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ひとときの休息

 夕食までまだ少し時間があるみたいだったので、部屋で待つことにした。

 デスはソファテーブルで、さっき買ってきたハーブの仕分けを始める。


 私は魔物図鑑を出して、沼地で遭遇した魔物の情報を補足して書き込む。

 日付、時間帯など、知りうることは詳しく書き込んでいく。


 本当は魔物の絵も描けたら良いんだけど、画力があまりないのよね。

 うん、大体でいいわ。

 私が見て思い出せればいいよね。


 葉が抜け落ちた木の幹に顔を書く。

 トレントって分かる分かる。


 ちらっと覗き込んだデスにフッと笑われたけど。


「休まなくて大丈夫か?」

 デスがベッドを指差し言う。

「うん大丈夫。忘れないうちにこれやっておこうと思って。」

「そうか。」

「あと、拾ったものの鑑定もしたいし。」

「ああ、そういや気になるな。」


 さっさと図鑑の書き込みを終わらせて、鑑定眼鏡をバッグから出して装着する。


 魔物が落とした青色の綺麗な石を鑑定。

『水の魔石。水と魔素の多い地域に生息する魔物が落とすアイテム。魔道具に加工できる。』


「水の魔道具になるのか。」

「へえー。じゃあこれは、売るといいのかな。」

「ギルドで聞いてもいいだろう。」

 デスが手を出すので、水の魔石を手渡した。

「魔力を流してみる。」

 そう言って握り締めると、コポッと水が指の間から湧いてきた。

「わっ、すごい!」

「ふむ。生活用品の魔道具は、これを加工したもの、なんだな。」

「元はこんななんだね。」


 こぼれた水を拭き取りながら、感心した。

 魔素から産まれた魔物が、魔力の結晶みたいなのになるんだ。


「エルドラドで魔物討伐した時は見たことがないから、特定の地域だけかもな。」

「そうかもしれないね。あ、それに魔物を倒した時、消えたよね。ウルフとかはそのまま素材にしたけど。」


 魔石を窓から差し込む夕陽にかざすと、きらりと輝く。

 魔物からこんな綺麗なのができるなんて。

「不思議ね。」


 鑑定結果に満足してから、そろそろ夕食の時間になったので食堂へ向かった。


 食堂と言っても、宿泊者専用のフロアになっていて、宿泊部屋の数だけテーブルが並んでいて、こじんまりとしている。

 テーブルとテーブルの間には植物が仕切り板代わりになっていて、周りを気にせずにゆっくり食事ができる仕様になっていた。


 今まで見た酒場のような、冒険者や行商者が集まる飲食店なるものがドローガ村にはないようだ。


 野菜やフルーツを使った料理を謳う(うた  )お店が多くあったけど、あくまでも買って持ち帰る、あるいは立ち食いをするのがほとんど。

 こうして食事をするのは、宿に泊まるか、個人の家でおもてなしするかが主流らしい。

 フードロスを出さないための対策なんだって。


 目の前に食事が並べられていく。


 デスが、小食だからスープだけで良いと伝えると驚かれたが、快く了承してくれて、スープは二人分、おかずは取り分けできるように小皿を添えてくれた。


 食べられたらお代わりしてくださいと言われ、その心配りがすごく好きになった。


 料理には、へちまの形に彫られた木の器を使われていた。

 この村で売っているものを使っているんだ。気に入ったらお店で買えるしね。


 そして驚いたのが、へちまって食べられるって知ったこと。

 トロトロしたあんかけ料理になっていて、食感は…ナスっぽいかな?


 葉野菜はサラダになって、根菜は蒸したものをシンプルに塩で味付けがされていて、素材の甘さが舌にしみる。

 スープは野菜がマッシュされていて、新鮮なミルクでのばした濃厚なポタージュ。

 全体的にメインは野菜みたいだけど、お肉料理もついていて、程よいボリュームがあった。

 蒸したお肉かな?

 上に乗っている野菜のソースがいい仕事をしていて、さっぱりといくらでも食べられる。


 全体的にヘルシーですごく美味しい!


