
そっち側で何か分かったんだろうか。
『秘密結社の名前だけれど』
「ヨシノ、か?」
『……そちらでも収穫があったようね』
「情報が合っていたのであれば間違いは無さそうだな」
『それと、刑事の名前も分かったわ』
「ホントか? 誰だ?」
何故か無言になる楓。
何だ?
『吉野章と言う人物だそうよ』
……。
『翔太君、聞いた事は無いかしら?』
聞いた事は無い。
けど。
バラバラになってた情報が一気に収束する感覚。
多分そう考えれば全ての辻褄は合う。
『それと、これは華音ちゃんが言っていた事だけれど、久遠は何故翔太君に事件解決を依頼したのか』
どう言う事だ?
『久遠らが殺人教唆の為に行っていた事って、簡単に言ってしまえば未解決事件の解決。自分の得意分野の筈なのに、何故それを翔太君に依頼したのかしら』
……。
確かにそうだ。
だとしたら、久遠が俺に依頼したのってもしかして……。
こうなって来ると問題になるのはあの怪文章。
何の為に犯人側が文章を残した?
或いは本当の偶然なんだろうか。
……。
それらに双鏡塔にあった人が住んでた痕跡は関係あるのか。
その辺りが分かれば。
宿に戻り、ノックをして由佳の部屋に入る。
「翔太! 丁度良い所に来て良かった」
モニターを見ると、ヨシノの文字。
由佳もヨシノに辿り着いたようだ。
「翔太のお爺さん……じゃないよね」
確証は無いけど、推測通りなら違う。
だけど、多分事件のきっかけになった事も無関係じゃない。
……今から戻った方が良いか悩む。
直ぐにでも確認したい事がある。
「どうする? 戻ってPCPで調べた方が良い気はするけど……」
いやと首を振る。
会わないといけない奴がいる。
事件の事は気になる。
それ以上にここの皆が俺の話をまともに取り合ってくれて。
感謝しないといけない。
ここまで来て。
仲間の大切さを誰よりも知った。
そんな仲間の心の闇に気付いてやれなかった。
秀介はもういない。
だけど健文には。
俺の話を聞いて貰わないといけない。
由佳は嬉しそうに笑った。
「うん」
翔太君らはまだ用事があるようで、明日帰るとだけ告げられる。
翔太君がヨシノの名前を聞いた時の落ち着いた声を聞いた限りでは何も関係は無いと思うけれど、不安は拭えない。
あの老人に面会に来た人物が3人だとするならば。
1人が華音ちゃん。
2人目が吉野章。
3人目は恐らく皇桜花だろう。
実際に本人が来た事に驚きを隠せないけれど、少なくとも藤堂の話までは聞いたんだろう。
皇に……いや、久遠らに殺害された藤堂が決定を下したって所だろうか。
私達と犯罪者の視点が違う事を痛感する。
私達は犯罪を止める事を目的に動いている。
だけど犯罪者は恨みによって生まれた様々な感情をどうにかする事を目的に動いてる。
犯罪は手段なのだろう。
だから久遠らはその感情に注目して動いていた。
自らが悪となる事を覚悟して……。
華音ちゃんが何故館華に会いに行けたか。
それが答えなような気がする。
「だけど犯罪はいけない。ですよね」
そう。
滅茶苦茶になってしまう。
だから犯罪を0にしたいと願った。
間違っている事を正しいと呼ぶ世界なんて。
それは世界じゃない。
……今後のPCPの在り方、存在意義を考え直す必要がありそうだと思った。
「存在意義、ですか?」
犯罪を止める側は、どうしても後手に回ってしまう。
その原因を考えた時、1つの仮説が浮かんだ為。
「目的と手段の違い……ですか」
犯罪を0にしたい。
だから起こっている犯罪に目が行ってしまう。
犯罪を犯そうとする人を見なければいけない。
全ては人。
思えば組織だってそうではないか。
「……事件は良いんですか?」
久遠に会えない以上、私達に出来る事は限られて来る。
「私はヨシノって秘密結社と吉野章さんについて調べます」
それで良い。
犯人が所属している組織の名前まで分かれば。
後は翔太君がどう推論を立てるのか。
「……私は、さっき話してくれた考え方は分かる気がします」
館華星を追いかけてた時、華音ちゃんの館華に対する想いは聞いた。
一応聞いてみる。
華音ちゃんが面会を望んだのかどうか。
「私がお願いした訳じゃないです」
と言う事は。
この子は気付いてるのかは分からないけれど。
それを私が言うのは無粋だろう。
それぞれの想いがあり、今があるのを痛感する。
それが歴史となり、PCPの組織を作る。
年月以上の濃い内訳。
だからこそ、目的の部分をしっかりする。