前提条件は疑われて然るべきもの
今日は随分と昔話をする日だ。
久遠の事はあまり人に話したいとは思わなかったけど。
こうして今も変わらずにいてくれる友達がいる。
だから話した。
犯罪を犯して自殺した秀介にそっくりな事。
幾度と無く送られて来た殺人予告を防ぐ為に動いてた事。
0の世界の事。
憎しみを自分に集め、大々的に死ぬつもりだったのを止めた事。
犯罪を0にしたいと願った事。
真白がどんな顔をしてるかは見なかった。
PCP以外でこんな話をするのが初めてだったから、俺自身の顔を見られたくなかったのかもしれない。
「昔と変わって無くて良かった」
いや、昔と変わったと思う。
少なくとも、昔はこのままでいれば良いと思ってた。
ずっと続くなんて、バカみたいな事を願って。
行動しないといけない事を知ってしまった。
「昔だって。仲間が何かあった時には一番に動いてくれてた。紅葉の大切なものが無くなった時、真っ先に見つけてくれた」
……。
そんなの、当たり前じゃないか。
仲間といれる空間があればそれで良かった。
「変わってないよ。翔太の力に、少しずつ皆気付き始めてるってだけ。それを、翔太は活かして行動してるだけ。何も、変わって無いよ」
そう言う真白は変わった気がする。
「私は、ここに残るって決めた。皆が戻って来る事を知ってるから。お父さんも心配だし。 ……これからは毎年、帰って来て欲しいかな」
意地悪く言う真白に、どちらからともなく笑う。
うん。
真白に約束する。
じゃあと立ち上がり、戻る事にする。
「教えてくれてありがとう」
でも、見違える位に綺麗になったのは、真白も変わりたいと願ったからだと思うんだけど。
「それは秘密」
振り返った真白の表情。
これ以上聞いて欲しくないって言ってるようだった。
桜庭さんから連絡があった事に気付いたのは、家に着いた昨晩だった。
珍しいと思いながらも、用件は教えてくれなかった。
それ位は話してくれても良いのにとPCP拠点に向かう事にして現在に至る。
話す事があるから丁度良かったと言えばそうだけど。
館華さんが言ってた手法をPCPが情報として持てば、今後に繋がる事は間違いない。
でもそれは。
同時に館華さんを救えた筈の自分がいた事も思い出すって事。
……。
もう何を言っても無駄なのは分かってるのに。
後悔してしまう。
翔太さんも。
兄さんの事をずっと後悔して。
こんな気持ちで過ごして来たんだろうか。
前を向かないといけないのに。
いつまでも後ろを振り返るような矛盾した感覚。
救って貰ったんだから。
もう立ち止まる訳には行かない。
翔太さんも。
由佳さんに救われた。
ただの偶然かもしれないけど。
そんな事はどうでも良かった。
いつもの如く桜庭さんに作って貰ったカードキーを差し、大学校舎内に入る。
ここに来るのは久し振りだ。
大きな事件が片付いたって言うのもあるけど。
一応私は受験生だ。
推薦が取れるようにはしてるけど、目的があるからその為の勉強はしてるから。
館華さんの件もあって中々来れなかった。
PCPの扉を開けると、桜庭さんは既に中にいた。
PCモニターにはウィンドウが沢山表示されてて、何かを調べてるのだけは分かる。
だけど本人は座りながら眠ってた。
……昨日から夜通しだったんだろうか。
大きな事件が起きてる?
急がなきゃいけないのかもしれないと本能的に思ったのは。
黒の御使いと久遠の事件があったから。
それに翔太さんと由佳さんもいないって事は。
既にどこかに向かってるんだろう。
寝てる場合じゃありませんと大声で、桜庭さんの体を揺さぶる。
桜庭さんは体をビクッと震わせ、何事も無かったかのようにモニターに向かう。
……背伸びをしながら。
「早かったわね」
そんな場合じゃないですと言うけど、何かおかしい。
「何をそんなに慌てているのかしら?」
溜息をつく。
先に用件を聞いた方が良さそうだと悟る。
……。
自分で淹れた紅茶を飲む。
50年前に起きた未解決事件の調査……。
「期限は久遠らの死刑執行前よ」
……どうやって解決するのか想像すら出来ない。
その解決を翔太さんが久遠から依頼された……。
だけど、50年前の事件の証拠なんて出るんだろうか。
「出ないと考えた方が良いわね。要はどこまで推論を立てられるか、にかかっている。後は途方も無い情報から、それらしき情報を探り当てられるかどうかね」
……本当に気の遠くなるような作業だ。
翔太さん達は帰省中との事で安心した(事件現場に向かい、危険な目に遭う事だってあり得たから)。
それに、この人のあんな無防備な姿を見る事になるとも思ってなかった。
「あら、何の事かしら?」
平静を装いながら、青筋が浮かんでるのが直ぐに分かる。
それは兎も角、昔の秘密結社にいた人物が、三条葵さんって人の情報を何かしら握ってる可能性がある。
だから刑務所に行き、服役者と話をする為に私が呼ばれた。
「そう言う訳よ。詳細は移動中にでも話すわ」
……。
何だろう。
漠然と今までの話に違和感がある。
「どう言う事かしら? まだ概要しか話していないけれど」
翔太さんの推測にじゃない。
もっと根本的な所。
……そうだ。
どうして久遠は翔太さんに依頼したのか。
「私達に知りようが無いと思うけれど?」
館華さんの話を思い出す。
事件概要から推測を立て、実際にアプローチをかける。
館華さんが言ってた事が本当だとすれば。
殺人教唆の前に久遠がやってた事って。
未解決事件の解決に他ならない。
その久遠が。
ある意味自分の専門の分野を翔太さんに依頼するんだろうか?
桜庭さんの表情が変わる。
「その話、詳しくお願いできるかしら?」