「今度真似して作りたいわ。」

 ラタトゥイユ風にしても美味しいだろうな。


「美味いな。」

「うん。とろける。」


 ドローガ村の特産品へちまもだけど、野菜も大量に買ってバッグに入れておきたいくらい。

 今日色々買っておいてよかった。明日はへちまも買っておこう。


 夕食を食べ終わった後、外はもう暗くなっていた。


 部屋の窓から見える畑には、ランタンがあちこちで灯されて幻想的な風景が広がっていた。

 魔物対策として、灯りは欠かせないそうだ。

 見張り台の上の方では松明で暖を取りながら座っている人も見える。

 エルドラドではあまり見ない光景で、窓からの景色を楽しんでいると、ドアをノックする音が響いた。


 応対すると、先ほど食事の時に給仕をしてくれた人だった。


「おやすみになる時、明るくても眠れますか? もし暗い方がお好みでしたら、遮光材を設置いたします。」


 なるほど、窓を見ればカーテンのようなものはない。寝ている時も、外の明かりが部屋に入ってくるだろう。

 聞けば、ドローガ村には魔物が来ても実眼でしか察知できない人が多いため、窓から入る情報を遮断しない風習があるらしい。


 郷に入っては郷に従えだよね。


「このままで大丈夫です。」

「わかりました。」

 にっこり笑って、それから…とポケットから小さなガラス瓶を取り出した。

「これ、ヘチマ水で作った保湿液のサンプルです。

 お肌が綺麗になるので、ドローガ村の女性の筆順品なんですよ。

 下の受付で期間限定販売しています! よろしかったら試してみて下さいね。」


 なんと宣伝!

 お礼を言いながら受け取ってふと見ると、なるほど。

「もしかしてあなたも使ってます?」

「はい! わかってもらえましたか?」

 そういって嬉しそうに笑った。


 しばらくへちまの保湿液について談話しているうちに、彼女の名前はソフィさんと知った。

 気さくで押し付けがましくない。親しみやすい笑顔の女性で、好感が持てた。

 男性にも女性にも好かれそうな人だな。


 ありがたくへちまの保湿液を受け取り、部屋でシャワーを浴びてから早速使ってみた。

 手のひらに出したときはするするしていて、頬に塗ると肌にしみ込んでいった。

 触れると掌に吸い付いてモチモチする。

 これは明日の朝が楽しみね。


 こっそり鑑定してみたら、ヘチマ水とスライムエキスが材料になっていた。

 スライムって素材になるんだね。

 どうやって素材にするんだろう。

 スライムのかわいそうな最後を想像しそうになって、急いで頭を振って考えるのをやめた。


「デス、明日はどうしようか。」

「そうだな。この村でもう1日散策してもいいし、さっそくブライへ向かってもいいぞ。」

「うーん。依頼達成報告は急ぎじゃないし、ここまで苦労して来たから、すぐに出発するよりもう少し散策したいかな。」


 村と言っても1日で全部は回っていない。もう少しこののんびりした村を楽しんでから帰りたいかな。

 何より食べ物が美味しい。

 もっといろんな屋台で買って食べてみたい。


「明日はここでのんびり行くか。」

「ありがとう!」


 明日はゆっくりできるからと

 デスがお茶セットを出して来て、テイ茶を作ってくれた。


「ありがとう。」

 甘酸っぱい香りを吸ってから一口含む。

「美味しい。今日もいろいろ茶葉を買えたね。」

「ああ。美味いブレンドを見つけてから飲ませてやる。」

「わ。楽しみ!」


 それから今日買ったハーブでどんなお茶にするか、調合には使えるのか調合全集を見たり、この辺りで採取できる植物や素材についてしばらくデスと語り合った。

 テイ茶にオレンジピールと蜂蜜を入れたお茶を新たに作ってもらったり。

 楽しい時間を過ごしているうちにうつらうつらとしてきて、いつの間にか眠っていた。


 私いつの間にベッドに入ったんだっけ……。

 デスかなと思いながらそのまま意識を手放した。



読んでくださってありがとうございます。

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